その①

文字数 1,875文字

「その話は本当なのか、丙警視?」

 丙は、松平の面会に訪れていた。逮捕された東邦大会の構成員たちは、大会の情報を全く漏らそうとしない。しかし、松平はどうだろうか。そう考えたのである。

「勝手に昇進させるな。私は警部だ…」

 丙の考えは、良かった。松平は大会のことについて、質問されると素直に応じる。だが逆にその態度が、丙の中に怪しさを生む。

「……何でこんなに話せる? 情報源がお前だとわかったら、大会の仲間に報復されかねないだろう?」
「その心配はないぜ。もう東邦大会は後戻りできないんだ。ここまで来てしまったら、破滅に向かって突っ走るだけ。その未来は、変えようがない。一般構成員の中にはもう警察に逮捕されるのが秒読みと予感して逃げ出してる奴らだっているだろうし、さぁ」
「そうか」

 丙には神通力はない。それに松平の見たという未来のビジョンもわからない。だが一つだけ言えることは、東邦大会の終わりが近づいているということ。

「警部さん、大会の事務所で死人が出て、他にも逮捕された者もいるんだろ? ガサ入れの手筈でも整えたらどうだ? 今なら多分、リーダー格の清水も逮捕できるだろうよ」
「その清水が、親玉か?」
「正確には違うんだが、そういうことになっている。まあそれももうすぐ意味がなくなるんだろうけどな」

 丙はその松平の発言を、「東邦大会には代表役が存在せず、全員で話し合って大会の方針などを決めている。清水という人物が書類上のリーダーである」と解釈した。実際には、清水よりも上の人物がいるが警察ではたどり着けないだろうと思っての松平の発言。

「とにかく、東邦大会はもう滅んだも同然! 放っておいても終わるさ、全てな」

 それ以上は何も言わなかったので、丙も何も聞かなかった。


 そして……松平が予知した未来が現実のものになろうとしている。この日の放課後、縁は写真部には行かない。

「今日の朝、こんなものが届いた」

 鍍金たちを集めて、秘密の会議を開く。小戸家のポストに投函されていた一通の手紙。それは東邦大会から送られたものだ。

「もう、終わりにしよう」

 本文は、それだけだ、後は時刻と住所、そして差出人が記載されているのみ。

「つまり、この時間にこの場所に集まって最後の戦いをしましょう、ってことですか?」

 鍍金が言うと、縁は頷く。

「でもそれには、デスファイトしようとは書かれてないじゃない? もしかしたら妥協案であって、縁君の言い分を聞いてくれるかもしれない、ってことかしらね」

 菫の意見も一理あるが、

「んなわけねえだろうが! 何人檻の中に放り込んだと思ってるんだお前は? 今更縁の無実の言い分を聞きますって、そんなわけねえだろうが。戦うんだよ、これはな!」

 烽の全身の血が、熱くなる。

「だけど…いいかい?」

 ここで縁は、

「鍍金たちが加勢するのは最後の最後にしたい。僕だけではどうしようもなくなったその時だけ。戦うのは、僕だけでいい」

 と、ハッキリと言った。

「何を言ってるんですか、縁君? 危険ですよ? 相手の人数すらわからないというのにそんな考えは、自殺と同じです」

 もちろん反対されるが、

「でも! 僕は僕で、ケジメをつけたいんだ。どうして東邦大会が僕に疑いをかけたのかは知らない。何がキッカケだったのかもわからない。でも、これは僕と東邦大会との間の戦いだ。僕が巻き込んでしまっただけで、本来なら君たちは無関係なんだ。だからこそ、最後は僕の手で閉める!」

 その覚悟は、並みの人間では抱くことができないレベル。

「…わかったよ! でも縁、お前が負けそうになったら、文句なしに俺らも戦うぜ。それでいいな?」

 縁は頷いた。

 一度、帰宅する。その帰り道で縁は美樹に捕まった。

「縁、ヤクザと決闘するの?」

 彼女はさっきの秘密の会議を影で聞いていたのだ。幼馴染として、危険なことに手を突っ込む前に止める。そんな使命感が彼女を動かした。

「止めないでくれ、美樹。僕は決意した。この不毛な戦いを、今日終わらせる!」

 当初美樹はどんな手を使ってでも、縁を止めるつもりだった。だがギラギラと燃えるその瞳の炎を見た途端、それは不可能なことと悟った。
 ならば、せめて。

「必ず帰って来てよ!」

 縁を送り出すことが、自分の使命。だから美樹はそう言った。そして縁も、

「わかっているよ。僕は負けない。必ず戻ってくるさ!」

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