その①

文字数 1,372文字

 今日の夜は隆康の当番だが、ターゲットが多めのために全員が人を傷つけることができる。

「知ってるか? このガキども………。いじめがエスカレートしちゃって、最終的に死なせたんだぜ!」

 マスコミすら報道しないターゲットの素性を調べ上げる能力には、感服できるところが少しある。実際に今隆康に捕まっている子供はまだ小学生だが、いじめの常習犯だ。しかも学校はいじめを認めようとしなかったために、もみ消された。だからその子供たちは、自分たちは特別だとか、悪事は絶対にバレないとか思い始めている。そして新しい標的をもう見つけ、いじめを始めている。

 だが、相手が悪かった。隆康はまず一人目の頭を掴むと、思いっきりコンクリートブロックにぶつける。

「うわあああん!」

 子供は痛みに耐えきれず、当然泣き出す。しかし彼はやめない。今度は子供の腹に左ストレートを食らわせた。すると子供は嘔吐した。

「ふっふっふ! 楽しいな~!」

 圧倒的な力でなぶることが、隆康にとっては至高の幸福だ。誰よりも自分が上であると思える瞬間なのだ。

「やめて!」

 子供も黙ってはいない。最後の力を振り絞って拳を振り、抵抗する。しかし、普通の人、それも子供では神通力者の相手は絶対に務まらない。逆に腕をねじ切られた。

「もうトドメだな! 死にな!」

 首の骨を九十度以上折り曲げた。すると子供は永遠に黙った。

「みんなはどうだ?」
「順調だ…」

 伊集院が代表して答える。子供相手なら、神通力を使う必要もない。現に伊集院、子供の体を真っ二つに引き裂いてしまった。

「子供の悲鳴はうるさいだけなんだよね…」

 逆に犁祢は神通力を使う。聞くに堪えない声は、そもそも出させない。酸素を奪い、呼吸を封じて死に至らしめるのだ。

「おねえちゃん、助けて!」
「うん? でもその台詞は、あなたたちがいじめて死なせた子も何度も言ったんじゃない?」

 心は一瞬だけ、聞く耳を持つフリをした。

「だから駄目。助けられないの……。いじめは犯罪と一緒だよ? 死んでから後悔するのね……」

 そう言うと、子供の顔を掴んで何度もコンクリートに叩きつける。気がついたら真っ赤に、頭部は完全にへこんでいた。

「私はちょっと抵抗があります…」

 そう言うのは愛倫だ。彼女は子供を手にかけることは好まない。

「そうか。じゃあ俺がもらおうっと!」

 でも、見逃す気もない。隆康の目の前に突き出し、彼にやらせる。鋭い手刀が首を切り裂くと、鮮やかな血が噴き出した。

「今日はこのくらいでいいだろ? 一度に六人も始末するのは初めてだったが、子供じゃ物足りない感じがするな…」

 近くの川で返り血を洗い流すと、またビルの屋上に戻る。そして今日も雑談をして解散だ。

 彼らは、自分たちが正義とは思っていない。当然だ、人を殺すのが正義であるわけがない。そう学校でも習うのだから。だが、この犯罪都市では時として彼らの行為が好意的に受け止められることがあるのだ。
 次の日から、犁祢たちが手にかけた子供にいじめられていた子は、元気に登校できるだろう。もう自分を虐げる存在はこの世にいないのだから。そう考えると、その子はこの、月夜に悪者を始末する犁祢たちに感謝しているのかもしれない…。
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