番外編②-6 – 取り調べ③

文字数 2,719文字

「(不協の十二音……!)

 横手の「仮面を着けた2人組」という一言に対して杉本、鶴川、狩野の3人は不協の十二音の関与を確信する。

「どのような仮面の2人組だったかお教え頂けますか?」

 杉本の質問に対して横手は淡々と話し始める。

「1人はガタイの良い男で身長は190くらいだな。そいつは石みてーにゴツゴツした感じの仮面でGOLEMって名乗ってたぜ。もう1人は175くらいの男だ。グレーの仮面で頭の上からいくつか鼻に向かって曲線に裂けてて中には黒色で蜂の巣みてーな模様した、宇宙人みてぇーな気持ち悪い仮面着けてるSHADOWって名前の奴だ」

 杉本は4年前の不協の十二音によるサイクス第一研究所襲撃事件の資料、13人の仮面の面々を捉えた映像を思い返す。

「(十二音の中ではJOKER、JESTERはよく問題を起こしている者ですね。時折、仮面を外して素顔を晒していますが不思議なことに素性が分からない。そして先の第三地区高等学校での騒動でMOON、DOCという存在も知られました。仮面の特徴から今回、彼らは該当しない……)」

 杉本の頭には4年前での数少ない映像資料が脳内で再生される。JOKERのナイフによって被害者が切り刻まれる風景、JESTERの黒いサイクスに巻き込まれて身体をバラされる者たちの風景、雷鳴轟く中で笑うQUEEN、意思に反して操られ、同士討ちを始める者たち、そして……

「(その様子を静観する黒い薔薇に顔全体を覆われたマスカレードマスクを着ける男・MAESTRO。確認した映像では彼は何をする様子もありませんでしたが……)」

 その中で杉本は横手の証言に合致するようなマスクを見つけ出そうとする。ガタイの良い石仮面柄の男は身体変化させて拳で地面に巨大なクレーターを作り出していた様子を、人ならざる不気味な仮面を着けた男は足元から何かが伸びる様子を思い出す。

「なるほど。そのどちらかの男の超能力が場所を隠せるものだったということですね?」
「あぁ。2人目の男の方がその超能力だ」
(よろ)しければその者の超能力や経緯、お教え頂けますか?」
「さっきの話、本当だろうな?」

 横手は眉間にシワを寄せながら杉本を見て念押しのために確認する。

「勿論です」

 杉本の返答を聞いて満足そうな笑みを浮かべた後に説明を始める。

「3年前に奴らは俺たちの前に現れた。血をよこせってな」
「血を?」
「あぁ。その条件と引き換えにオークションの開催が安全にできるようにしてやるってな」
「それでその条件を飲んだわけですね」

 横手は杉本に人差し指を向けながら話し始める。

「あの2人を目の前にした瞬間、喧嘩売っちゃいけねぇ相手だって悟ったんだよ。あまりにも格が違ぇーってな。さっきのお前らのとこの奴と似たようなもんさ……」
「藤村課長のことですか?」

 横手は藤村に一瞬で戦闘不能にされたことを思い出したのか苦虫を噛み潰したような顔をしながらコクッと頷く。

「それにこっちは丁度その時期に海外の組織とのパイプが出来上がって珍しいモンが手に入れられるようになったんだ。ただうちは出来上がったばかりの新興組織。元々はヤクの売買や詐欺で細々と稼いでたようなチームだ。オークションを開くにも十分な警備を揃えられねぇ。建設に金かかるしな」
「開催するためには他の組織の協力を(あお)がねばならない」
「そうだ。そうなってくると見返りに金を要求されたり、共催に持ち込まれたりされて最悪、メインを奪われる。そいつの超能力を見てうちのトップが納得して建設の決断に至ったんだよ。言われた通り1番下の階にホール造ってな」

 横手は一度ここで話を切り、その超能力のことについて話を始める。

「見たままを伝えるぜ。超能力の詳細まで分かってねーからな……。SHADOWって奴は会場の明かりを全て消すように毎回要求するんだ。言う通りにすると地面から影が這い上がってきて全体を覆うんだ。外から見ると地下4階自体が無くなっちまう。あと最初、試しに別の建物を使ってその超能力を見せてもらった時には建物全体がその黒い影に包まれてその場から建物が消滅するんだ。初めからそんなもの無かったかのようにな」

 杉本は「なるほど……」と呟いた後に頭の中で整理しているのか、手を口元に置き、どこか一点を見つめながら考え込んでいる。先に鶴川が横手に質問する。

「もう1人の……GOLEMって奴の超能力を知ってるのか?」

 横手は藤村に杉本の隣に立つ鶴川の顔を見上げて話し始める。

「それに関しては今回、奴らが手を引きやがったことにも関連するんだが……」

 その言葉を聞いて杉本は興味津々といった表情になり、少し身を乗り出しながら横手の話を注意深く聞く。

「さっき言ったように定期的にDEEDの構成員の血を提供してくれればさっきの超能力で協力してくれるって話だったんだ。けどよ、うちの中でも得体の知れない連中の言いなりになってんのが気に食わねぇって奴らが多かったのと、いちいち面倒くせーってのもあってその辺でとっ捕まえたガキの血やヤクでラリった奴らの血とかを適当に抜いて渡してたんだよ」

 横手は一度話を切って軽く舌打ちをした後に話を再開する。

「2日前にそのGOLEMって奴、とんでもねぇサイクスを纏いながら身体が石みてぇに変化して、ただでさえデケェ図体が更にデカくなってよぉ。キレだしたんだ。『契約不履行だ』ってな。特にガキの血を渡していたことにご立腹な様子だったぜ」
「それで協力を得られなくなったと?」
「そうだ。こっちはてんやわんやだ。別組織の連中は自分たちの信用する奴を警護に連れてくるから問題無かったが、問題はその他の連中さ。直前に中止なんてなったら俺たちの面子に関わる。俺たちもフル動員で警護に充てたが限界があったんだ。そのタイミングであんたらに詰められてこのザマさ」

 再び杉本が何やら考え込んで黙っている様子を見て狩野が「残りは2分です」と残り時間を告げる。それを聞いて杉本は横手に礼を言い始める。

「ご協力ありがとうございます」
「あぁ。さっきの話、よろしく頼むぜ」
「えぇ。DEEDの残りの皆さんが逮捕出来るように皆さんが尽力するでしょう」

 その言葉を聞いて横手は「あ? 何言ってんだ?」と困惑した様子で言葉を発する。

()()()とお伝えしたはずです。正確には一課の私と鶴川くんのことですが。そもそもこれは僕たちの担当ではないのですよ。そして協力してくれたことはお伝えできても後の判断は組織対策部の皆さんにお任せします」
「テメェ……!」

 杉本は笑顔で「それでは」と告げ、狩野に合図し、3人は取調室Bを後にした。

 取調室Bの中では横手が机を強く叩きつけ1人佇んでいた。



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