第24話 - レンズとロスト
文字数 2,892文字
––––"2人でお茶を "!
月島愛香が現場で超能力を発動する。現場は東京都第3地区13番街第2セクターのオフィス密集地帯。各地区はセクターで分けられ、それぞれの建物に番号が割り振られてそれが住所となる。今回、小野建設が建設していた建物には41番が割り振られる予定だった。
被害に遭った13名全員超能力者で4名が死亡、9名が身体の不調やサイクスのコントロールを失って怪我をし、病院に搬送された。
当初は事故とされたがこれが同日に起こった事が不自然とされ事件の可能性を考慮し、愛香たちが召集された。
「4人一気に観るのも大変ね、考えて"切り抜き"もしないといけないし。無理しないでね愛香」
玲奈が愛香に話しかける。
「うん……」
少し浮かない表情を浮かべる愛香。その視線は少し遠くを意識している。
「瑞希ちゃんのことでしょ? 大丈夫よ、愛香」
瑞希がサイクスの訓練を行っているサイクス第二研究所は第4セクターの14番 。現場とは異なるセクターだが高速道路を利用して15分ほどで着き、うっすらとその建物がここから見ることが出来る。
「それもあって瑞希ちゃんが研究所へ来ないように花さんが指示したんじゃない。心配ないわ」
「だと良いけど……あと上の指示とは言え霧島くんの参加も私は反対よ。瀧さんも課長も何を考えてるの」
愛香の意見はもっともだ。いくら将来有望と言えどもまだ高校1年生だ。だが、年々増え続ける超能力者と彼らによる凶悪犯罪。これらを正す為にも将来有望な超能力者には若い時から経験を積ませようという上の考えも分からなくもない。特に霧島君は進路希望も合致している。
「(これはあくまでも私の意見だけど……)」
恐らく超能力者を扱う捜査官は増え、その年齢は若くなるだろう。1つは特別教育機関に入るような才能ある超能力者を捜査に加えて事件解決をより迅速に進めるため、そしてもう1つは警察組織に若い頃から所属させ新たな犯罪者の誕生を抑制させるためだ。
愛香は既に超能力によって現場監督である中田淳のリプレイを開始している。
「(現場監督の中田淳は鉄骨が落下してきてそれによって死亡しているわね)」
愛香は中田の行動を注意深く観察する。
中田が手をかざす。愛香はその先を見ながら鉄骨をサイクスで支えていることを理解した。そして何かを話している素振りを見せる。
「(目撃者たちの話から安全管理の面から指導を行っているのね。ここからどうなる?)」
中田の表情が一瞬曇り、上を見上げる。鉄骨がある場所だろうか。そこから汗が吹き出し、膝から崩れ落ちる。そして上を見上げたまま身動きが取れずに横たわって動かなくなった。
「(鉄骨に押し潰された訳か。彼の反応からしてサイクス切れまたは突如サイクスのコントロールを失った。だけど2分くらい"超常現象 "を使いながら話しただけでサイクス切れを起こす? 使う前の表情から見て初めからサイクス量がギリギリだったなんて事はないはず。じゃあなぜ……?)」
愛香は他の犠牲者3人のリプレイも開始する。
「(中田と同じく鉄骨の落下と落下死2件。4人とも死の直前の反応が概ね同じ。病院に搬送された9人を含めて同日、しかもあまり時間差無くサイクス切れやサイクスのコントロールが失われたりする?)」
「玲奈、ここの現場で働いている超能力者は13人だけ?」
玲奈は手元の資料に目線を移してしばらく眺めた後に答える。
「えぇ。13人で全部よ」
「いきなりサイクス切れやコントロールを失うことなんてある?」
「考え辛いわね」
「考えられるとしたら……」
愛香が少し間を空けて続ける。
「後天性超能力者ね」
「この日、現場の誰かが後天的にサイクスを発現し、その超能力でこの事故が起こった?」
「サイクスの暴走の場合、その場にいる全員に被害が及ぶはず。ただ今回、被害に遭ったのは超能力者のみ。超能力者に恨みがあってそれが超能力になった可能性があるわ」
「聞き込みだな」
瀧が2人の後ろから声をかける。
「えぇ。責任者に聞いたところ、この現場で働いている人数は被害者を除いてあと31人。全員自宅待機ですね」
「あとは入院中の9人にも聞く必要があるな」
愛香が2人に尋ねる。
「現場の防犯カメラは?」
「一通り見てるがサイクスを発してる人物はいなかったぞ」
様子を見ていた和人が恐る恐る口を挟む。
「あの……もしも発動条件だった場合……?」
3人が一斉に和人の方を振り向く。
「と言うのは?」
玲奈が尋ねる。
「例えばインナー・サイクスで体内にサイクスを留めている状態じゃないと発動しない超能力だとか……」
「なるほどな」
瀧が呟く。
「よし、和人。新しいサイクスの技術を教えるぜ。これは"レンズ"と呼ばれるもので目にサイクスを集中させて隠れたサイクスを見破る技術だ。インナー・サイクスで体内に留められているサイクスも見破ることが可能だ。因みにサイクスを見えにくくする技術のことを"ロスト"と言う。ちなみにお前、サイクスがどこでどうやって作られるか知ってるか?」
瀧の問いかけに対して和人は少し考えた後に答える。
「えっと……。どういう仕組みなのかはまだ習ってないですが、心臓から作られるんですよね?」
その返答に対して瀧は「まぁ、そんなもんか」とだけ続けて和人に話し始める。
「まぁ、半分正解、半分外れってところだ。体内で作られるってのは正しい。フィジクスとかあの辺の話は大学ででも学べ。とにかくサイクスは体内で作られ、血液を通して全身を巡る。そして細胞から浸み出し、最終的に表皮から色の付いた気体として体外に放出される」
「なるほど?」
瀧は和人の表情を見て一瞬言葉を切り、更に続ける。
「サイクスの扱いに長けた超能力者の体外に出ているサイクスからフローを読み取ることは困難だ。彼らは主に体内でサイクスをコントロールすることで配分を変化させている」
「それを読み取る為にもレンズは必要不可欠な技術ってことですね」
「その通り。まぁそのうち慣れるさ。さて早速見てみるか」
瀧、玲奈 、愛香は目にサイクスを集中させて防犯カメラの映像を観る。
3人はサイクスが蠢き、まるで口の形になって超能力者のサイクスを喰らっている様子を見てとれた。そのサイクスの始まりは1人の男から発せられていた。
「和人が言ったようにインナー・サイクスを行っている様子はないが自然とロストを行って見えないようになってたんだな。これが発動条件かどうかは今の段階では分からんが。ナイスだ和人」
和人は少し照れ臭そうに笑った。
「後天性って考えた時点でロストのような応用技術を駆使しているなんて発想はないですからね。発動条件って考えだとそれが正しいかどうかは別として可能性が広がりますもんね」
「とにかく責任者の方に連絡してこの男の名前と住所を特定しましょう」
その後、樋口兼という名前と住所を特定した。
後天性超能力者で他人のサイクスを奪う、特異型超能力者。樋口の住所へと全員は向かうこととなった。
月島愛香が現場で超能力を発動する。現場は東京都第3地区13番街第2セクターのオフィス密集地帯。各地区はセクターで分けられ、それぞれの建物に番号が割り振られてそれが住所となる。今回、小野建設が建設していた建物には41番が割り振られる予定だった。
被害に遭った13名全員超能力者で4名が死亡、9名が身体の不調やサイクスのコントロールを失って怪我をし、病院に搬送された。
当初は事故とされたがこれが同日に起こった事が不自然とされ事件の可能性を考慮し、愛香たちが召集された。
「4人一気に観るのも大変ね、考えて"切り抜き"もしないといけないし。無理しないでね愛香」
玲奈が愛香に話しかける。
「うん……」
少し浮かない表情を浮かべる愛香。その視線は少し遠くを意識している。
「瑞希ちゃんのことでしょ? 大丈夫よ、愛香」
瑞希がサイクスの訓練を行っているサイクス第二研究所は第4セクターの14番 。現場とは異なるセクターだが高速道路を利用して15分ほどで着き、うっすらとその建物がここから見ることが出来る。
「それもあって瑞希ちゃんが研究所へ来ないように花さんが指示したんじゃない。心配ないわ」
「だと良いけど……あと上の指示とは言え霧島くんの参加も私は反対よ。瀧さんも課長も何を考えてるの」
愛香の意見はもっともだ。いくら将来有望と言えどもまだ高校1年生だ。だが、年々増え続ける超能力者と彼らによる凶悪犯罪。これらを正す為にも将来有望な超能力者には若い時から経験を積ませようという上の考えも分からなくもない。特に霧島君は進路希望も合致している。
「(これはあくまでも私の意見だけど……)」
恐らく超能力者を扱う捜査官は増え、その年齢は若くなるだろう。1つは特別教育機関に入るような才能ある超能力者を捜査に加えて事件解決をより迅速に進めるため、そしてもう1つは警察組織に若い頃から所属させ新たな犯罪者の誕生を抑制させるためだ。
愛香は既に超能力によって現場監督である中田淳のリプレイを開始している。
「(現場監督の中田淳は鉄骨が落下してきてそれによって死亡しているわね)」
愛香は中田の行動を注意深く観察する。
中田が手をかざす。愛香はその先を見ながら鉄骨をサイクスで支えていることを理解した。そして何かを話している素振りを見せる。
「(目撃者たちの話から安全管理の面から指導を行っているのね。ここからどうなる?)」
中田の表情が一瞬曇り、上を見上げる。鉄骨がある場所だろうか。そこから汗が吹き出し、膝から崩れ落ちる。そして上を見上げたまま身動きが取れずに横たわって動かなくなった。
「(鉄骨に押し潰された訳か。彼の反応からしてサイクス切れまたは突如サイクスのコントロールを失った。だけど2分くらい"
愛香は他の犠牲者3人のリプレイも開始する。
「(中田と同じく鉄骨の落下と落下死2件。4人とも死の直前の反応が概ね同じ。病院に搬送された9人を含めて同日、しかもあまり時間差無くサイクス切れやサイクスのコントロールが失われたりする?)」
「玲奈、ここの現場で働いている超能力者は13人だけ?」
玲奈は手元の資料に目線を移してしばらく眺めた後に答える。
「えぇ。13人で全部よ」
「いきなりサイクス切れやコントロールを失うことなんてある?」
「考え辛いわね」
「考えられるとしたら……」
愛香が少し間を空けて続ける。
「後天性超能力者ね」
「この日、現場の誰かが後天的にサイクスを発現し、その超能力でこの事故が起こった?」
「サイクスの暴走の場合、その場にいる全員に被害が及ぶはず。ただ今回、被害に遭ったのは超能力者のみ。超能力者に恨みがあってそれが超能力になった可能性があるわ」
「聞き込みだな」
瀧が2人の後ろから声をかける。
「えぇ。責任者に聞いたところ、この現場で働いている人数は被害者を除いてあと31人。全員自宅待機ですね」
「あとは入院中の9人にも聞く必要があるな」
愛香が2人に尋ねる。
「現場の防犯カメラは?」
「一通り見てるがサイクスを発してる人物はいなかったぞ」
様子を見ていた和人が恐る恐る口を挟む。
「あの……もしも発動条件だった場合……?」
3人が一斉に和人の方を振り向く。
「と言うのは?」
玲奈が尋ねる。
「例えばインナー・サイクスで体内にサイクスを留めている状態じゃないと発動しない超能力だとか……」
「なるほどな」
瀧が呟く。
「よし、和人。新しいサイクスの技術を教えるぜ。これは"レンズ"と呼ばれるもので目にサイクスを集中させて隠れたサイクスを見破る技術だ。インナー・サイクスで体内に留められているサイクスも見破ることが可能だ。因みにサイクスを見えにくくする技術のことを"ロスト"と言う。ちなみにお前、サイクスがどこでどうやって作られるか知ってるか?」
瀧の問いかけに対して和人は少し考えた後に答える。
「えっと……。どういう仕組みなのかはまだ習ってないですが、心臓から作られるんですよね?」
その返答に対して瀧は「まぁ、そんなもんか」とだけ続けて和人に話し始める。
「まぁ、半分正解、半分外れってところだ。体内で作られるってのは正しい。フィジクスとかあの辺の話は大学ででも学べ。とにかくサイクスは体内で作られ、血液を通して全身を巡る。そして細胞から浸み出し、最終的に表皮から色の付いた気体として体外に放出される」
「なるほど?」
瀧は和人の表情を見て一瞬言葉を切り、更に続ける。
「サイクスの扱いに長けた超能力者の体外に出ているサイクスからフローを読み取ることは困難だ。彼らは主に体内でサイクスをコントロールすることで配分を変化させている」
「それを読み取る為にもレンズは必要不可欠な技術ってことですね」
「その通り。まぁそのうち慣れるさ。さて早速見てみるか」
瀧、玲奈 、愛香は目にサイクスを集中させて防犯カメラの映像を観る。
3人はサイクスが蠢き、まるで口の形になって超能力者のサイクスを喰らっている様子を見てとれた。そのサイクスの始まりは1人の男から発せられていた。
「和人が言ったようにインナー・サイクスを行っている様子はないが自然とロストを行って見えないようになってたんだな。これが発動条件かどうかは今の段階では分からんが。ナイスだ和人」
和人は少し照れ臭そうに笑った。
「後天性って考えた時点でロストのような応用技術を駆使しているなんて発想はないですからね。発動条件って考えだとそれが正しいかどうかは別として可能性が広がりますもんね」
「とにかく責任者の方に連絡してこの男の名前と住所を特定しましょう」
その後、樋口兼という名前と住所を特定した。
後天性超能力者で他人のサイクスを奪う、特異型超能力者。樋口の住所へと全員は向かうこととなった。