第117話 - 問題

文字数 2,729文字

 那由他ビルが倒壊し、MOONが"月に憑かれたピエロ(ピエロ・リュネール)"・"舟歌(バルカローレ)"の演奏によって召喚された巨大な漆黒の蝶、"(ナハト)"にJOKER、PUPPETEER、QUEENの3人を乗せて能古島の遥か上空を舞う。

「わざわざ迎えに来てくれるなんて僕らまるでVIP待遇だねぇ」

 JOKERがマスクを外してクルクルと回して遊びながらMOONとQUEENに話しかける。

「JESTERからのSOSがあったからよ。DOCのペンダントが発動したから。結構苦労したみたいね? あなたが結構サイクスを消費しているなんて珍しいもの」
「子守りしながらだとちゃんと闘えないよね」
「DOCの"玩具修理工(プラモデル・リペアラー)"無かったら完全に死んでたわよ。子守りできてないじゃない」
「痛いところ突くねぇ〜」

 JOKERとQUEENの会話を聞きながらPUPPETEERが少し笑う。

「あなたもよ、PUPPETEER」
「ククク……そっちにも飛び火したねぇ」
「本当だよー。それに俺はどちらかと言うとレア度高い方だろ?」
「数でどうにかできるでしょ?」
「それに関してはJOKERが悪いよ。皆んな殺しちゃうんだもん」

 その一言を聞いてQUEENはJOKERの方を向く。

「そうなの?」
「そりゃあ、瑞希ちゃんのお祖父ちゃんを派手にお出迎えしようかなって」
「はい、ダウト」

 PUPPETEERがJOKERの言葉に対して口を挟む。

「JOKERがあの人が瑞希ちゃんのお祖父ちゃんって知ったのは暴力団の人たちを皆殺しにした後だよ」

 JOKERはバツが悪くなったのかマスクを再び顔に装着し、誤魔化そうと試みる。

「誤魔化せてないわよ、JOKER。死なない程度に抑えとけば死者5人、生者15人の20人は使える駒があったのよ」

 JOKERは少しだけ間を置いて何やら考えた後に話を始める。

「実際のところ、あんまり変わらなかったと思うよ」
「それに関してはJOKERに同感かも」

 PUPPETERRもJOKERの意見に同意する。

「3人共とっても強かったからね。それに瑞希ちゃんのお祖父ちゃん……仁さんだっけ? 彼まだまだ本調子じゃないって感じだったよ。他の2人も似たような感じさ。長らく生死をかけた闘いをしていなかったんだろうね」
「正直僕らもそうだったよね。JOKERはよく遊んでるみたいだけど最近、面白い相手がいないって言ってたし」
「その通り」

 仁、柳、鈴村に対する評価がJOKERとPUPPETEERとで一致していることからQUEENは感心した様子でその会話を眺める。

「へー、PUPPETEERだけでなくJOKERもそこまで言うってことは相当なのね。お祖父ちゃんの方は確かに強い感じだったものね」

 上空の風が一瞬強く吹きつけ、"(ナハト)"の上に立つ4人の服や髪の毛がなびく。8月半ばとなり真夏日和となっている地上とは正反対に若干の気温差がある。
 しかし、"(ナハト)"はMOONのサイクスに守護されており、快適に過ごせるようになっている。それでも風を感じることは出来てPUPPETEERはその風を触って楽しむようにして手首を上下に動かしている。

「で、僕らはどこに向かっているんだい?」

 JOKERがその沈黙を破る。QUEENはPUPPETEERと同じように心地良く風を感じた後にそれに返答する。

「"MAESTRO(マエストロ)"の"並行世界(ヌブル)"よ」

 JOKERとPUPPETEERは少し驚いたようにQUEENの方を向く。

「あれ? それってもしかして全員集合?」
「そうよ」

 PUPPETEERの質問に対してQUEENは即答する。

「13人……BOOKERを含めると14人か。揃うのは久しぶりだねぇ〜。楽しみだ」
「12人よ」

 JOKERはその返答に対して少し沈黙した後に聞き返す。

「何か問題?」
「欠員よ。1人は死亡、1人は敗走」
「へぇー、どなた?」
「"SHADOW(シャドウ)"と"GOLEM(ゴーレム)"よ」
「誰にやられたか分かってるの?」

 JOKERの問いに対してここまで沈黙を貫いていたMOONが口を挟む。

「"GOLEM(ゴーレム)"ハ瀧慎也ニ敗北シ、命カラガラ逃走。恐ラク脱退ヲ要求シテクルトMAESTROハ読ンデイル」

 JOKERはその言葉を聞いて嬉しそうに、そして興奮したようにMOONの方を向いて話し始める。

「瀧くんが! 成長したねぇ〜! "GOLEM(ゴーレム)"は戦闘系だし、彼に勝てるっていうのは素晴らしいものだよ! 殺し切れてないところがまだ甘さが残るところだけどねぇ。彼との殺し合いもそろそろかなぁ」

 QUEENはJOKERの様子を見ながらやれやれとリアクションをしながら話す。

「まぁ、"GOLEM(ゴーレム)"の場合は別の要因も絡んでる気がするけどね。あの人、"他所者"だし」
「ククク……役割的にそうなったのかな? それで、"SHADOW(シャドウ)"は死んだみたいだけどそちらは誰に?」

 QUEENはMOONの方を向く。MOONは少し沈黙を置いた後に答える。

「……藤村洸哉二敗北。自害ダ」
「へぇ〜。キミのことを考えて手を出さないようにしているけど大丈夫そうかい? MOON」
「問題ナイ。奴ノ始末ハ俺ガヤル」
「因縁だねぇ〜」

 MOONはそれ以上は何も言わずに前方を眺め始め、"月に憑かれたピエロ(ピエロ・リュネール)"を手に取り、再び演奏を開始する。

「"GOLEM(ゴーレム)"に関してはどうするの? 放っておくのかい? それとも僕が()ろうか?」

 JOKERのサイクスが禍々しく輝き始める。

「恐らくMAESTROが対処するわ」
「残念。ま、皆んなとの再会を楽しみにしようかな」

 JOKERは纏っていたサイクスを一瞬で引っ込めてつまらなそうな表情を浮かべながら再びマスクで遊び始める。

#####

––––東京都第10地区セクター3 樹海エリア

「月島さんに情が移ってしまいましたか? "GOLEM(ゴーレム)"さん、いや……」
「……」

 MAESTRO・葉山順也は静かにGOLEMと呼ばれた男に問いかけた。

「東京第3地区高等学校1年1組担任の内倉祥一郎さんと呼んだ方が良いですか?」

 内倉祥一郎は自身の赤いサイクスを放出して身体に纏い、頑強にそして巨大化する。

「俺は何もない平和な日常が恋しくなったんだ……。お前たちのことは誰にも何も言わない。約束する。だから不協の十二音を抜けさせてくれ」

 葉山は不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりと近付いた。



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