第47話 - 問診
文字数 2,130文字
3日間に及ぶ東京第三地区高等学校クラスマッチの終了後、学校側は警察の発表を受けて翌日6月29日木曜日と6月30日金曜日を休校とした。
また、クラスマッチ総合優勝は3年2組と発表され、表彰は学校が再開される7月3日の全校集会に行われることも同時にアナウンスされた。
今回の事件によって身体的・精神的ダメージを負った樋口凛は東京第三地区大学病院へ、月島瑞希と胸に傷を負った霧島和人はサイクス第二研究所の医療専門部へとそれぞれ入院となった。
事件のあった2日後の金曜日の正午過ぎ、サイクス第二研究所のロビーで玲奈と愛香が会話を交わす。
「瑞希ちゃんは?」
車椅子のホイールを少しいじりながら愛香が答える。
「既に目を覚ましてるわよ。みずはクラスマッチの試合での疲れはあったけど外傷なんかはなかったから。けど目の前で人の死、しかも首を刎 ねられるなんて残酷な現場を見たことのショックは大きかったみたい」
「まぁ、高校なりたての女の子だしねぇ。それにこの間の幼馴染みとの事件もあったばかりだし……色々とあり過ぎよ。あの場にいた霧島くんに問題ないのが普通じゃないのよ」
和人がJESTERから受けた胸の傷は浅く治療によって直ぐに完治した。樋口兼の事件現場で死体を目の当たりにしていたとは言え、目の前で起きた惨殺を見てもJOKERやJESTERに立ち向かって行った精神力は常人とは比較にならない。
「今瑞希は多田先生の所へ行ってるわ」
「多田先生なら安心ね」
「えぇ」
多田 泉 は精神科を専門とする医師である。
4年前の月島姉妹の両親が惨殺された事件。その現場に直接居合わせ、第一発見者であった愛香は大きな心の傷を負った。その治療に尽力したのが多田である。また彼女は当時11歳の瑞希のケアにおいても手を尽くした。
#####
瑞希は多田の待つ診療室へと繋がる廊下をゆっくりと歩く。白衣を着た研究者たちが周りを歩く。
本来、サイクス第二研究所は医療機関ではない。しかし、サイクスの研究において引き起こされた事故や世間を揺るがした事件において重要参考人だと思われる者、また、政府によって治療を求められた患者などはサイクス第二研究所に常設されている医療専門部で治療が行われる。
「(多田先生、会うの久しぶりだな)」
瑞希の脳裏にJOKERが首を刎ねるシーンが蘇り、心の底から寒気が込み上げ、軽く震える。
「(怖かった……)」
瑞希は両親の死体があまりにも酷い状態であったこともあり、その遺体を最後まで目にすることはなかったが、どのような死を迎えたかは知っている。
樋口兼の首が刎ねられる瞬間をリアルに見たことで自分の両親の死と結び付いてしまい、その精神的ダメージはより大きくなっている。
––––コンコンッ
瑞希が診察室の扉を軽くノックする。
「どうぞ」
中からの女性の声を聞いて瑞希は扉を開けて入室する。
「久しぶりね、瑞希ちゃん」
データを記入していた多田が左手にタブレットペンを握ったまま振り向き、瑞希の姿をじっくりと見つめる。
「3年振りかしら? 大きくなったわね。それに……」
多田はニッコリと笑顔になる。
「綺麗になった」
「ありがとうございます」
瑞希は少し頰を赤らめながら答える。
「高校はどう? 楽しい?」
「はい、クラスの皆んなも優しい人ばかりで毎日楽しいです」
「それは良かった! 瑞希ちゃん可愛いしクラスの男の子たちも放っとかないでしょ?」
「いや、そんなことは……」
瑞希の反応を見ながら多田は微笑み、書類に記入する。
「(不思議だなぁ。さっきまで人と話す気分じゃなかったのに)」
多田泉は先天性の精神刺激型超能力者である。彼女の超能力を発動するにはいくつかの条件が必要となる。その1つが診察室は扉が1つの個室であること。
そして個室に自身のサイクスを滑らかに充満させ、スムーズに患者のサイクスと触れ合わせる。そこから患者の精神状態を把握し、それを具現化した"精神問診票 "にサイクスを込めた指で記入する。
「(オーケー。会話においてはしっかりと応対出来るわね。深刻なレベルには達していない。じゃあ少し踏み込むか)」
「瑞希ちゃん、上野さんとの件、大丈夫だった?」
少し間が空き、瑞希のサイクスに若干の揺らぎが見られたが、瑞希は落ち着いた様子で答える。
「……はい、何とか。それに、私の周りには沢山の支えてくれる人がいるって気付いたから」
瑞希はp-Phoneを発動し、ピボットにウィンクする。
「へぇ。面白い超能力 ね。でもいつでも近くに話せる相手がいるのは良いことよ」
その後、瑞希の超能力発現に関してや学校生活、クラスマッチでの試合内容や練習などの会話を続け、JOKERやJESTERたちとの出来事について話し始める。
「怖かったね」
瑞希は目に涙を浮かべながら頷く。多田は瑞希を抱き寄せ落ち着かせる。
「ゆっくりで良いのよ」
多田は瑞希のサイクスから不安や恐怖の兆候を確認する。
瑞希がハンカチで顔を拭っている間、"精神問診票 "に記入する。そして多田は"精神問診票 "をファイルから取り外し、宙へ投げる。
多田は自身の超能力 を発動した。
また、クラスマッチ総合優勝は3年2組と発表され、表彰は学校が再開される7月3日の全校集会に行われることも同時にアナウンスされた。
今回の事件によって身体的・精神的ダメージを負った樋口凛は東京第三地区大学病院へ、月島瑞希と胸に傷を負った霧島和人はサイクス第二研究所の医療専門部へとそれぞれ入院となった。
事件のあった2日後の金曜日の正午過ぎ、サイクス第二研究所のロビーで玲奈と愛香が会話を交わす。
「瑞希ちゃんは?」
車椅子のホイールを少しいじりながら愛香が答える。
「既に目を覚ましてるわよ。みずはクラスマッチの試合での疲れはあったけど外傷なんかはなかったから。けど目の前で人の死、しかも首を
「まぁ、高校なりたての女の子だしねぇ。それにこの間の幼馴染みとの事件もあったばかりだし……色々とあり過ぎよ。あの場にいた霧島くんに問題ないのが普通じゃないのよ」
和人がJESTERから受けた胸の傷は浅く治療によって直ぐに完治した。樋口兼の事件現場で死体を目の当たりにしていたとは言え、目の前で起きた惨殺を見てもJOKERやJESTERに立ち向かって行った精神力は常人とは比較にならない。
「今瑞希は多田先生の所へ行ってるわ」
「多田先生なら安心ね」
「えぇ」
4年前の月島姉妹の両親が惨殺された事件。その現場に直接居合わせ、第一発見者であった愛香は大きな心の傷を負った。その治療に尽力したのが多田である。また彼女は当時11歳の瑞希のケアにおいても手を尽くした。
#####
瑞希は多田の待つ診療室へと繋がる廊下をゆっくりと歩く。白衣を着た研究者たちが周りを歩く。
本来、サイクス第二研究所は医療機関ではない。しかし、サイクスの研究において引き起こされた事故や世間を揺るがした事件において重要参考人だと思われる者、また、政府によって治療を求められた患者などはサイクス第二研究所に常設されている医療専門部で治療が行われる。
「(多田先生、会うの久しぶりだな)」
瑞希の脳裏にJOKERが首を刎ねるシーンが蘇り、心の底から寒気が込み上げ、軽く震える。
「(怖かった……)」
瑞希は両親の死体があまりにも酷い状態であったこともあり、その遺体を最後まで目にすることはなかったが、どのような死を迎えたかは知っている。
樋口兼の首が刎ねられる瞬間をリアルに見たことで自分の両親の死と結び付いてしまい、その精神的ダメージはより大きくなっている。
––––コンコンッ
瑞希が診察室の扉を軽くノックする。
「どうぞ」
中からの女性の声を聞いて瑞希は扉を開けて入室する。
「久しぶりね、瑞希ちゃん」
データを記入していた多田が左手にタブレットペンを握ったまま振り向き、瑞希の姿をじっくりと見つめる。
「3年振りかしら? 大きくなったわね。それに……」
多田はニッコリと笑顔になる。
「綺麗になった」
「ありがとうございます」
瑞希は少し頰を赤らめながら答える。
「高校はどう? 楽しい?」
「はい、クラスの皆んなも優しい人ばかりで毎日楽しいです」
「それは良かった! 瑞希ちゃん可愛いしクラスの男の子たちも放っとかないでしょ?」
「いや、そんなことは……」
瑞希の反応を見ながら多田は微笑み、書類に記入する。
「(不思議だなぁ。さっきまで人と話す気分じゃなかったのに)」
多田泉は先天性の精神刺激型超能力者である。彼女の超能力を発動するにはいくつかの条件が必要となる。その1つが診察室は扉が1つの個室であること。
そして個室に自身のサイクスを滑らかに充満させ、スムーズに患者のサイクスと触れ合わせる。そこから患者の精神状態を把握し、それを具現化した"
「(オーケー。会話においてはしっかりと応対出来るわね。深刻なレベルには達していない。じゃあ少し踏み込むか)」
「瑞希ちゃん、上野さんとの件、大丈夫だった?」
少し間が空き、瑞希のサイクスに若干の揺らぎが見られたが、瑞希は落ち着いた様子で答える。
「……はい、何とか。それに、私の周りには沢山の支えてくれる人がいるって気付いたから」
瑞希はp-Phoneを発動し、ピボットにウィンクする。
「へぇ。面白い
その後、瑞希の超能力発現に関してや学校生活、クラスマッチでの試合内容や練習などの会話を続け、JOKERやJESTERたちとの出来事について話し始める。
「怖かったね」
瑞希は目に涙を浮かべながら頷く。多田は瑞希を抱き寄せ落ち着かせる。
「ゆっくりで良いのよ」
多田は瑞希のサイクスから不安や恐怖の兆候を確認する。
瑞希がハンカチで顔を拭っている間、"
多田は自身の