番外編②-27 – 闘気強大拳 (ビッグ・ファイト・ストレート)
文字数 2,858文字
内倉の赤い鎧の内部から瀧と同じように湯気のようなものが立ち始める。
「お前、"鳴"を知ってんのか?」
瀧はその内倉の様子を見て彼も同じく霧島流心武源拳における"鳴"を会得しているのかを尋ねる。
「(サイクスを使った戦闘訓練は門下生であるかどうかに関わらず殆ど霧島流心武源拳の教えを核として指導される。秘技を使いこなせることはまず無いと思うが……)」
霧島流心武源拳の門下生はその修練によって様々な秘技を会得する。これらの技は属する型やサイクス量によって個人差はあるものの、固有の超能力とは別に使用することが可能である。
基本的に霧島流心武源拳は霧島浩三が開設している道場に入門することでその教えを受ける。しかし、その卒業生が開いている別の道場の生徒になる者や道場の卒業生に個人的な弟子となって指導を受ける者も存在する。
前者に関しては霧島道場に知らせる必要があるため把握されているが、後者に関してはその義務が無いため、完全には感知されていない。
「ふん、俺はそんな流派など知らん」
内倉は瀧の疑問に対して答え、更に続ける。
「これは俺の超能力・"俺の血となり肉となれ "の力の一部だ。圧力をかけることで血流を加速させて運動能力を飛躍的に向上させることができる」
つまり内倉はサイクスによって作り上げた鎧による防御、そして向上した運動能力を利用した攻撃を繰り出す。
「その効力は"鳴"に近いな」
瀧の言葉に対して内倉は笑う。それを見て瀧も鼻で笑い、正面から内倉に突進する。
––––ゴッ
瀧の右拳が勢いよく内倉を強襲する。内倉はそれを左手を曲げて防御し、受け切る。
––––ビリビリッ
「(素晴らしいプレッシャー……! 俺の鎧の上からでもこれほどまでに……! 生身では確実に受け切れなかったな)」
瀧は内倉の楽しんでいる表情を見て取る。
「結局お前も同じか……! 闘うのがそんなに楽しいか!?」
瀧は地面を蹴って跳躍し、内倉の顔面に向けて右脚で蹴りを入れる。内倉はその蹴りをそのまま顔面で受け止め、右拳で下から殴り上げる。瀧は左手の平で受け止めその勢いのまま更に上に飛ぶ。
––––"霧島流心武源拳・空王打 "
瀧は空中で態勢を整え、地上の内倉に向けて大気を殴打する。"空王打"は"鳴"によって体外に流れるサイクスの一部を拳の周りに集めそのまま殴打することでサイクスを相手に向けて放つ。
「ぐっ……!」
頭上から落下する強力なサイクスが直撃する。内倉は両手で防御して耐久するもののその圧力は凄まじく、道路にヒビが入って大きく凹む。
「(奴は!?)」
"空王打"による攻撃を防ぎながら内倉は瀧を見失う。
––––"霧島流心武源拳・王掌 "
瀧は内倉が"空王打"を防いでいる間に懐に潜り込み、内倉の右脇腹に掌底打ちを打ち込む。
「ゴフッ……!!」
瀧の繰り出した"王掌"は内倉の固い鎧をもろともせずに、その巨体ごとD–2ビルから道路を越えて向かい側にあるショッピングモールまで吹き飛ばされる。
「俺の鎧に穴を開けただと……!?」
内倉は完全に破壊された鎧の右脇腹部分右手で押さえ、更にそこからヒビが広がる鎧、そして顔周りを覆っていた鎧が剥がれる。更に内倉は激しく吐血し、体内に残るダメージに顔を歪める。
"王掌"はただの掌底打ちではない。寧ろこの技の真骨頂は攻撃を当てた後にある。体内の洗練されたサイクスを手の平へ移動させ、更に体外に纏うサイクスをも集中させる。
体外のサイクスの力によって対象のサイクスによる防御を突破、更に相手の体内に自身のサイクスを流し込むことによって内部ダメージを与える。
「ぐっ……サイクスのコントロールが……」
他者のサイクスが内倉に流れ込んだことでほんの数秒、自身のサイクスのコントロールを失う。
––––その数秒が命取りとなる。
「"稽古場 "」
瀧と内倉を中心としてドーム状のサイクスのフィールドが展開される。"稽古場 "は敵意や悪意、害意を持っている対象をその空間に閉じ込め、瀧との戦闘を強制する。
人一倍、正義感の強い瀧にとって悪は滅する対象。それは瀧の感情に呼応し、"稽古場 "内では瀧のサイクスが増幅される。
「(まずい……!)」
内倉はその瀧のサイクス量を見て戦慄する。
––––"俺の血となり肉となれ "!!!
「(最高出力で俺を守れ!!!)」
内倉はサイクスのコントロールが本調子に戻っていない時点から自身のサイクスのありったけを集めて再び鎧として身体全体を覆う。更に自身のサイクスを最大限に練り、瀧から繰り出されるであろう技に備えた。
その間、瀧は目を閉じて先刻、"鳴"を発動した時の構えから微動だにしない。
それでも内倉がこの一見すると隙だらけである瀧に対して攻撃を仕掛けずに完全防御に全意識を注いだのは、自身の攻撃が直撃するよりも早く、想像を絶する一撃が自分に向けられるという確信があったからに他ならない。
「"闘気強大拳 "!!」
眼前で静止していた瀧はそこから強力な正拳突きを内倉の腹部に打ち込んだ。その一連の動きは内倉にとっては滑らかに、且つ美しく行われたように思われたが、実際には一瞬の出来事であった。
目の前の脅威とそれに対して研ぎ澄まされた自身の警戒心とそれに呼応したサイクスが瀧の動きを捉えることを可能にしたのである。
––––ゴッッッッ!!!!
"稽古場 "は解除され、瀧は最初の構えに戻る。見た限りでは"稽古場 "が解除された以外には何の変化もないように錯覚させる。
––––否
瀧の眼前には建物や障害物を打ち破り、数百m先まで吹き飛ばされて辛うじて意識を保っている内倉がぐったりと倒れている。
「何て威力だ……」
内倉は力無い表情でグッタリと壁にもたれ、血を吐きながら遠く姿の見えない瀧のいる方角を真っ直ぐに見つめる。
「(やっぱり内倉の野郎は……)」
一方で瀧は自身の"闘気強大拳 "の威力からある確信を得る。
"闘気強大拳 "の威力は相手の悪意の強さに比例して増幅する。瀧が想定する"闘気強大拳 "の威力よりも下回ったことで、瀧は内倉に直撃する直前に手加減を加えた。
––––内倉と1対1で対話を交わすために
「よぉ……」
瀧は倒れ込む内倉に声をかける。内倉は力無く笑い、「殺せよ」と呟く。
「少し話しようぜ」
瀧は穏やかな、しかし芯の通った声で内倉に告げる。内倉はそれに返事をすることなく動かない。瀧はそれをイエスと取った。
内倉の脳裏には1人の女性の顔が浮かぶ。
「お前、"鳴"を知ってんのか?」
瀧はその内倉の様子を見て彼も同じく霧島流心武源拳における"鳴"を会得しているのかを尋ねる。
「(サイクスを使った戦闘訓練は門下生であるかどうかに関わらず殆ど霧島流心武源拳の教えを核として指導される。秘技を使いこなせることはまず無いと思うが……)」
霧島流心武源拳の門下生はその修練によって様々な秘技を会得する。これらの技は属する型やサイクス量によって個人差はあるものの、固有の超能力とは別に使用することが可能である。
基本的に霧島流心武源拳は霧島浩三が開設している道場に入門することでその教えを受ける。しかし、その卒業生が開いている別の道場の生徒になる者や道場の卒業生に個人的な弟子となって指導を受ける者も存在する。
前者に関しては霧島道場に知らせる必要があるため把握されているが、後者に関してはその義務が無いため、完全には感知されていない。
「ふん、俺はそんな流派など知らん」
内倉は瀧の疑問に対して答え、更に続ける。
「これは俺の超能力・"
つまり内倉はサイクスによって作り上げた鎧による防御、そして向上した運動能力を利用した攻撃を繰り出す。
「その効力は"鳴"に近いな」
瀧の言葉に対して内倉は笑う。それを見て瀧も鼻で笑い、正面から内倉に突進する。
––––ゴッ
瀧の右拳が勢いよく内倉を強襲する。内倉はそれを左手を曲げて防御し、受け切る。
––––ビリビリッ
「(素晴らしいプレッシャー……! 俺の鎧の上からでもこれほどまでに……! 生身では確実に受け切れなかったな)」
瀧は内倉の楽しんでいる表情を見て取る。
「結局お前も同じか……! 闘うのがそんなに楽しいか!?」
瀧は地面を蹴って跳躍し、内倉の顔面に向けて右脚で蹴りを入れる。内倉はその蹴りをそのまま顔面で受け止め、右拳で下から殴り上げる。瀧は左手の平で受け止めその勢いのまま更に上に飛ぶ。
––––"霧島流心武源拳・
瀧は空中で態勢を整え、地上の内倉に向けて大気を殴打する。"空王打"は"鳴"によって体外に流れるサイクスの一部を拳の周りに集めそのまま殴打することでサイクスを相手に向けて放つ。
「ぐっ……!」
頭上から落下する強力なサイクスが直撃する。内倉は両手で防御して耐久するもののその圧力は凄まじく、道路にヒビが入って大きく凹む。
「(奴は!?)」
"空王打"による攻撃を防ぎながら内倉は瀧を見失う。
––––"霧島流心武源拳・
瀧は内倉が"空王打"を防いでいる間に懐に潜り込み、内倉の右脇腹に掌底打ちを打ち込む。
「ゴフッ……!!」
瀧の繰り出した"王掌"は内倉の固い鎧をもろともせずに、その巨体ごとD–2ビルから道路を越えて向かい側にあるショッピングモールまで吹き飛ばされる。
「俺の鎧に穴を開けただと……!?」
内倉は完全に破壊された鎧の右脇腹部分右手で押さえ、更にそこからヒビが広がる鎧、そして顔周りを覆っていた鎧が剥がれる。更に内倉は激しく吐血し、体内に残るダメージに顔を歪める。
"王掌"はただの掌底打ちではない。寧ろこの技の真骨頂は攻撃を当てた後にある。体内の洗練されたサイクスを手の平へ移動させ、更に体外に纏うサイクスをも集中させる。
体外のサイクスの力によって対象のサイクスによる防御を突破、更に相手の体内に自身のサイクスを流し込むことによって内部ダメージを与える。
「ぐっ……サイクスのコントロールが……」
他者のサイクスが内倉に流れ込んだことでほんの数秒、自身のサイクスのコントロールを失う。
––––その数秒が命取りとなる。
「"
瀧と内倉を中心としてドーム状のサイクスのフィールドが展開される。"
人一倍、正義感の強い瀧にとって悪は滅する対象。それは瀧の感情に呼応し、"
「(まずい……!)」
内倉はその瀧のサイクス量を見て戦慄する。
––––"
「(最高出力で俺を守れ!!!)」
内倉はサイクスのコントロールが本調子に戻っていない時点から自身のサイクスのありったけを集めて再び鎧として身体全体を覆う。更に自身のサイクスを最大限に練り、瀧から繰り出されるであろう技に備えた。
その間、瀧は目を閉じて先刻、"鳴"を発動した時の構えから微動だにしない。
それでも内倉がこの一見すると隙だらけである瀧に対して攻撃を仕掛けずに完全防御に全意識を注いだのは、自身の攻撃が直撃するよりも早く、想像を絶する一撃が自分に向けられるという確信があったからに他ならない。
「"
眼前で静止していた瀧はそこから強力な正拳突きを内倉の腹部に打ち込んだ。その一連の動きは内倉にとっては滑らかに、且つ美しく行われたように思われたが、実際には一瞬の出来事であった。
目の前の脅威とそれに対して研ぎ澄まされた自身の警戒心とそれに呼応したサイクスが瀧の動きを捉えることを可能にしたのである。
––––ゴッッッッ!!!!
"
––––否
瀧の眼前には建物や障害物を打ち破り、数百m先まで吹き飛ばされて辛うじて意識を保っている内倉がぐったりと倒れている。
「何て威力だ……」
内倉は力無い表情でグッタリと壁にもたれ、血を吐きながら遠く姿の見えない瀧のいる方角を真っ直ぐに見つめる。
「(やっぱり内倉の野郎は……)」
一方で瀧は自身の"
"
––––内倉と1対1で対話を交わすために
「よぉ……」
瀧は倒れ込む内倉に声をかける。内倉は力無く笑い、「殺せよ」と呟く。
「少し話しようぜ」
瀧は穏やかな、しかし芯の通った声で内倉に告げる。内倉はそれに返事をすることなく動かない。瀧はそれをイエスと取った。
内倉の脳裏には1人の女性の顔が浮かぶ。