第8話 - 覚醒
文字数 2,438文字
––––菜々美に生じた一瞬の隙を見逃さなかった。
徳田は床に落ちているボールペンを拾い、自身のサイクスを込めて菜々美の頚動脈目掛けて投げ付けた。徳田はそれが刺さるか刺さらないかの瞬間に懐に飛び込み、菜々美の脇腹に左拳で打撃を加えた。
"病みつき幸せ生活 "によって身体能力が強化された菜々美に大した効果は期待できない。しかし、旧校舎・事務室から脱出するのには十分な時間を生み出した。
廊下に出ると瑞希が立っていた。
「先生っ!?」
「(月島さんが危ない!)」
徳田は振り向かずとも背後からの脅威に気付いていた。
旧校舎博物館において受付として勤める山内 佳子 は菜々美から追加の注射を投入され、更なる多くのサイクスを右拳に込めて振り下ろした。
徳田は瑞希を抱きかかえて既の所でその拳を躱した。振り下ろされた拳は地面に触れた瞬間大きなヒビをこしらえ、状況を理解していない瑞希に恐怖心を与えるのに十分過ぎるものとなった。
「(何!? 地面が割れっ……誰!?)」
徳田は間髪入れずに瑞希を横向きに抱きかかえるとサイクスを足に集中させてバランスを保ち、階段を使って上階へと逃れた。
瑞希は徳田に抱きかかえられながら視界の端に菜々美を捉えた。
「先生、なっちゃんが!」
「説明は後!」
徳田は3階まで上がると廊下を一気に駆け抜け旧校舎・科学実験室へと逃げ込んだ。
「愛香にはもう連絡したの!?」
「えっえっ……」
「だから……」
徳田は瑞希の表情を見てハッとする。
「(そうか……突然こんなことがあったら普通パニくるわね……まずは落ち着かせなきゃ)」
徳田は瑞希を抱きしめ、後頭部を撫でて気持ちを落ち着けようと努める。少しずつ瑞希の呼吸が一定のリズムを刻み始める。
「月島さん、最近お互いに争った形跡のある遺体が発見された事件が数件あったのニュースで見た?」
「はい。確かお姉ちゃんもそれについて捜査してるとか何とか……。詳しくは知らないですが」
「そうその事件。落ち着いて聞いて欲しいんだけど……。その犯人が上野さんだったの」
一瞬の沈黙が流れる。
「先生、一体何言って……」
「いきなり言われても信じられないのは分かってる。でも事実よ。そして上野さんの狙いは月島さん、あなたなの」
「え、私?」
「そう。上野さん、新しい超能力 を手に入れていて注射器を他人に刺すと操れるようになったみたい。それを使ってあなたを自分のモノにするって」
「……」
こんな突拍子もない話をいきなりされても簡単に信じられないのも無理もない。しかし徳田は構わず続ける。
「それでここに来る前に愛香にはもう伝えたの?」
「いえ……こんな事になってるなんて思わなくて」
私は昼に捕まってから携帯は取られている。
「じゃあ、今愛香に電話してくれる?」
「その……さっきの衝撃で携帯落としちゃって……」
「(まずい、自力でここを抜け出して助けを呼ばなきゃ)」
「分かった。月島さん、とにかく落ち着いて。あなたは私が守るわ」
徳田は再び瑞希を抱きしめながら次の手を考えている。
「(月島さんがここへ来てしまった以上、上野は彼女を最優先に狙う可能性が高まった。いや、月島さんが戦闘面において期待が出来ないことから私を先に全力で潰しに来る? それなら私が囮になって月島さんを逃す隙を作ることが可能かもしれない。懸念点としては私のサイクスの残量。かなり消費してしまった。館長さんを無力化出来たとはいえ、注射器で強化された相手を2人。しかも私は2人とも面識がある。それはつまり打撃のみで2人を無力化する必要があるということ)」
落ち着きを取り戻しつつも微かに震える瑞希の様子を見る。
「(まずはこの子の安全確保。その為には2人の居場所を把握しないと……)」
その時突然真下から山内が拳で突き上げてきた。
「(なっ!? ここ3階よ!?)」
山内の右手は大量の血で汚れている。
「(注射の打たれ過ぎで身体が壊れかけてる!? それなら山内さんも早く救わなきゃ取り返しのつかないことになるかもしれない)」
菜々美が科学実験室の壁を蹴破り、徳田の目の前に現れる。
「せーんせっ、月ちゃんと2人で何してるの?」
「(まずっ……)」
そう思う時間を与えられぬままノータイムで徳田の鳩尾 に衝撃が走った。
「がっ……グッ……」
徳田はそのまま科学実験室の壁を突き破って吹き飛ばされた。
菜々美は徳田の吹き飛ばされた方向を少しの間見つめた後、そこで力なく座り込んでいる瑞希の方を笑みを浮かべながら振り返った。
「月ちゃん、来たんだね」
「なっちゃん……」
瑞希の声が少し震えている。
そんな様子を見ながら菜々美は愛おしそうに両手で瑞希の両頬をなぞる。
「月ちゃん、可愛い……」
そう言うと菜々美は瑞希にキスをした。
「んっ……なっちゃん……何を……んちゅっ……」
「むちゅっ……ちゅくっ……」
菜々美は片手に"病みつき幸せ生活 "を持ち、瑞希の首筋に突き刺そうとした。
その様子を見た徳田は瓦礫にサイクスをありったけ込めて菜々美に向けて投げた。
「もう邪魔しないでくれないかなぁ……」
投げられた瓦礫を右手で受け止め、徳田の方を向く。
「月ちゃん、2人でゆっくりいっぱい楽しめるように邪魔なものは消しちゃおうね」
菜々美はそう瑞希に微笑みかけると徳田の方へと向かった。
「(月島さん、逃げて……。私はもうサイクスが残っていない。ここで殺される。けどあなたが逃げて愛香に伝えてくれれば可能性が高まる……。だから……逃げて……)」
菜々美が徳田の目の前に立ち、右手にサイクスを溜めた。
それを見た徳田は覚悟を決め、目を閉じた。
「じゃあね、せんせっ♡」
菜々美がその右拳を振り上げようとした刹那、東京第三地区高等学校・旧校舎全体を覆うほどの強大なサイクスが徳田、菜々美、山内を襲った。
徳田と菜々美はそのサイクスの発生源の方へと視線を向けた。
その視線の先には……
––––月島瑞希が立っていた。
徳田は床に落ちているボールペンを拾い、自身のサイクスを込めて菜々美の頚動脈目掛けて投げ付けた。徳田はそれが刺さるか刺さらないかの瞬間に懐に飛び込み、菜々美の脇腹に左拳で打撃を加えた。
"
廊下に出ると瑞希が立っていた。
「先生っ!?」
「(月島さんが危ない!)」
徳田は振り向かずとも背後からの脅威に気付いていた。
旧校舎博物館において受付として勤める
徳田は瑞希を抱きかかえて既の所でその拳を躱した。振り下ろされた拳は地面に触れた瞬間大きなヒビをこしらえ、状況を理解していない瑞希に恐怖心を与えるのに十分過ぎるものとなった。
「(何!? 地面が割れっ……誰!?)」
徳田は間髪入れずに瑞希を横向きに抱きかかえるとサイクスを足に集中させてバランスを保ち、階段を使って上階へと逃れた。
瑞希は徳田に抱きかかえられながら視界の端に菜々美を捉えた。
「先生、なっちゃんが!」
「説明は後!」
徳田は3階まで上がると廊下を一気に駆け抜け旧校舎・科学実験室へと逃げ込んだ。
「愛香にはもう連絡したの!?」
「えっえっ……」
「だから……」
徳田は瑞希の表情を見てハッとする。
「(そうか……突然こんなことがあったら普通パニくるわね……まずは落ち着かせなきゃ)」
徳田は瑞希を抱きしめ、後頭部を撫でて気持ちを落ち着けようと努める。少しずつ瑞希の呼吸が一定のリズムを刻み始める。
「月島さん、最近お互いに争った形跡のある遺体が発見された事件が数件あったのニュースで見た?」
「はい。確かお姉ちゃんもそれについて捜査してるとか何とか……。詳しくは知らないですが」
「そうその事件。落ち着いて聞いて欲しいんだけど……。その犯人が上野さんだったの」
一瞬の沈黙が流れる。
「先生、一体何言って……」
「いきなり言われても信じられないのは分かってる。でも事実よ。そして上野さんの狙いは月島さん、あなたなの」
「え、私?」
「そう。上野さん、新しい
「……」
こんな突拍子もない話をいきなりされても簡単に信じられないのも無理もない。しかし徳田は構わず続ける。
「それでここに来る前に愛香にはもう伝えたの?」
「いえ……こんな事になってるなんて思わなくて」
私は昼に捕まってから携帯は取られている。
「じゃあ、今愛香に電話してくれる?」
「その……さっきの衝撃で携帯落としちゃって……」
「(まずい、自力でここを抜け出して助けを呼ばなきゃ)」
「分かった。月島さん、とにかく落ち着いて。あなたは私が守るわ」
徳田は再び瑞希を抱きしめながら次の手を考えている。
「(月島さんがここへ来てしまった以上、上野は彼女を最優先に狙う可能性が高まった。いや、月島さんが戦闘面において期待が出来ないことから私を先に全力で潰しに来る? それなら私が囮になって月島さんを逃す隙を作ることが可能かもしれない。懸念点としては私のサイクスの残量。かなり消費してしまった。館長さんを無力化出来たとはいえ、注射器で強化された相手を2人。しかも私は2人とも面識がある。それはつまり打撃のみで2人を無力化する必要があるということ)」
落ち着きを取り戻しつつも微かに震える瑞希の様子を見る。
「(まずはこの子の安全確保。その為には2人の居場所を把握しないと……)」
その時突然真下から山内が拳で突き上げてきた。
「(なっ!? ここ3階よ!?)」
山内の右手は大量の血で汚れている。
「(注射の打たれ過ぎで身体が壊れかけてる!? それなら山内さんも早く救わなきゃ取り返しのつかないことになるかもしれない)」
菜々美が科学実験室の壁を蹴破り、徳田の目の前に現れる。
「せーんせっ、月ちゃんと2人で何してるの?」
「(まずっ……)」
そう思う時間を与えられぬままノータイムで徳田の
「がっ……グッ……」
徳田はそのまま科学実験室の壁を突き破って吹き飛ばされた。
菜々美は徳田の吹き飛ばされた方向を少しの間見つめた後、そこで力なく座り込んでいる瑞希の方を笑みを浮かべながら振り返った。
「月ちゃん、来たんだね」
「なっちゃん……」
瑞希の声が少し震えている。
そんな様子を見ながら菜々美は愛おしそうに両手で瑞希の両頬をなぞる。
「月ちゃん、可愛い……」
そう言うと菜々美は瑞希にキスをした。
「んっ……なっちゃん……何を……んちゅっ……」
「むちゅっ……ちゅくっ……」
菜々美は片手に"
その様子を見た徳田は瓦礫にサイクスをありったけ込めて菜々美に向けて投げた。
「もう邪魔しないでくれないかなぁ……」
投げられた瓦礫を右手で受け止め、徳田の方を向く。
「月ちゃん、2人でゆっくりいっぱい楽しめるように邪魔なものは消しちゃおうね」
菜々美はそう瑞希に微笑みかけると徳田の方へと向かった。
「(月島さん、逃げて……。私はもうサイクスが残っていない。ここで殺される。けどあなたが逃げて愛香に伝えてくれれば可能性が高まる……。だから……逃げて……)」
菜々美が徳田の目の前に立ち、右手にサイクスを溜めた。
それを見た徳田は覚悟を決め、目を閉じた。
「じゃあね、せんせっ♡」
菜々美がその右拳を振り上げようとした刹那、東京第三地区高等学校・旧校舎全体を覆うほどの強大なサイクスが徳田、菜々美、山内を襲った。
徳田と菜々美はそのサイクスの発生源の方へと視線を向けた。
その視線の先には……
––––月島瑞希が立っていた。