第54話 - 石野亮太
文字数 2,458文字
「さぁ〜陣取り合戦はどうなりますかねぇ〜」
葉山は楽しそうに呟く。
「お前が言ってることは……」
江藤が口を開く。
「日本国内で超能力者を利用して政党同士で紛争、いや下手したら党内でも争いが起こるぞ……」
葉山は持っている紅茶のペットボトルを眺めながら答える。
「んー、それを止めるために僕たちがいるんじゃあないですか」
その様子を江藤は見ながら葉山に尋ねる。
「お前は……一体何を考えているんだ? 何を最終地点に置いてこの委員会を見ているんだ?」
葉山は持っていたペットボトルを置き、江藤を真っ直ぐに見据える。
その目を見た江藤は一瞬怯む。それまで葉山は余裕の笑みを見せていた。それは今でも変わらない。が、これまでと違いその瞳には光がなく、より一層この男の得体の知れなさに拍車がかかる。
「僕は日本国民の皆さんが安心して暮らせるように尽力することを考えているだけですよ? 江藤さんもそうでしょ?」
依然として目は笑っていない。
「まぁ……な」
そう答えざるを得ない。
「(こいつ……何か考えてやがるな……サイクスを発していないのに何つープレッシャーだ)」
葉山順也の評価は所属する日月党でも分かれている。冷静な判断力、狡猾さ、求心力……政治家に必要な能力を備えており若者を始め世論からの支持も高い。
しかし、余りにも彼の戦略通りに物事が進むために何か超能力を使っているのではないかとか、暗躍しているのではないか、と言った憶測が党内外で流れている。
「さて、僕ももう行きますかね」
葉山がおもむろに立ち上がる。
「どこへ行くんだ?」
江藤はそう尋ね、葉山はにこやかに答えた。
「んー、色々と問題が山積みで。その処理です」
そう言い残し、葉山は出口へと去って行った。
#####
「それで石野くんはどう考える?」
日本光明党代表野村 快斗 が石野亮太に尋ねる。
「まず日本を各地区に分けそれぞれ"TRACKERS"を設置、さらにその地域ごとに管理委員会を設置しコントロールするといった話になりました。ただ……」
「ただ?」
「東京を含む地域には日陽党の白井議員、日月党の葉山委員長が残って業務をこなすことになりそうです」
「他の党は?」
「とりあえずこれに賛同しましたが各党にこれを持ち帰り、政党のパワーバランスについての思惑が飛び交うでしょう」
野村はため息をつく。
日光党は近年超能力者の数が増加し、それに伴う犯罪の凶悪化を重く受け止めており、"TRACKERS"について政党の垣根を超えて協力すべきだという立場を取っている。
日陽党政権が崩れた今、明らかに各政党は超能力者が関わる案件について少しでも有利な立場になろうと躍起になっている。その状況をこの組織に持ち込んでは本来の目的が損なわれてしまうと野村代表を初めとして党全体で懸念しているのだ。
「これはあくまで私の推測ですが……」
石野が続ける。
「葉山委員長が白井議員の要望を簡単に飲んだのはこのことを敢えて各党に持ち帰らせて東京を含む地区の管理には各政党から少なくとも1名を派遣させるという提案をさせるためではないかと」
「ほう……」
「それで勢力を均衡させる狙いでしょう。そしてそれを受け入れれば日月党は他の政党の意見も積極的に取り入れるという世論へのアピールにもなります」
「(凄いな……)」
石野と同じく日光党から管理委員として派遣されている曽ヶ端 莉子 が隣で素直に感心する。
日光党は超能力者と非超能力者の真の共生をマニフェストとして掲げており、超能力者と非超能力者の割合はほぼ同数である。管理委員会にも超能力者 (曽ヶ端)と非超能力者 (石野)をそれぞれ派遣している。
「(石野くんは周りに超能力者が多い中でも冷静に状況を分析している。葉山委員長といい、最近の若い議員は肝が据わってるわね)」
野村が石野に尋ねる。
「石野くん、君から見て葉山委員長はどう映る?」
少し考え込んだ後に石野が答えた。
「今のところ葉山委員長は各政党の考えを尊重しつつ落とし所を上手く見つけている印象です。これまでの日陽党の独占を抑制するためにもこの均衡を作ろうという意図も理解できます。ただ……」
「ただ?」
「得体の知れなさは感じます。私はサイクスを持たない非超能力者ですのでこの感覚はよく分からないのですが……」
「ふむ。曽ヶ端くんはどう思う?」
「私も石野議員と同意見です。今のところ彼は淡々と仕事をこなしています」
野村は2人の意見を聞いた後に微かに頷き口を開いた。
「ただの勢いだけの若手というわけではないわけだな……。うむ、2人ともしばらくは葉山委員長に従いつつ都度、我が党の方針を表明してくれ。同時に葉山委員長に感じるという得体の知れなさには気を付けたまえ。それから東京地区への派遣についてだが……」
間髪入れずに曽ヶ端が答える。
「私は石野議員を推します」
少し驚いたような表情をした石野を他所に曽ヶ端は続ける。
「彼は冷静な状況判断力があります。また、非超能力者の観点からの意見も物怖じせずに主張できるでしょう。恐らく党の特性から国民自由党が非超能力者を派遣すると思いますが、石野議員が加われば非超能力者は少なくとも2人にはなります。これは希望的観測ですが、葉山委員長と年齢が近いことからも彼の真意を探りやすいかも知れません」
「石野くん、頼めるかね?」
「承知いたしました。我が党の理念を持って務めさせて頂きます」
石野の目には強い意志が込められていた。
その様子から野村も曽ヶ端も安堵すると同時に力強く頷いた。
#####
翌週に行われた超能力者管理委員会では葉山の思惑通り"TRACKERS"は北海道地方・東北地方・関東地方・中部地方・近畿地方・中国/四国地方・九州地方の7地方に設置され、それぞれの地方に超能力管理委員会が置かれることとなった。また、関東超能力者管理委員会は統括機関としての役割も果たし各政党1名ずつで構成されることが決定された。
葉山は楽しそうに呟く。
「お前が言ってることは……」
江藤が口を開く。
「日本国内で超能力者を利用して政党同士で紛争、いや下手したら党内でも争いが起こるぞ……」
葉山は持っている紅茶のペットボトルを眺めながら答える。
「んー、それを止めるために僕たちがいるんじゃあないですか」
その様子を江藤は見ながら葉山に尋ねる。
「お前は……一体何を考えているんだ? 何を最終地点に置いてこの委員会を見ているんだ?」
葉山は持っていたペットボトルを置き、江藤を真っ直ぐに見据える。
その目を見た江藤は一瞬怯む。それまで葉山は余裕の笑みを見せていた。それは今でも変わらない。が、これまでと違いその瞳には光がなく、より一層この男の得体の知れなさに拍車がかかる。
「僕は日本国民の皆さんが安心して暮らせるように尽力することを考えているだけですよ? 江藤さんもそうでしょ?」
依然として目は笑っていない。
「まぁ……な」
そう答えざるを得ない。
「(こいつ……何か考えてやがるな……サイクスを発していないのに何つープレッシャーだ)」
葉山順也の評価は所属する日月党でも分かれている。冷静な判断力、狡猾さ、求心力……政治家に必要な能力を備えており若者を始め世論からの支持も高い。
しかし、余りにも彼の戦略通りに物事が進むために何か超能力を使っているのではないかとか、暗躍しているのではないか、と言った憶測が党内外で流れている。
「さて、僕ももう行きますかね」
葉山がおもむろに立ち上がる。
「どこへ行くんだ?」
江藤はそう尋ね、葉山はにこやかに答えた。
「んー、色々と問題が山積みで。その処理です」
そう言い残し、葉山は出口へと去って行った。
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「それで石野くんはどう考える?」
日本光明党代表
「まず日本を各地区に分けそれぞれ"TRACKERS"を設置、さらにその地域ごとに管理委員会を設置しコントロールするといった話になりました。ただ……」
「ただ?」
「東京を含む地域には日陽党の白井議員、日月党の葉山委員長が残って業務をこなすことになりそうです」
「他の党は?」
「とりあえずこれに賛同しましたが各党にこれを持ち帰り、政党のパワーバランスについての思惑が飛び交うでしょう」
野村はため息をつく。
日光党は近年超能力者の数が増加し、それに伴う犯罪の凶悪化を重く受け止めており、"TRACKERS"について政党の垣根を超えて協力すべきだという立場を取っている。
日陽党政権が崩れた今、明らかに各政党は超能力者が関わる案件について少しでも有利な立場になろうと躍起になっている。その状況をこの組織に持ち込んでは本来の目的が損なわれてしまうと野村代表を初めとして党全体で懸念しているのだ。
「これはあくまで私の推測ですが……」
石野が続ける。
「葉山委員長が白井議員の要望を簡単に飲んだのはこのことを敢えて各党に持ち帰らせて東京を含む地区の管理には各政党から少なくとも1名を派遣させるという提案をさせるためではないかと」
「ほう……」
「それで勢力を均衡させる狙いでしょう。そしてそれを受け入れれば日月党は他の政党の意見も積極的に取り入れるという世論へのアピールにもなります」
「(凄いな……)」
石野と同じく日光党から管理委員として派遣されている
日光党は超能力者と非超能力者の真の共生をマニフェストとして掲げており、超能力者と非超能力者の割合はほぼ同数である。管理委員会にも超能力者 (曽ヶ端)と非超能力者 (石野)をそれぞれ派遣している。
「(石野くんは周りに超能力者が多い中でも冷静に状況を分析している。葉山委員長といい、最近の若い議員は肝が据わってるわね)」
野村が石野に尋ねる。
「石野くん、君から見て葉山委員長はどう映る?」
少し考え込んだ後に石野が答えた。
「今のところ葉山委員長は各政党の考えを尊重しつつ落とし所を上手く見つけている印象です。これまでの日陽党の独占を抑制するためにもこの均衡を作ろうという意図も理解できます。ただ……」
「ただ?」
「得体の知れなさは感じます。私はサイクスを持たない非超能力者ですのでこの感覚はよく分からないのですが……」
「ふむ。曽ヶ端くんはどう思う?」
「私も石野議員と同意見です。今のところ彼は淡々と仕事をこなしています」
野村は2人の意見を聞いた後に微かに頷き口を開いた。
「ただの勢いだけの若手というわけではないわけだな……。うむ、2人ともしばらくは葉山委員長に従いつつ都度、我が党の方針を表明してくれ。同時に葉山委員長に感じるという得体の知れなさには気を付けたまえ。それから東京地区への派遣についてだが……」
間髪入れずに曽ヶ端が答える。
「私は石野議員を推します」
少し驚いたような表情をした石野を他所に曽ヶ端は続ける。
「彼は冷静な状況判断力があります。また、非超能力者の観点からの意見も物怖じせずに主張できるでしょう。恐らく党の特性から国民自由党が非超能力者を派遣すると思いますが、石野議員が加われば非超能力者は少なくとも2人にはなります。これは希望的観測ですが、葉山委員長と年齢が近いことからも彼の真意を探りやすいかも知れません」
「石野くん、頼めるかね?」
「承知いたしました。我が党の理念を持って務めさせて頂きます」
石野の目には強い意志が込められていた。
その様子から野村も曽ヶ端も安堵すると同時に力強く頷いた。
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翌週に行われた超能力者管理委員会では葉山の思惑通り"TRACKERS"は北海道地方・東北地方・関東地方・中部地方・近畿地方・中国/四国地方・九州地方の7地方に設置され、それぞれの地方に超能力管理委員会が置かれることとなった。また、関東超能力者管理委員会は統括機関としての役割も果たし各政党1名ずつで構成されることが決定された。