第45話 - 懺悔
文字数 2,526文字
「あれがお兄ちゃん……」
"大食漢 "に取り憑かれた首のない樋口兼の死体が瀧たちに襲いかかる。
「どうして……」
暴走する兼の死体を見ながら凛はこれまで兄に対して浴びせてきた言葉を思い返す。
同時に横たわる瑞希に視線を移す。
「危ない!」
花が瑞希を抱きかかえて体育館の外へと向かう。
「良かった……」
凛は瑞希の無事を確認して安堵する。同時に凛は違和感を覚える。
「(どうして私、あの子の心配を……昨日からずっと敵として相対していたのに……)」
凛は昨日からのクラスマッチを通しての自身の心情の変化に気付き始める。
「(私は周りから持ち上げられるあの子がはっきり言って大嫌いだった。だから有無を言わさぬ完勝を収めるためにあらゆる策を講じた。そして私はドッジボールで勝った)」
男女混合超能力 ドッジボール決勝、女子超能力 バスケットボール決勝前にチームメイトに自分の超能力 を説明し、策を共有したのは事実である。
しかし、凛はあくまで彼らを利用する手段としてしか考えていなかった。自分以外の超能力者たちを見下し、個の力のみで他を圧倒出来るという傲慢さが基盤としてある。
「(だけど月島は……)」
瑞希の才能は誰の目から見ても明らかである。その評価は自分を最高の超能力者と自負する凛も例外なくそう感じている。
しかし、瑞希はその実力を持ちながらチームメイトとも連携を取りながら試合に臨んでいた。それに対して凛は軽蔑の目で見ていた。
樋口の家族には恵まれたサイクスを持つ者はいない。その為、凛は家族の誰をも頼ることは出来ず、自分の超能力 を成長させた。
常に凛は1人だった。
「(他人の力を頼るなんて弱い者がするもの……)」
凛はそう考えていた。
––––違う
「(私の超能力は人を使わなければ発動しない。つまり、人に頼る超能力。そもそも個人能力じゃないんだ)」
クラスメイトと共に協力しながらスポーツに励む瑞希の表情が浮かぶ。
「(認めたくないけど……輝いて見えた。月島が。いや、月島以外のチームメイトも。更にはそれを応援するクラスメイトたちまでも)」
凛はこれまで"才能"を個人能力のみにフォーカスしていた。自分は決してサイクス量が多いわけではない。しかし、自分の超能力は強力で更に知力がある。この2つが備われば確実に勝てる。
「(それでも負けた。月島は明らかに自分よりも劣るチームメイトたちを自分のように駒として見ずに積極的にコミュニケーションを取り、協力していた。悔しい……けど試合を進めるうちに羨ましいと感じてしまった)」
個人で打破出来る超能力を持ちながら仲間を信じ、共に協力する瑞希と仲間の協力が必要な超能力でありながら彼らを信頼せず、自分の駒としてしか見なさなかった自分との対比。
凛は認められずにいた。認めてしまったらこれまでの自分を否定してしまう。それが堪らなく怖かったのだ。
#####
「俺の妹ってスゲーんだぜ」
突然樋口兼が自分の知らない相手と会話をしている場面が眼前に広がる。
「(これは……!?)」
会話は続く。
「両親はあんまり超能力使えねーし、俺なんてサイクスが全く使えねー。頭も悪いしな。けどアイツはサイクスが結構あるみたいだし成績も良くて優秀なんだ。けどよ……」
少し間を空けて兼は少し暗い表情で言う。
「アイツ、抱え込み過ぎてんのか分かんねーけど楽しくなさそうなんだ。アイツが言うように本当にサイクスが全部なのかなぁー」
「お兄ちゃん……」
凛はこれまで家族に対して辛辣な言葉を何度も投げかけてきた。特にサイクスを持たない兄に対する罵詈雑言は酷過ぎるものだった。
最近では自分には兄など居ないかのようにすらも扱っていた。
そして兼は怨念化し、自分の超能力に取り憑かれ暴走するまでになった。
「私を殺さない限り動き続けるんだ……」
#####
「クソ! あいつなんでこの子を狙い続けるんだ!?」
瀧が意識のない凛を抱えながら”大食漢 ”の攻撃を躱す。
「(超能力者全員を襲うんじゃねーのか!? 一体……!?)」
瀧が玲奈と愛香からの報告を思い出す。
「同僚の泉が言うにはよくサイクス研究所の方を向いて『あんなのがあるからダメなんだ』って悪態をついていたらしいです。それと、妹さんが第三地区高等学校に通うくらい優秀みたいで劣等感があったらしいです」
瀧は凛の体操服に書かれているネームに目をやった。
「樋口!?」
3−4とも書かれている。
「(クラスまでは知らんが樋口の妹が3年生という情報は掴んでる。両親の話では関係性は良くないって話だった。超能力者に対する恨みと思っていたがもしかしてありゃあこの子に対する恨みを払う為に動いてんのか!?)」
#####
「あと何回?」
JOKERがMOONに問う。
「アト2回ダ」
「ククク……どうなるかねぇ。そっちの世界ではどんな感じだい?」
「サァナ。分カラナイ」
「嘘が下手だねぇ」
「フン」
#####
凛は"月の染み "の中で涙を流していた。
「そうか……私は間違ってたんだ……」
これまでの自分の家族に対する罵りの言葉や他人に対して抱いていた侮蔑の気持ち、全てが自分の胸に突き刺さる。
「うっ……うっ……」
MOONが再び凛の背後に現れ静かに見守る。凛はその気配を背中で感じていた。
「戻して……」
「……」
「私を現実に戻して!!」
凛は大粒の涙を流しながらMOONの方を振り向き懇願する。
MOON》は真っ直ぐに凛を見据えた。
#####
「ハァ……ハァ……くそ、どうする!?」
瀧は凛の身体を床に横たわらせ、襲いくる"大食漢 "のサイクスに対応していた。
「クソ! このままではサイクスを喰われるだけで無駄にサイクスの消費を強いられるだけだ!」
その時、凛が目を覚まし、起き上がる
「おい!? 危ねーぞ!?」
止めようとする瀧を凛は制し、首のない兼の死体に向き合った。死体は真っ直ぐに凛へと向かう。
「ごめんね……お兄ちゃん……」
凛は涙を流しながら"大食漢 "を纏う首のない樋口兼の死体に謝罪の言葉を発した。
––––そして首のない樋口の右腕は凛の胸を貫いた
"
「どうして……」
暴走する兼の死体を見ながら凛はこれまで兄に対して浴びせてきた言葉を思い返す。
同時に横たわる瑞希に視線を移す。
「危ない!」
花が瑞希を抱きかかえて体育館の外へと向かう。
「良かった……」
凛は瑞希の無事を確認して安堵する。同時に凛は違和感を覚える。
「(どうして私、あの子の心配を……昨日からずっと敵として相対していたのに……)」
凛は昨日からのクラスマッチを通しての自身の心情の変化に気付き始める。
「(私は周りから持ち上げられるあの子がはっきり言って大嫌いだった。だから有無を言わさぬ完勝を収めるためにあらゆる策を講じた。そして私はドッジボールで勝った)」
男女混合
しかし、凛はあくまで彼らを利用する手段としてしか考えていなかった。自分以外の超能力者たちを見下し、個の力のみで他を圧倒出来るという傲慢さが基盤としてある。
「(だけど月島は……)」
瑞希の才能は誰の目から見ても明らかである。その評価は自分を最高の超能力者と自負する凛も例外なくそう感じている。
しかし、瑞希はその実力を持ちながらチームメイトとも連携を取りながら試合に臨んでいた。それに対して凛は軽蔑の目で見ていた。
樋口の家族には恵まれたサイクスを持つ者はいない。その為、凛は家族の誰をも頼ることは出来ず、自分の
常に凛は1人だった。
「(他人の力を頼るなんて弱い者がするもの……)」
凛はそう考えていた。
––––違う
「(私の超能力は人を使わなければ発動しない。つまり、人に頼る超能力。そもそも個人能力じゃないんだ)」
クラスメイトと共に協力しながらスポーツに励む瑞希の表情が浮かぶ。
「(認めたくないけど……輝いて見えた。月島が。いや、月島以外のチームメイトも。更にはそれを応援するクラスメイトたちまでも)」
凛はこれまで"才能"を個人能力のみにフォーカスしていた。自分は決してサイクス量が多いわけではない。しかし、自分の超能力は強力で更に知力がある。この2つが備われば確実に勝てる。
「(それでも負けた。月島は明らかに自分よりも劣るチームメイトたちを自分のように駒として見ずに積極的にコミュニケーションを取り、協力していた。悔しい……けど試合を進めるうちに羨ましいと感じてしまった)」
個人で打破出来る超能力を持ちながら仲間を信じ、共に協力する瑞希と仲間の協力が必要な超能力でありながら彼らを信頼せず、自分の駒としてしか見なさなかった自分との対比。
凛は認められずにいた。認めてしまったらこれまでの自分を否定してしまう。それが堪らなく怖かったのだ。
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「俺の妹ってスゲーんだぜ」
突然樋口兼が自分の知らない相手と会話をしている場面が眼前に広がる。
「(これは……!?)」
会話は続く。
「両親はあんまり超能力使えねーし、俺なんてサイクスが全く使えねー。頭も悪いしな。けどアイツはサイクスが結構あるみたいだし成績も良くて優秀なんだ。けどよ……」
少し間を空けて兼は少し暗い表情で言う。
「アイツ、抱え込み過ぎてんのか分かんねーけど楽しくなさそうなんだ。アイツが言うように本当にサイクスが全部なのかなぁー」
「お兄ちゃん……」
凛はこれまで家族に対して辛辣な言葉を何度も投げかけてきた。特にサイクスを持たない兄に対する罵詈雑言は酷過ぎるものだった。
最近では自分には兄など居ないかのようにすらも扱っていた。
そして兼は怨念化し、自分の超能力に取り憑かれ暴走するまでになった。
「私を殺さない限り動き続けるんだ……」
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「クソ! あいつなんでこの子を狙い続けるんだ!?」
瀧が意識のない凛を抱えながら”
「(超能力者全員を襲うんじゃねーのか!? 一体……!?)」
瀧が玲奈と愛香からの報告を思い出す。
「同僚の泉が言うにはよくサイクス研究所の方を向いて『あんなのがあるからダメなんだ』って悪態をついていたらしいです。それと、妹さんが第三地区高等学校に通うくらい優秀みたいで劣等感があったらしいです」
瀧は凛の体操服に書かれているネームに目をやった。
「樋口!?」
3−4とも書かれている。
「(クラスまでは知らんが樋口の妹が3年生という情報は掴んでる。両親の話では関係性は良くないって話だった。超能力者に対する恨みと思っていたがもしかしてありゃあこの子に対する恨みを払う為に動いてんのか!?)」
#####
「あと何回?」
JOKERがMOONに問う。
「アト2回ダ」
「ククク……どうなるかねぇ。そっちの世界ではどんな感じだい?」
「サァナ。分カラナイ」
「嘘が下手だねぇ」
「フン」
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凛は"
「そうか……私は間違ってたんだ……」
これまでの自分の家族に対する罵りの言葉や他人に対して抱いていた侮蔑の気持ち、全てが自分の胸に突き刺さる。
「うっ……うっ……」
MOONが再び凛の背後に現れ静かに見守る。凛はその気配を背中で感じていた。
「戻して……」
「……」
「私を現実に戻して!!」
凛は大粒の涙を流しながらMOONの方を振り向き懇願する。
MOON》は真っ直ぐに凛を見据えた。
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「ハァ……ハァ……くそ、どうする!?」
瀧は凛の身体を床に横たわらせ、襲いくる"
「クソ! このままではサイクスを喰われるだけで無駄にサイクスの消費を強いられるだけだ!」
その時、凛が目を覚まし、起き上がる
「おい!? 危ねーぞ!?」
止めようとする瀧を凛は制し、首のない兼の死体に向き合った。死体は真っ直ぐに凛へと向かう。
「ごめんね……お兄ちゃん……」
凛は涙を流しながら"
––––そして首のない樋口の右腕は凛の胸を貫いた