番外編②-25 – 人間味

文字数 2,417文字

「部活の中では俺のことを皆んな『ゆづ』って呼ぶようになったんです。それは顧問の内倉先生も例外ではなく、授業以外では俺のことをそう呼んでました」

 牧田は第三地区高等学校で男子バスケ部に入部しており、その顧問を内倉祥一郎が務めていた。
 DEEDの麻薬オークション数日前にGOLEMとSHADOWが姿を現した際に、採血をしていなかった牧田や巻き込まれた一般人たちはDEEDのメンバーから責められ暴力を振るわれていた。偶然その場面に出くわしたGOLEMが怒りをあらわにしたのだ。

 当初、杉本は横手の一般人、特に学生が巻き込まれているのを見て怒りを表明していたという証言からGOLEMは教育関係者や子供を相手にする仕事に就いているのではないかという推測を立てた。

 しかし、正確には違った。

 GOLEM、内倉祥一郎はDEEDのメンバーの中に数年前の自分の教え子がいたこと、そして他のメンバーからの扱いを見て明らかに巻き込まれていることを悟った。

「(もしかしたら、牧田の家庭のことから無理やり利用されていたという考えにも及んだかもしれないわね)」

 そして突如目の前に現れた元教え子に対して困惑し、思わず口について出た言葉が『どうして……ゆづ』という言葉だったのだ。
 牧田のことを『ゆづ』と呼ぶ者は当時男子バスケ部に入部していた部員やマネージャー、そして顧問である内倉祥一郎だけである。

 GOLEMの口から漏れた『ゆづ』という言葉を聞き逃さなかった牧田はそのGOLEMの体型などからその正体が内倉であると確信したのだ。

「内倉せんせ……GOLEMは俺たちに暴力を振るっていたDEEDの人たちを一瞬で薙ぎ払った後に、交渉を行っていた上層部の人たちに『契約は取り止めだ』ってすごい剣幕で伝えていました」

 牧田の言葉を聞いた後に花は1つ質問する。

「どうして……警察に連絡してくれなかったの?」

 牧田は少し躊躇(ためら)った後に答える。

「その……学生時代すごくお世話になった面倒見の良い先生で……今回も助けてもらえて……言えなかったんです。それに違う人かもしれないし……。あとは単純に脅迫されていたのも理由です」

 花は「なるほど」と呟いた後に瀧への伝え方について考える。

「(瀧は明らかに私の動きを気にして本気を出していない。ただ周辺住人の避難完了の知らせがあいつにも送られてるはずだからこのビルから出て戦闘を始めるはず)」

 花はこの1ヶ月の捜査期間中、瀧がGOLEMの行動について思うところがある様子を見ていた。

「(瀧は明らかになるまで本気を出せない気がする。かと言ってこの事実を知って内倉に情が移るのもまずい)」

––––花は瀧との会話を思い返す。

「杉本警部の考えが正しかった場合、あんたちゃんと闘えるの?」

 瀧は今回の事件に関するMT (マテリアル・タブレット) をスワイプしながら答える。

「たりめーだ。こいつらがやってる事は許されることじゃねーだろ。ただコイツだけ少し異質じゃねーか。気になるんだよ。それだけだ」

#####

「あの言葉、信じるわよ、馬鹿」

 花はそう小さく呟くと瀧に向けてメッセージを作成する。


#####

––––ビッ

 瀧のポケットの中に入っている警察手帳端末のバイブが鳴る。

 警察手帳端末 (単に警察手帳、警察手帳タブレット、カード等と呼称される) は警察組織に所属しているという身分証明、データの送受信、機密コードの付与などその機能は多岐に渡る。しかし、より高度な操作が必要な場合は花のようにTech-PadのようなタブレットやTechbook-proといったラップトップを使用する。
 その中で周辺住民の避難完了報告、データの送受信、機密コードの付与といった類のものはそれぞれバイブの振動パターンや受信音が異なる。

「(避難完了か)」

 瀧はそのバイブの振動パターンで周辺住民の避難が完了したことを悟った。 

––––ドオォン!!

 瀧はD–2ビル1階の壁を右拳で殴り、大きな穴を開ける。

「おい、場所変えねーか?」

 瀧はGOLEMに話しかける。

「周辺住民の避難が完了したんだ。外の方が広く暴れられる。そうだろ?」

 GOLEMは静かに頷く。瀧は今しがた開けた穴の方を首で指し、付いてくるように促す。
 2人は静かに互いの距離を保ちつつ外へ出る。

「(徳田の方は終わったみたいだな)」

 瀧は外へ歩きながら"第六感(シックス)"で花を感知、動きが止まっていることを確認し、DEED残党を制圧したことを確信した。その確信はGOLEMにも至る。

––––ビッ

 瀧の警察手帳のバイブが再び鳴る。その送信者が花であることを理解した瀧は2度瞬きをする。

 2度の瞬きによって装着しているスマートコンタクトのXRを起動。空間上に花からの情報を表示させる。

「お前、徳田のこと知ってるな」

 GOLEMは微動だにせず瀧の話を聞いている。

「お前は第三地区高等学校に勤務する教師、内倉祥一郎だな?」

 それでも尚、反応を示さないGOLEMに対して瀧はそのまま話を続ける。

「安心しな。お前が気になっていたであろう牧田佑都くんに関しては徳田が既に保護した」

 GOLEMは黙ったままであるもののそのサイクスが一瞬、柔らいだのを瀧は見逃さなかった。

「4年前の資料といい、今回の件といい俺はお前から他の十二音の連中とは違う、人間味を感じてた。それで徳田の制圧が終わるのを待ってたわけだが……」
  
 ここで初めてGOLEMが口を開く。

「本気を出さずとも俺を殺れると?」

 その言葉を聞いて瀧は「フッ」と笑う。

「お互い様だろ。"第六感(シックス)"で牧田くんのこと追ってたんだろ? それもあって建物を破壊するのを避けるためにお前も手を抜いていた」

 GOLEMの肉体を覆っている赤い鎧が解かれ、装着する仮面を取る。

「如何にも。俺の名は内倉祥一郎だ」

 内倉は落ち着いた声で告げ、真っ直ぐに瀧を見据える。



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