番外編②-23 – 甘さ
文字数 2,374文字
––––お前には甘いところがある
GOLEMの打撃を往 なしながら数日前に藤村から言われた言葉が瀧の頭を過 ぎる。
「(課長の言う通り、世の中には問答無用でぶっ飛ばさなきゃならねぇ連中は五万といる……!)」
瀧の脳裏に4年前の十二音による襲撃事件の資料が浮かぶ。
#####
「課長、GOLEMのことどう思いますか?」
藤村は例の如くライターの蓋を開閉させていた手を止めて瀧の方を見る。その瀧の表情を見て「はぁ」と大きな溜め息をついた後に答える。
「どうも何もS級犯罪者集団・不協の十二音の一員だろ。危険な奴らだよ」
瀧は「そうですよね」と言いつつ、藤村の机の上にぶっきら棒に置かれている4年前の襲撃事件についての資料が纏められているマテリアル・タブレット (MTとよく略される) にチラッと目をやる。
藤村はその視線に気付き、MTを手に取って画面をタッチして起動、GOLEMが戦闘している映像を見る。そしてそれに付随したGOLEMに関して纏められた文章を眺める。
「お前が言いたいことは大体予想つく。これだろ? 4年前の事件でGOLEMは死者を出してない。それが気なるってんだろ?」
瀧は静かに頷くと更に補足する。
「それに横手の証言にありましたが……。一般人が……特に子供が巻き込まれていることを聞いた途端に冷静さを失ったと。俺の中で引っ掛かるんです」
藤村は瀧の目を真っ直ぐに見つめて返答する。
「瀧、お前には甘いところがある。今回は相手が相手だ。お前の中で煮え切らない思いがあるのは分かるが、そこから綻びが生じるぞ」
ここで藤村は一度間を置き、息を吸ってより深刻な声のトーンで瀧を窘 めるように告げる。
「良いか、お前のために言うぞ? 相手に情を移すな。殺すつもりでやれ。速攻で"稽古場 "を展開しろ。それくらいで丁度良いはずだ。全員がJOKERクラスの連中だと思え。良いな?」
「……はい」
#####
瀧は藤村から言われたことに従わず、"稽古場 "を展開していない。"稽古場 "は害意を含んだサイクスを持った相手を強制的に半径5mのドーム状空間に閉じ込め、また、外部からの接触を遮断する。
更に瀧の必殺の正拳である"闘気強大拳 "は瀧の力を持ってすれば、強靭な肉体を持つGOLEMであっても無事では済まず、大ダメージは必至。
しかし、"闘気強大拳 "を使用すれば"稽古場 "は一度解除される。GOLEMに対して大ダメージを与えるほどのサイクスを込めて打ち込まれるその衝撃はD–2ビルを崩壊させかねない。
上階で行動している花への影響や周辺住民への被害を考慮してのものである。
「(周辺住民の避難はそろそろ終わるはず。後は徳田だな。何か探ってる感じか?)」
"第六感 "を使いながら花の様子を瀧は把握する。
「(そして俺はこいつの本心が知りたい……!)」
瀧が"第六感 "を使ったのとほぼ同時にGOLEMも"第六感 "を使用し、その後明らかに打撃の力が弱まった。
「(こいつも何かを探知してから明らかに攻撃の勢いが弱まった……! 上に何かあるのか!? 横手の証言通りならば一般人が巻き込まれてる!?)」
瀧はもう一度"第六感 "の感覚を思い返し、その考えを否定する。
「(いや、突然これまで存在しなかった6階から現れたのを考慮するにSHADOWの超能力によって匿われていた連中。その後の動きからして全員仲間である可能性が高い。人質って感じではないしな)」
更に瀧は花の明らかに一人一人を確認しながらDEEDの残党を捕らえている様子を探知する。
「(GOLEMの様子と徳田の行動に関係があるとすれば?)」
その疑問こそが瀧がGOLEMに対して攻め手を欠いている大きな要因である。
「(取り敢えず周辺住民の避難の完了報告を待つか……)」
瀧とGOLEMは再び互いの打撃による攻防を繰り広げる。
#####
「(さて、残るは最上階のみ。ここまで牧田の姿は無い)」
花は2階から1階ずつDEEDの残党を捕獲。既に5階に到達し、残るは6階のみとなっている。
––––周辺住民の避難完了
花の携帯にD–2ビル周辺住民の避難を完了したという知らせが入る。
––––了解。至急、瀧にも連絡をお願いします。
「(周辺住民の避難は終わったようね。これで瀧も場所を変えることができる。明らかに私の行動を気にして本気を出して闘っていない。それよりも……)」
花は階段の踊り場から6階の様子を窺いながら"第六感 "を使ってGOLEMのサイクスを読み取る。
「(GOLEMも瀧のペースに合わせている節がある。これは……杉本警部の推察が正しい可能性が高くなってきたわね……)」
花はこれまで見てきた十二音に関する事件資料や実際に第三地区高校で対峙したJOKERやJESTERのことを思い返しながら、未だ杉本の考えを信じられないという思いを抱いている。
花は右手に拳銃、左手に逆手持ちでナイフを持って6階に残る4名に向けて構える。
「大人しく投降しなさい」
花が言い終わらないうちに2人が襲いかかる。花は溜め息をついた後に2人を軽く往なし、膝に向けてナイフを刺突し動きを止め、床に伏せさせる。あまりの手際の良さに残る2人はおろか、床に抑えられている2人ですらも何が起こったのかを理解していない。
「さて、残る2人。あなたが許斐。そしてあなたが……」
現在、残るDEEDの中で中心的役割を担う許斐の隣で怯えたような表情を向ける若い男に向けて花が尋ねる。
「牧田佑都ね?」
それに対して牧田は静かにゆっくりと、少し震えながら頷いた。
GOLEMの打撃を
「(課長の言う通り、世の中には問答無用でぶっ飛ばさなきゃならねぇ連中は五万といる……!)」
瀧の脳裏に4年前の十二音による襲撃事件の資料が浮かぶ。
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「課長、GOLEMのことどう思いますか?」
藤村は例の如くライターの蓋を開閉させていた手を止めて瀧の方を見る。その瀧の表情を見て「はぁ」と大きな溜め息をついた後に答える。
「どうも何もS級犯罪者集団・不協の十二音の一員だろ。危険な奴らだよ」
瀧は「そうですよね」と言いつつ、藤村の机の上にぶっきら棒に置かれている4年前の襲撃事件についての資料が纏められているマテリアル・タブレット (MTとよく略される) にチラッと目をやる。
藤村はその視線に気付き、MTを手に取って画面をタッチして起動、GOLEMが戦闘している映像を見る。そしてそれに付随したGOLEMに関して纏められた文章を眺める。
「お前が言いたいことは大体予想つく。これだろ? 4年前の事件でGOLEMは死者を出してない。それが気なるってんだろ?」
瀧は静かに頷くと更に補足する。
「それに横手の証言にありましたが……。一般人が……特に子供が巻き込まれていることを聞いた途端に冷静さを失ったと。俺の中で引っ掛かるんです」
藤村は瀧の目を真っ直ぐに見つめて返答する。
「瀧、お前には甘いところがある。今回は相手が相手だ。お前の中で煮え切らない思いがあるのは分かるが、そこから綻びが生じるぞ」
ここで藤村は一度間を置き、息を吸ってより深刻な声のトーンで瀧を
「良いか、お前のために言うぞ? 相手に情を移すな。殺すつもりでやれ。速攻で"
「……はい」
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瀧は藤村から言われたことに従わず、"
更に瀧の必殺の正拳である"
しかし、"
上階で行動している花への影響や周辺住民への被害を考慮してのものである。
「(周辺住民の避難はそろそろ終わるはず。後は徳田だな。何か探ってる感じか?)」
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「(そして俺はこいつの本心が知りたい……!)」
瀧が"
「(こいつも何かを探知してから明らかに攻撃の勢いが弱まった……! 上に何かあるのか!? 横手の証言通りならば一般人が巻き込まれてる!?)」
瀧はもう一度"
「(いや、突然これまで存在しなかった6階から現れたのを考慮するにSHADOWの超能力によって匿われていた連中。その後の動きからして全員仲間である可能性が高い。人質って感じではないしな)」
更に瀧は花の明らかに一人一人を確認しながらDEEDの残党を捕らえている様子を探知する。
「(GOLEMの様子と徳田の行動に関係があるとすれば?)」
その疑問こそが瀧がGOLEMに対して攻め手を欠いている大きな要因である。
「(取り敢えず周辺住民の避難の完了報告を待つか……)」
瀧とGOLEMは再び互いの打撃による攻防を繰り広げる。
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「(さて、残るは最上階のみ。ここまで牧田の姿は無い)」
花は2階から1階ずつDEEDの残党を捕獲。既に5階に到達し、残るは6階のみとなっている。
––––周辺住民の避難完了
花の携帯にD–2ビル周辺住民の避難を完了したという知らせが入る。
––––了解。至急、瀧にも連絡をお願いします。
「(周辺住民の避難は終わったようね。これで瀧も場所を変えることができる。明らかに私の行動を気にして本気を出して闘っていない。それよりも……)」
花は階段の踊り場から6階の様子を窺いながら"
「(GOLEMも瀧のペースに合わせている節がある。これは……杉本警部の推察が正しい可能性が高くなってきたわね……)」
花はこれまで見てきた十二音に関する事件資料や実際に第三地区高校で対峙したJOKERやJESTERのことを思い返しながら、未だ杉本の考えを信じられないという思いを抱いている。
花は右手に拳銃、左手に逆手持ちでナイフを持って6階に残る4名に向けて構える。
「大人しく投降しなさい」
花が言い終わらないうちに2人が襲いかかる。花は溜め息をついた後に2人を軽く往なし、膝に向けてナイフを刺突し動きを止め、床に伏せさせる。あまりの手際の良さに残る2人はおろか、床に抑えられている2人ですらも何が起こったのかを理解していない。
「さて、残る2人。あなたが許斐。そしてあなたが……」
現在、残るDEEDの中で中心的役割を担う許斐の隣で怯えたような表情を向ける若い男に向けて花が尋ねる。
「牧田佑都ね?」
それに対して牧田は静かにゆっくりと、少し震えながら頷いた。