番外編②-1 – 二人組

文字数 2,368文字

––––3122年7月2日 第2地区9番街第29セクタ–34–9地下

 捜査一課長・藤村洸哉が組織犯罪対策部長・石川一志の協力要請を受けて犯罪組織『DEED』による麻薬取引を事前に察知した場所で阻止した日時まで遡る。(本編50話)

 『DEED』は(こと)、日本国内でも麻薬取り引きに関して名の知られている犯罪組織の1つで、仕入れる麻薬の種類やその影響、数名の武闘派超能力者から危険度ランクはB+に設定されている。(危険度は下からD、C、B-、B+、A-、A+、Sに分けられる)
 約1ヶ月前、警視庁組織犯罪対策部は第2地区での『麻薬オークション』を察知、慎重に準備を進めて一網打尽にした。

 藤村は石川と『TRACKERS』について軽く会話を交わした後に溜め息をついて内ポケットからライターと煙草を取り出す。

「バカ、吸うな」
「えー? ダメ?」
「吸うなら外で吸え。現場だぞ、バカか」

 藤村は面倒くさそうにして煙草を一旦、内ポケットに戻していつものようにライターの蓋を開閉して遊び始める。

「言っとくけど俺、だいぶ歳上だからな?」

 呆れたように石川が告げ、藤村はへへへと悪戯っぽく笑う。ライターの蓋で何度か遊んだ後に藤村が石川に尋ねる。
 
「んで、今回、結構な大物捕まったんだろ? 相手の方」
「そうだな、現場には人気女優とかいたぞ。天草(あまくさ) 英理子(えりこ)とかな」

 今回の麻薬取り引きは『DEED』が所有するビルの地下で、世界中から仕入れた麻薬や新作の品評会が行われた。これは裏社会では『麻薬オークション』という名称で知られ、多くの犯罪組織が開催している。
 オークションに参加する者たちの中には有名芸能人やミュージシャン、著名人、スポーツ選手、更には政治家まで様々で、こうした制圧の後には芋づる式に逮捕者が出る。

 石川は藤村に答えた後に現場に新たに加わった2人組の男を見て「はぁ……」と溜め息をつく。

「おい、何であいつら来てんだ?」

 藤村も石川が向いている方を向いて少し笑う。そこには警視庁捜査一課の杉本一と鶴川(つるかわ) (わたる)が到着したところだった。

「興味が湧いたんじゃねーか?」
「そんなんで適当に現場来てもらったら困るんだよ。うちのヤマだぞ?」
「俺呼んだじゃん」

 藤村の一言に反論できずに石川も一瞬沈黙する。その様子を見てニヤニヤしながら2人の様子を注視する。

「来るならあっちが良かったぜ、車椅子の美人ちゃんとショートカットの美人さんと瀧。あいつらのファン多いんだぜ? 血生臭い現場での数少ない癒しさ。瀧も面白い奴だしな」
「癒しねぇ……。月島は結構暗いけどな。まぁあいつら呼びたいなら死体用意するこったな。何ならあんたが死ぬかい? 捜査してもらえるぞ」
「ホントお前、良い性格してるぜ……」

 藤村はフッと笑った後に少し真剣な顔になって続ける。

「月島は妹の件で色々あった後で大変なんだよ。十二音に酷く絡まれたみたいだからな」
「S級の連中か。そういやあの高校、あの子の妹の高校だったか。才能ある子は色々大変だねぇ」
「あと月島と坂口はPLE生でもあるからな」

 愛香と玲奈はその才能を認められて若くして捜査一課に所属している。そのため、大学専門知識を学ぶことを希望するPLE (Program of Learn Expertise) 生として登録されている。

 藤村と石川の元へ杉本と鶴川の2人が寄って来る。

「これはこれは藤村課長、組織犯罪対策部長の石川さん、こんにちは」

 杉本は丁寧に頭を下げて穏やかな口調で挨拶し、鶴川もそれに続く。

「いや、あんたら2人何で来たんだよ……」

 石川の問いかけに対して杉本は和やかに答える。

「近くを通ったもので」
「嘘つけ」

 石川の答えに対して少しだけ目を見開き、背を仰け反らせる大袈裟なアクションをして杉本が答える。

「嘘なんてとんでもない。私たちは用事を済ませて時間が出来た中で偶然そこを通りかかったのですよ。そうしたら穏やかでない様子だったので足を運んだわけです」
「暇で知らない現場に首を突っ込むなよ……」
「おやおや、我々のような暇な捜査官も時には必要だと思いますよ? いつでも出動できますし、そもそも考えようによっては平和の象徴にもなりますしね」

 石川は頭を抱え、藤村は後ろを向いて必死に笑いを堪える。

「お前ら来ると現場を荒らされるから面倒くさいんだよ」

 石川が力なく告げると、またもや杉本はオーバーなリアクションをして返答する。

「おやおや、現場を荒らすだなんてとんでもない。ちゃんと白手袋を装着していますよ? ねぇ、鶴川くん」
「はい、もちろんです!」

 杉本の問いかけに対して鶴川は白手袋を見せながら大きく頷く。

「それにちゃんと皆様方にご迷惑にならないように声をかけてから触るようにしています」
「許可される前に触るだろ……」
「いや〜、歳をとると言動と行動にラグが生じてしまって困ったものです。歳はとりたくないですね〜」
「あんた、俺より歳下だよな!?」

 2人の会話に笑いを堪えられなくなった藤村は愉快そうに石川の肩を叩きながら告げる。

「止めとけ、止めとけ、あんたが杉本警部に言い合いで勝てるはずねーよ。良い勝負すんのは最近ガキどもの間で人気の……『それってあなたの私見ですよね?』の奴……」
「もとゆきさんですか?」

 杉本の答えに対して藤村は「それそれ」と言った後に続ける。

「あとは管理委員会の葉山議員くらいだろ」
「葉山議員ですか。彼は若く聡明な方ですね〜。何度かお話しさせて頂きましたがチェスなどで楽しく交流させて頂きました。もとゆきさん含めて3人でお話してみたいですね〜」

 杉本の言葉を聞いて目頭を押さえながら石川が告げる。

「止めてくれ、想像するだけで気分悪くなる」

 石川はそう言ってその場を離れる。杉本、鶴川、藤村は3人になって現場周辺を歩き始めた。



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