第36話 - クラスマッチ ⑨
文字数 2,967文字
瑞希は既に樋口の残留サイクスに対して"宝探し "を発動している。
「(初めから誰の超能力か分かっているならこの"宝探し "を使って観察すれば最初の懸念点、物体が運ばれる地点は人だけでなく場所も指定できるのか分かる)」
樋口の残留サイクスが不自然に濃く残されているのは樋口以外の4人のプレイヤー。試合前に細工をしたのかバスケットゴールにも残留サイクスがあるが4人に対する残留サイクスと明らかに質が違う。言わば触って残留サイクスを付着させただけである。
「(樋口さんは私のこの"宝探し "のことと残留サイクスの特徴を読み取れることは知らないはず。だからまだ私が超能力の考察をしていると考えるはず。そう思わせとくのも有りだけどここは敢えて相手にプレッシャーを与える!)」
綾子の得点後、1年1組は守備陣形を組む。
「(いきなりマン・ツー・マン・ディフェンス!?)」
樋口は相手の守備陣形を見て動揺する。
「(月島は私の超能力を完璧には分かっていないはず!? 恐らく"人"を指定できても特定の"場所"を指定することは出来ないことは知らないはず? 試合前にゴールに細工はしといたから後者の可能性を考慮してゾーンディフェンスを敷くと考えていた)」
––––マン・ツー・マン・ディフェンス
「誰が誰をマークするか」を決めて守るディフェンス。このため、攻撃側の選手が動けばそれをマークするディフェンス側の選手も追いかけることになる。
対してゾーンディフェンスとは場所を決めて守る守備陣形であり、守備側の選手がそれぞれ守るエリアを受け持つディフェンスである。
「(私の"優良配送業者 "は正確に"ボール "を届ける。人にしか指定出来ないと確定された後にマン・ツー・マンを組まれ、動きを止められることを不安視していた! これは既に私の超能力を看破したということ!? それともブラフ!?)」
試合開始から続く1年1組の予想外のプレーの連続。これらは全て樋口に対して大きな動揺を生む。
––––サイクスと意思は密接に関わる。
樋口のサイクスは不安定さを増し、"ボール "を運ぶために必要なサイクス量が増え、共有した樋口のサイクスの消費が増す。
更に瑞希は相手のパス回しを見て別の条件を確認するため"敢えて"ボールホルダーへ近づき志乃と2人で前に立ち塞がる。そしてまるでそこにパスを通してくれと言わんばかりに自身と志乃の間にスペースを作る。
ボールを保持する今野は辻野にバウンドパスを送るがそのボールが逸れる。
「(思った通り)」
*****
「("超常現象 "じゃなくて超能力だったのか!!)」
瑞希は自チームコート内に転がったボールを拾いながら落ち着こうと試みるが動揺を隠せない。
「(落ち着け、私。ボールはこっちにある)」
※第32話 – 『クラスマッチ⑤』参照
*****
「(物体が地面につくと樋口さんの超能力はリセットされる! 再び誰かが物体を投げ始めると樋口さんの超能力がまた始まるんだ)」
昨日のドッジボールで城島がアウトになった場面、そして3年4組女バスチームがボールをバウンドさせずにパス回しをしている様子を見て確認したのだ。
「(今ので恐らく"配達物"を地面に触れさせてはいけないという条件がバレた! というか今の月島の動き。明らかに確定させに来てた!)」
樋口のサイクスの不安定さが増す。
「(サイクスの共有をしなきゃ!)」
一瞬、目の前の瑞希から目を離す。瞬間、瑞希は萌からフリーでボールを受けシュートを放つ。
4−0
「(しまった!)」
自分の超能力が看破されていくことへの動揺、そこから生じるサイクスの安定感の欠如、異常な消費からくる精神的・身体的な疲労。
これら全てが樋口の冷静な判断力や思考力を奪う。
瑞希はサイクス第二研究所での花との訓練や昨日のドッジボールでの対戦においてサイクスと超能力者の精神的繋がりを強く感じ、サイクスを使った戦闘や競技における相手への揺さぶりの重要性を実感している。
「(サイクスの量や超能力による優位性は決着の決定事項にはなり得ない。勝つ為の戦略、そして冷静さを保つ意志の強さも大切なんだ!)」
3年4組のパススピードは遅くなる。"優良配送業者 "による正確さが逆に仇となる。"ボール "がどこへ届くか分かっている上、パススピードも遅い。マン・ツー・マン・ディフェンスの本来の狙いがはまり始める。
17 − 6
1年1組のペースで試合が進み、点差が開き始めたところでハーフタイムを迎えた。
「ちょっと! ボール遅くない? ボールが正確なせいで逆に取られるんだけど!」
「てか向こうのチーム、時間めいっぱい使ってくるから共有してるサイクスなくなるの早いし、そもそも消費早くない?」
二宮と尾上が立て続けに不満を漏らす。
「(相手のバスケ経験のない2人にボールを回してるのは月島、大木、西条の3人がパスの出し所がなくて苦し紛れのパスと思ってたけどこれも罠。皆んなに込められたサイクスを減らす為だったのか……)」
弱気になっていた樋口の感情に別の感情が湧き上がる。
「(私が1年に負ける? あの子の方が私より優秀だって言うの!?)」
その時、樋口のサイクスが爆発的に上昇した。
「(そんなの絶対に認めない!!! 私の方が優秀なのよ!!!!)」
「(覚醒!!)」
観戦している阿部翔子が目を見開く。
超能力者の中にはサイクスが爆発的に上昇する瞬間が存在する。それによって超能力に新たな力が加わったり、発動条件が緩和されたりする場合がある。
「(しかし、こういった追い込まれた場面での覚醒は諸刃の剣……! 超能力者は冷静な状況判断が出来ずに凄まじい力を得る。その代わりに無理な条件を課してしまう可能性が高い……!)」
後半開始のジャンプボールでボールを取った瑞希は3ポイントシュートを放ち、早々に点差を広げる。
樋口のサイクスがバスケットゴールに注がれ樋口以外の4人のプレイヤーのサイクスは一部を残し、樋口の元へと戻った。
––––"速達便 "!!
樋口自身を注文者、4人の選手を配送拠点、ボールを配送物、バスケットゴールを届け場所と設定。樋口が"サイクス "を支払うことで配送物は届け場所へ瞬間移動、更なる"サイクス "を支払うと樋口からバスケットゴールへと直接瞬間移動する 。
ボールは尾上、二宮と一瞬で移動し、ゴールに吸い込まれた。
事前に申請した以外の固有の超能力の使用は認められていない。樋口の超能力が改善され場所の指定は可能となったが直接ゴールへと瞬間移動させると反則行為とされる可能性が高い。
それを考慮し、他選手を経由しての得点を選択する冷静さも樋口は備えていた。
1年1組はしばらくの間、為す術なく点差を縮められる。
20 − 17
タイムアウトを取り、瑞希が注射器を持ってチームメイトに尋ねる。
「皆んなは私のこと信じてくれる?」
「(初めから誰の超能力か分かっているならこの"
樋口の残留サイクスが不自然に濃く残されているのは樋口以外の4人のプレイヤー。試合前に細工をしたのかバスケットゴールにも残留サイクスがあるが4人に対する残留サイクスと明らかに質が違う。言わば触って残留サイクスを付着させただけである。
「(樋口さんは私のこの"
綾子の得点後、1年1組は守備陣形を組む。
「(いきなりマン・ツー・マン・ディフェンス!?)」
樋口は相手の守備陣形を見て動揺する。
「(月島は私の超能力を完璧には分かっていないはず!? 恐らく"人"を指定できても特定の"場所"を指定することは出来ないことは知らないはず? 試合前にゴールに細工はしといたから後者の可能性を考慮してゾーンディフェンスを敷くと考えていた)」
––––マン・ツー・マン・ディフェンス
「誰が誰をマークするか」を決めて守るディフェンス。このため、攻撃側の選手が動けばそれをマークするディフェンス側の選手も追いかけることになる。
対してゾーンディフェンスとは場所を決めて守る守備陣形であり、守備側の選手がそれぞれ守るエリアを受け持つディフェンスである。
「(私の"
試合開始から続く1年1組の予想外のプレーの連続。これらは全て樋口に対して大きな動揺を生む。
––––サイクスと意思は密接に関わる。
樋口のサイクスは不安定さを増し、"
更に瑞希は相手のパス回しを見て別の条件を確認するため"敢えて"ボールホルダーへ近づき志乃と2人で前に立ち塞がる。そしてまるでそこにパスを通してくれと言わんばかりに自身と志乃の間にスペースを作る。
ボールを保持する今野は辻野にバウンドパスを送るがそのボールが逸れる。
「(思った通り)」
*****
「("
瑞希は自チームコート内に転がったボールを拾いながら落ち着こうと試みるが動揺を隠せない。
「(落ち着け、私。ボールはこっちにある)」
※第32話 – 『クラスマッチ⑤』参照
*****
「(物体が地面につくと樋口さんの超能力はリセットされる! 再び誰かが物体を投げ始めると樋口さんの超能力がまた始まるんだ)」
昨日のドッジボールで城島がアウトになった場面、そして3年4組女バスチームがボールをバウンドさせずにパス回しをしている様子を見て確認したのだ。
「(今ので恐らく"配達物"を地面に触れさせてはいけないという条件がバレた! というか今の月島の動き。明らかに確定させに来てた!)」
樋口のサイクスの不安定さが増す。
「(サイクスの共有をしなきゃ!)」
一瞬、目の前の瑞希から目を離す。瞬間、瑞希は萌からフリーでボールを受けシュートを放つ。
4−0
「(しまった!)」
自分の超能力が看破されていくことへの動揺、そこから生じるサイクスの安定感の欠如、異常な消費からくる精神的・身体的な疲労。
これら全てが樋口の冷静な判断力や思考力を奪う。
瑞希はサイクス第二研究所での花との訓練や昨日のドッジボールでの対戦においてサイクスと超能力者の精神的繋がりを強く感じ、サイクスを使った戦闘や競技における相手への揺さぶりの重要性を実感している。
「(サイクスの量や超能力による優位性は決着の決定事項にはなり得ない。勝つ為の戦略、そして冷静さを保つ意志の強さも大切なんだ!)」
3年4組のパススピードは遅くなる。"
17 − 6
1年1組のペースで試合が進み、点差が開き始めたところでハーフタイムを迎えた。
「ちょっと! ボール遅くない? ボールが正確なせいで逆に取られるんだけど!」
「てか向こうのチーム、時間めいっぱい使ってくるから共有してるサイクスなくなるの早いし、そもそも消費早くない?」
二宮と尾上が立て続けに不満を漏らす。
「(相手のバスケ経験のない2人にボールを回してるのは月島、大木、西条の3人がパスの出し所がなくて苦し紛れのパスと思ってたけどこれも罠。皆んなに込められたサイクスを減らす為だったのか……)」
弱気になっていた樋口の感情に別の感情が湧き上がる。
「(私が1年に負ける? あの子の方が私より優秀だって言うの!?)」
その時、樋口のサイクスが爆発的に上昇した。
「(そんなの絶対に認めない!!! 私の方が優秀なのよ!!!!)」
「(覚醒!!)」
観戦している阿部翔子が目を見開く。
超能力者の中にはサイクスが爆発的に上昇する瞬間が存在する。それによって超能力に新たな力が加わったり、発動条件が緩和されたりする場合がある。
「(しかし、こういった追い込まれた場面での覚醒は諸刃の剣……! 超能力者は冷静な状況判断が出来ずに凄まじい力を得る。その代わりに無理な条件を課してしまう可能性が高い……!)」
後半開始のジャンプボールでボールを取った瑞希は3ポイントシュートを放ち、早々に点差を広げる。
樋口のサイクスがバスケットゴールに注がれ樋口以外の4人のプレイヤーのサイクスは一部を残し、樋口の元へと戻った。
––––"
樋口自身を注文者、4人の選手を配送拠点、ボールを配送物、バスケットゴールを届け場所と設定。樋口が"
ボールは尾上、二宮と一瞬で移動し、ゴールに吸い込まれた。
事前に申請した以外の固有の超能力の使用は認められていない。樋口の超能力が改善され場所の指定は可能となったが直接ゴールへと瞬間移動させると反則行為とされる可能性が高い。
それを考慮し、他選手を経由しての得点を選択する冷静さも樋口は備えていた。
1年1組はしばらくの間、為す術なく点差を縮められる。
20 − 17
タイムアウトを取り、瑞希が注射器を持ってチームメイトに尋ねる。
「皆んなは私のこと信じてくれる?」