第77話 - 誘拐
文字数 2,509文字
「(すれ違って付いたなんてレベルの量じゃない)」
瑞希はサイクスを消費することを承知の上で萌に付着していた中本の残留サイクスに"宝探し "を発動し、強調表示していた。男達が近付いてきた時点で付着していた残留サイクスの量に違和感を覚えていた。
「そ……そんな奴、知らねーよ」
聞かれた男が答える。瑞希がその答えを信じていない事は残留サイクスの見えない隣の綾子ですらも気付いた。
「そんな知らない奴の話よりも俺たちと一緒に遊ぼーよ。楽しいよ?」
不自然な切り返しから瑞希は確信し、周りを見渡して残留サイクスを追う。男たちは中本の事を聞かれた動揺と全くもって相手にされていないことから湧いた屈辱から無理やり瑞希の肩を掴み、こちらを振り向かせる。
「(あいつらあの子の尋常じゃないサイクス量が分からないのか!?)」
瑞希の一言を聞いてその場へ残って様子を見ていた中本が焦りを見せる。すぐさま近藤と連絡を取る。
「おい勇樹! あのガキ、普通じゃ考えられない程のサイクス量を秘めてるぞ!」
既に水中で近くまで接近していた近藤が通信を傍受する。
「(実際に見てみないと分からないが昨日のサイクスの奴か? たまたま同じグループだったってことか? そんな偶然有り得るか? いや、用心するにこしたことはないか?)」
「どんなトリックを使ったか分からんが中本、お前のことが既にバレとる。船の連中の方は皆藤が様子を見に行ってるが、何だか嫌な予感がするんよな」
瑞希がゆっくりと男の手を掴み、睨んでいる様子を見ながら中本が焦って近藤に指示を仰ぐ。
「どうするんだ!? やめるのか!?」
近藤の脳内では短い時間の中であらゆる思考が波のように押し寄せる。
「(どうして中本が怪しいと思われた? やはり今あいつらが対峙してる子の何らかの超能力のせいなんか? そして中本が言うようにサイクス量が多いことは警戒に値する)」
そして近藤は別の思考にも至る。
「(確かに昨日のサイクスは凄まじかった。だがそれと同時に不安定さも露呈しとった。その子が昨日の元凶だったとして学生であることも予想通り。それならばサイクスの扱いもまだ未熟だろうという考えも正しい?)」
––––ならば現時点では知恵と経験で上回れるかもしれない
これまで近藤はまだ小さな集団を生き残らせる為にあらゆる可能性を考慮し、更に自分の勘を信じてきた。結果としてこれまでそれが外れた事はない。その経験と自信が次の指示へと導かれた。
「いや、続行だ。中本は200m圏内に入って情報を全員に共有してくれ。俺の魚雷で迅速に捕獲してその場から離れるぞ。予定通り俺は海中から、お前らは陸路から離脱しとって」
「了解」
中本は瑞希達から離れ、萌が向かった方向へと歩を進める。
瑞希は肩を掴んでいる手を掴み睨み返す。
「止めてもらえますか?」
これまで瑞希の優しいサイクスにしか触れてこなかった綾子はその敵意に満ちたサイクスに驚きを隠せない。
瑞希はこの夏休み中に花との訓練により"超常現象 "の応用を会得。攻撃を仕掛けることが容易となった。4人の目に向かって砂を舞わせて一気に怯ませる。更に4人の男たちはその場から金縛りにあったかのように動けなくなる。
これは対象が放たれたサイクス量に圧倒的な差があった場合に稀に見られる現象、"金縛り "。瑞希と綾子に絡んだ男たちはその場に倒れ込み戦闘不能状態となった。
「(さっきまで無かった、残留サイクス。しかも他と違って濃い。恐らく本人のもの)」
瑞希が中本の残留サイクスを追って視線を動かした先で大きな爆発が起こる。
「何!?」
綾子も爆発音でそちらの方へと視線を向ける。浜辺へ来ている多くの観光客が悲鳴を上げ、その場はパニックに陥る。
「綾子ちゃんは危ないから離れてて。警備の人たちも直ぐに来てくれるだろうから落ち着いてね」
瑞希は綾子にそう言い残すと残留サイクスを辿り、押し寄せる人の波を正確に避けながら確実に爆心地へと向かう。
舞い上がる砂塵と人々の隙間から瑞希が目撃したものは瑞希が追っていたものとは別のサイクスに絡まれ捕縛された萌、爆発の衝撃で数人の観光客と共に吹き飛ばされて尻もちをついている結衣の姿である。そして萌の後ろから近藤が現れる。
「(別の超能力者!)」
瑞希は"宝探し "を近藤のサイクスに移行、更にp-Phoneを出現させて"病みつき幸せ生活 "を発動。自分の右足に注射し、脚力を上げて一気に距離を詰める。
「(速いな)」
近藤はその速さに驚きながらも余裕の表情で構える。その間に萌は近藤のサイクスが混ぜられた海水に囲まれ、カプセル状となった海水に閉じ込めてられてしまう。近藤のサイクスが混ぜられている為に呼吸は可能だが脱出することが出来ない。
「(来な。返り討ちにしてやるばい)」
近藤は予め百道浜に様々な種類の機雷を設置しており、瑞希をそこへ誘き寄せる魂胆である。
「(何かおかしい)」
瑞希は近藤の微動だにしない様子を不審に思い、目にサイクスを集中させてレンズを発動。近藤の周りに何かが隠されている事に気付く。瑞希は一度立ち止まり、サイクスが濃い場所を避ける。
「(レンズも使えるんやな。今のところ身体能力を上げる超能力者に思えるが……。まぁ俺の超能力 は機雷だけじゃねぇ)」
近藤は両手を広げ衝撃魚雷の準備をする。
「(何か来る!)」
瑞希が距離を取った瞬間に魚雷は放たれ辺りに衝撃が広がる。更にそれによって機雷に誘爆が引き起こされる。
「(これも躱すか。捕まえるのは厳しそうやんな。まぁ最低限コイツだけ連れて帰れば良いか……)」
近藤は瑞希が避けている隙に萌を連れて海中へと向かった。それに気付いた瑞希が追おうとするが、再び人々が押し寄せ身動きが取り辛くなる。更に近藤も衝撃魚雷で人を弾丸のように吹き飛ばしてくる。
「(逃げられちゃう!)」
その時、瑞希は視界の端で海に向かって走っている結衣を捉える。
「萌ちゃん!」
結衣はそのまま海へ入り、既に海中へと逃走している近藤を追った。
瑞希はサイクスを消費することを承知の上で萌に付着していた中本の残留サイクスに"
「そ……そんな奴、知らねーよ」
聞かれた男が答える。瑞希がその答えを信じていない事は残留サイクスの見えない隣の綾子ですらも気付いた。
「そんな知らない奴の話よりも俺たちと一緒に遊ぼーよ。楽しいよ?」
不自然な切り返しから瑞希は確信し、周りを見渡して残留サイクスを追う。男たちは中本の事を聞かれた動揺と全くもって相手にされていないことから湧いた屈辱から無理やり瑞希の肩を掴み、こちらを振り向かせる。
「(あいつらあの子の尋常じゃないサイクス量が分からないのか!?)」
瑞希の一言を聞いてその場へ残って様子を見ていた中本が焦りを見せる。すぐさま近藤と連絡を取る。
「おい勇樹! あのガキ、普通じゃ考えられない程のサイクス量を秘めてるぞ!」
既に水中で近くまで接近していた近藤が通信を傍受する。
「(実際に見てみないと分からないが昨日のサイクスの奴か? たまたま同じグループだったってことか? そんな偶然有り得るか? いや、用心するにこしたことはないか?)」
「どんなトリックを使ったか分からんが中本、お前のことが既にバレとる。船の連中の方は皆藤が様子を見に行ってるが、何だか嫌な予感がするんよな」
瑞希がゆっくりと男の手を掴み、睨んでいる様子を見ながら中本が焦って近藤に指示を仰ぐ。
「どうするんだ!? やめるのか!?」
近藤の脳内では短い時間の中であらゆる思考が波のように押し寄せる。
「(どうして中本が怪しいと思われた? やはり今あいつらが対峙してる子の何らかの超能力のせいなんか? そして中本が言うようにサイクス量が多いことは警戒に値する)」
そして近藤は別の思考にも至る。
「(確かに昨日のサイクスは凄まじかった。だがそれと同時に不安定さも露呈しとった。その子が昨日の元凶だったとして学生であることも予想通り。それならばサイクスの扱いもまだ未熟だろうという考えも正しい?)」
––––ならば現時点では知恵と経験で上回れるかもしれない
これまで近藤はまだ小さな集団を生き残らせる為にあらゆる可能性を考慮し、更に自分の勘を信じてきた。結果としてこれまでそれが外れた事はない。その経験と自信が次の指示へと導かれた。
「いや、続行だ。中本は200m圏内に入って情報を全員に共有してくれ。俺の魚雷で迅速に捕獲してその場から離れるぞ。予定通り俺は海中から、お前らは陸路から離脱しとって」
「了解」
中本は瑞希達から離れ、萌が向かった方向へと歩を進める。
瑞希は肩を掴んでいる手を掴み睨み返す。
「止めてもらえますか?」
これまで瑞希の優しいサイクスにしか触れてこなかった綾子はその敵意に満ちたサイクスに驚きを隠せない。
瑞希はこの夏休み中に花との訓練により"
これは対象が放たれたサイクス量に圧倒的な差があった場合に稀に見られる現象、"
「(さっきまで無かった、残留サイクス。しかも他と違って濃い。恐らく本人のもの)」
瑞希が中本の残留サイクスを追って視線を動かした先で大きな爆発が起こる。
「何!?」
綾子も爆発音でそちらの方へと視線を向ける。浜辺へ来ている多くの観光客が悲鳴を上げ、その場はパニックに陥る。
「綾子ちゃんは危ないから離れてて。警備の人たちも直ぐに来てくれるだろうから落ち着いてね」
瑞希は綾子にそう言い残すと残留サイクスを辿り、押し寄せる人の波を正確に避けながら確実に爆心地へと向かう。
舞い上がる砂塵と人々の隙間から瑞希が目撃したものは瑞希が追っていたものとは別のサイクスに絡まれ捕縛された萌、爆発の衝撃で数人の観光客と共に吹き飛ばされて尻もちをついている結衣の姿である。そして萌の後ろから近藤が現れる。
「(別の超能力者!)」
瑞希は"
「(速いな)」
近藤はその速さに驚きながらも余裕の表情で構える。その間に萌は近藤のサイクスが混ぜられた海水に囲まれ、カプセル状となった海水に閉じ込めてられてしまう。近藤のサイクスが混ぜられている為に呼吸は可能だが脱出することが出来ない。
「(来な。返り討ちにしてやるばい)」
近藤は予め百道浜に様々な種類の機雷を設置しており、瑞希をそこへ誘き寄せる魂胆である。
「(何かおかしい)」
瑞希は近藤の微動だにしない様子を不審に思い、目にサイクスを集中させてレンズを発動。近藤の周りに何かが隠されている事に気付く。瑞希は一度立ち止まり、サイクスが濃い場所を避ける。
「(レンズも使えるんやな。今のところ身体能力を上げる超能力者に思えるが……。まぁ俺の
近藤は両手を広げ衝撃魚雷の準備をする。
「(何か来る!)」
瑞希が距離を取った瞬間に魚雷は放たれ辺りに衝撃が広がる。更にそれによって機雷に誘爆が引き起こされる。
「(これも躱すか。捕まえるのは厳しそうやんな。まぁ最低限コイツだけ連れて帰れば良いか……)」
近藤は瑞希が避けている隙に萌を連れて海中へと向かった。それに気付いた瑞希が追おうとするが、再び人々が押し寄せ身動きが取り辛くなる。更に近藤も衝撃魚雷で人を弾丸のように吹き飛ばしてくる。
「(逃げられちゃう!)」
その時、瑞希は視界の端で海に向かって走っている結衣を捉える。
「萌ちゃん!」
結衣はそのまま海へ入り、既に海中へと逃走している近藤を追った。