第32話 - クラスマッチ⑤

文字数 2,809文字

 瑞希は綾子と城島に自分の考えを説明した。 

「なるほど」
「3番の選手がこの"超常現象(ポルターガイスト)"の鍵を握ってるみたい。多分1番上手いんだと思う。余計なサイクスの消費を防ぐのに最初から外野に行ってボールを動かすことにある程度専念してる」

 外野の3人が内野の向かい側、左右にそれぞれ1人ずつ配置され、瑞希たちを4方向から囲む。

「まずはボールを取り返さなきゃ」

 そう思った瞬間、3年4組チームは外野の3人と内野の森の4人でひし形状に超高速でパスを回し始める。

「速い!!!」

 目でボールを追えているのは瑞希、かろうじて城島。綾子は追いきれていない。

「(やばい!! 目で追いきれない!!)」

 タイミングを見て森が対面の田平に向かって対角線上にボールを投げ込む。
 綾子はこれまでとは違ったパターンのボールの軌道に反応出来ずに左肩にボールが当たる。

「(ラッキー! 捕れる!)」

 綾子に当たって勢いが消えたボールは真上に上がった為、城島はそのボールをキャッチしに向かう。ルール上、当たったボールが地面に触れずに味方選手が捕球した場合、最初に当てられた選手はセーフとなる。

 城島がボールを捕ろうと空中へジャンプしようとした瞬間、瑞希が叫ぶ。

「城島くん、待って!」

 城島が跳躍を止める。
 空中で静止し、地面へと落下しようとしていたボールがまるで意思を持ったかのように外野の左サイドに陣取る井上へと向かった。

「(ボールを投げた後、攻撃側は1度だけボールの軌道を変えることが出来る! まだ軌道を変えてない! 城島くんがボールを捕りにジャンプした瞬間に身動きの取れない空中でアウトにしようとしてたんだ!)」

––––残念でした

 井上へと向かうかのように見えたボールが今度は井上と対面方向、つまりは外野の右サイドにいる青野(あおの) 美希(みき)へと軌道を変えた。

 そのままボールは城島に当たり、地面に落ちる。

「アウト!」

 審判のコールが響く。

 瑞希が抗議する。

「投げた後、"超常現象(ポルターガイスト)"による方向転換は1回しか認められないはずです。今のは2回方向が変わりました」

 少し間を空けて審判が答える。

「いいえ、これは3年4組チームが事前申告してある超能力の効果です。1年1組の選手に直接影響を与える超能力ではない為、このアウトは有効となります」

 敵選手に直接影響を与えない超能力は認められる。しかし、能力によっては"超常現象(ポルターガイスト)"と見分けがつかない場合が存在する。そのため超能力を使う場合、事前に審判に申告し認可される必要がある。
 
 超能力の内容やどの選手の超能力なのかは相手チームに伝達されることはない。瑞希の場合、超能力の特性上、複写(コピー)した超能力を1つだけ使うことを許されており、"病みつき幸せ生活(ハッピー・ドープ)"を申請し、認められている。

「("超常現象(ポルターガイスト)"じゃなくて超能力だったのか!!)」

 瑞希は自チームコート内に転がったボールを拾いながら落ち着こうと試みるが動揺を隠せない。

「(落ち着け、私。ボールはこっちにある)」

 1年1組は3年4組と同じようにひし形に布陣を組み、瑞希、城島、大久保、矢野の4人でボールを回し始める。

「(3年生とサイクスの練度に違いがあるのは分かる。けど相手チームのボール回しと何か違和感がある……)」

 瑞希は投げたボールを"超常現象(ポルターガイスト)"で動かし、二宮をアウトにする。3年4組の内野は樋口と森の2人のみ。

「(ボールを取り返さないと……)」

 ドッジボールは内野の人数が0になった時点で試合終了、また、試合は12分間行われ、終了時点で内野人数の多い方が勝利となる。
 同じ人数の場合、リターン (最初の外野の選手が内野に戻る権利) の有無で決まり、それでも決着がつかない場合は試合終了時点でボールを保持していたチームから攻撃が始まる延長戦が行われる。

 現在、3年4組はリターンを消費しておらず実質内野の残り人数は3人となる。

「(残り時間は2分を切ったところ。スピードもパワーも最高にして一気に決めてやるわ)」

 樋口は拾ったボールは森にパスし、森は外野の3人と連携を取りながらボールを回し始める。

「(ボールスピードが今までより断然速い!!)」

––––"病みつき幸せ生活(ハッピー・ドープ)"!!!

 瑞希は"病みつき幸せ生活(ハッピー・ドープ)"を使用して自身の身体能力を向上させ、反応速度を上げる。

「(ここからはサイクスの消費が激しくなる。ゴリ押しでボールを取って当てに行かなきゃ)」

 そこから瑞希は1分間ボールを避け続ける。

「(しぶといわね。早くアウトになりなさいよ! もう勝ち目なんてないのよ)」

 樋口は若干の焦りを見せながら瑞希がボールを躱す姿を見る。

「(くっ! 取れるタイミングでボールの軌道が変わるせいでキャッチ出来ない!)」

 井上から放たれたボールを瑞希が躱す。

「(ボールが正確)」

––––正確??

 瑞希はボールの軌道と捕球する選手たちの立ち位置を観察する。放たれたボールは捕球する選手に向かって正確に同じスピードで向かう。
 捕球する選手が若干動くとボールもそこへ向かって軌道を調整している。

「(私たちのボール回しとの違和感。それはあまりにも正確であること。"超常現象(ポルターガイスト)"であればそれぞれの人物によって方向のズレやボールスピードが変わるはず。また、このボールはまるで意思を持っているかのように動いている。これの時点で誰かの超能力だと気付くべきだった!!)」

 瑞希は勝利に一縷の望みを持ってはいるもののこの試合では負けが濃厚だと理解している。代わりに相手の超能力を暴くことに努めている。

「(3年4組とは勝ち進めば女バスの決勝で当たる。男子サッカーも同じだ。この超能力を使う選手がこれらの競技に出場しないとは限らない!)」

「(アウトにならない! クソ! 何で粘るのよ! 仕掛けが解けていくじゃない!)」

 樋口が焦り始める。

 残り10秒。瑞希はある変化に気付く。

「(ボールが遅くなってきた……? いやそれよりも……)」

「試合終了!!」
 
 不意に曲がったボールはスピードが落ちており難なく反応した瑞希はボールをキャッチした。それと同時に審判は試合終了の笛を鳴らし、号令をかける。

「内野の人数、3年4組が2人、1年1組が1人。よって3年4組の勝利です!」

 3年4組が歓喜する。

「(ヒヤヒヤしたわ……でも私たちの勝利よ。月島瑞希、有名人って大変ね。その"目"を防ぐための戦略が上手くいったわ)」

 チラッと瑞希の方へ目をやるとその瑞希と目が合う

「(なっ! 私を見てる!? 私の超能力だってバレた!? いや、有り得ない! たまたまよ!)」
 
 樋口は自分を落ち着けようと努めるが自分をみつめる瑞希の目が脳裏に焼き付いて離れなかった。


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