第57話 - 興味
文字数 2,680文字
秘書の尾上は車窓から見える景色を眺めている葉山をちらっと見ると少し咳払いをした後に尋ねる。
「わざわざ"超常現象 "を使ったのも何か考えがあったからですか?」
秘書の尾上が葉山に尋ねる。
「何がです?」
「あの、携帯を落とした時ですよ。いつもならわざわざお使いにならないじゃないですか。常にインナー・サイクスで自分のサイクスを隠しているのに……」
「単純に手を伸ばすのが面倒くさかったんですよ」
葉山はそう答えた後、訝しんでいる尾上の表情を見て付け加える。
「あはは。でも瑞希さんも色んな意味で興味を持ってくれたんじゃないですか?」
尾上は返答を聞いた後、これ以上ははぐらかされるだけであることと葉山に何か目的があることだけは分かったのでそれ以上詮索することを止めた。
#####
––––葉山順也: 日本月光党に所属し、超能力者管理委員会の委員長を務める。第一東京別教育機関への在学中、わずか13歳で東京第三地区大学に史上最年少入学。サイクス遺伝学を専攻し、首席で卒業。その後は当大学の研究機関に在籍し……
「やっぱり……」
葉山が月島宅を後にしてから瑞希は自室で葉山順也について調べている。
「(葉山さんのサイクス、福岡にあるお父さん、お母さんのお墓やお祖父ちゃん・お祖母ちゃんのお家で見たことあったんだよね。お母さん東三大で教授やってたし、サイクス遺伝学が専門だったはず……このサイトにはゼミの名前書いてないけど十中八九、月島ゼミだったんじゃないかな……)」
葉山が"超常現象 "を使った際に発した黒いサイクスを福岡にある両親の墓前で見覚えがあったこと、そして葉山が自身も残留サイクスが見えることを示唆したことで瑞希の中で彼に対する興味が湧いていた。
「(今度、福岡行った時にお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに聞いてみよっかな?)」
––––ピコン
瑞希の携帯の通知音が鳴る。
"みずちゃんまだー?"
萌からのメッセージに少しフッと笑った瑞希は直ぐに返事を返す。
"今から戻る〜!"
瑞希は返信した後に志乃から渡されているイヤホンを耳に装着し、"空想世界 "へと戻って行った。
#####
「(結局、今回で北海道・東北の面々は決まらず終いだったな……)」
超能力者管理委員会を終えて日本光明党本部に戻った石野が右手で顎をさすりながら思考する。
「(現在の先天性超能力者の出生率を考えて大阪や京都が含まれている近畿地方は日陽党の島田議員と日月党の野本議員の旧与党と現与党が取り合ったことは納得できる。ただ面積の広大さ、最近の出生率の伸びという観点から北海道・東北地方が争点になると葉山議員は読んでいたはず。彼がそのポテンシャルを見逃すとは思えないんだが……)」
曽ヶ端が石野に缶コーヒーを手渡しながら声をかける。
「何か気になることでもあるの?」
石野は軽く礼を言い、蓋を開け軽く一口飲んだ後に一息ついてから答える
「いえ、葉山委員長が今回、近畿地方と北海道・東北地方が最初の争点になることは分かっていたはずなんです。でもそれを飛ばしてまでの私用って何なんでしょうか? それに……」
石野はまだ何かを考え込んでいる。
「それに?」
「いえ、葉山委員長は一体どこへ行っていたのかなと」
曽ヶ端は野本の発言を思い返しながら答える。
「野本議員は確か……警察や内務省との連携を深めるのが急務とか何とか言ってたわね」
「それらしいこと言って誤魔化してるだけだと思うんですよね」
「私もそう思うわ。そもそも"不協の十二音"が関わった事件から1ヶ月経っている。今さら連携をなんて動きが遅過ぎるわ。彼のような強 かな人間がこの大きな問題を放置するかしら?」
「彼がどこへ行っていたか気になりますね……」
後ろからコツコツとヒールの音を響かせながら1人の女が近付き、立ち止まる。
「私の出番ですね」
石野と曽ヶ端の会話にもう1人、超能力者管理委員会に光明党から派遣された木戸 香織 が加わる。
「木戸さん……しかし議院規則で超能力の使用は禁止されているのでは?」
石野が木戸の方を振り向きながら返答する。
––––議員規則第四条
国会議員は如何なる理由においてもその他の議員に対して超能力を使用することを禁じる。
「"議員"に対してはね」
3122年となった今日 、国会形態は大きく変化し、オンライン形式または仮想空間を創り出す超能力者によって運営されている。
その為、国会議員は当選地区で活動する事で地方の意見や地方自治体の声を直接全国の場で発表する事を容易にした。
現在、全国的に散らばる国会議員を一堂に会する程の強力な超能力を持つ者が不在の為、基本的にオンライン形式で国会は行われるが、党首討論は現総理大臣である早野幹久の超能力で創り出した仮想空間で行われている。
この議院規則第四条に関しては様々な議論が行われており、超能力の使用自体を禁止するように要求する者もいるが、過去の事例や早野の超能力 から矛盾が生じるという懸念もあり、現在まで続いている。
木戸が2人の側を離れた後、石野は曽ヶ端に告げる。
「大丈夫ですか?」
「グレーゾーンであることには変わりないけど……逃げの口実はあるからね」
「そうですか。サイクスを持たない自分には分からないのですが……」
木戸香織は物質刺激型超能力者で固有の超能力・"あなたはどこへ "は車両に対して発揮する超能力である。
ターゲットとする車両のナンバープレートと車種、メーカーを特定、その情報をサイクスに込めて自身が使う車両のハンドルに触れると対象車が最後に向かった目的地へと自動運転を開始する。
また、木戸は既に覚醒した超能力者で、対象車に直接触れることで特定の日時に向かった行き先を知ることが可能となった。
木戸は自身の超能力をいつでも利用できるように既に委員会メンバーが使用する車両の車種とメーカー、ナンバープレートを認知している。
「葉山委員長がいつも使用している車はこれね。YOKOTAのプリンス。ナンバープレートは……」
木戸は自身の車内で携帯内のメモを眺めている。
「東京第三、分類番号は300、"あ"の91–62。彼が最も利用する車両はこれね。まぁ、付き人含めて全て調べているからしらみ潰しになるかもしれないけど……」
木戸はサイクスを発しながらハンドルを握った。
––––"あなたはどこへ 発動!!!
「わざわざ"
秘書の尾上が葉山に尋ねる。
「何がです?」
「あの、携帯を落とした時ですよ。いつもならわざわざお使いにならないじゃないですか。常にインナー・サイクスで自分のサイクスを隠しているのに……」
「単純に手を伸ばすのが面倒くさかったんですよ」
葉山はそう答えた後、訝しんでいる尾上の表情を見て付け加える。
「あはは。でも瑞希さんも色んな意味で興味を持ってくれたんじゃないですか?」
尾上は返答を聞いた後、これ以上ははぐらかされるだけであることと葉山に何か目的があることだけは分かったのでそれ以上詮索することを止めた。
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––––葉山順也: 日本月光党に所属し、超能力者管理委員会の委員長を務める。第一東京別教育機関への在学中、わずか13歳で東京第三地区大学に史上最年少入学。サイクス遺伝学を専攻し、首席で卒業。その後は当大学の研究機関に在籍し……
「やっぱり……」
葉山が月島宅を後にしてから瑞希は自室で葉山順也について調べている。
「(葉山さんのサイクス、福岡にあるお父さん、お母さんのお墓やお祖父ちゃん・お祖母ちゃんのお家で見たことあったんだよね。お母さん東三大で教授やってたし、サイクス遺伝学が専門だったはず……このサイトにはゼミの名前書いてないけど十中八九、月島ゼミだったんじゃないかな……)」
葉山が"
「(今度、福岡行った時にお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに聞いてみよっかな?)」
––––ピコン
瑞希の携帯の通知音が鳴る。
"みずちゃんまだー?"
萌からのメッセージに少しフッと笑った瑞希は直ぐに返事を返す。
"今から戻る〜!"
瑞希は返信した後に志乃から渡されているイヤホンを耳に装着し、"
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「(結局、今回で北海道・東北の面々は決まらず終いだったな……)」
超能力者管理委員会を終えて日本光明党本部に戻った石野が右手で顎をさすりながら思考する。
「(現在の先天性超能力者の出生率を考えて大阪や京都が含まれている近畿地方は日陽党の島田議員と日月党の野本議員の旧与党と現与党が取り合ったことは納得できる。ただ面積の広大さ、最近の出生率の伸びという観点から北海道・東北地方が争点になると葉山議員は読んでいたはず。彼がそのポテンシャルを見逃すとは思えないんだが……)」
曽ヶ端が石野に缶コーヒーを手渡しながら声をかける。
「何か気になることでもあるの?」
石野は軽く礼を言い、蓋を開け軽く一口飲んだ後に一息ついてから答える
「いえ、葉山委員長が今回、近畿地方と北海道・東北地方が最初の争点になることは分かっていたはずなんです。でもそれを飛ばしてまでの私用って何なんでしょうか? それに……」
石野はまだ何かを考え込んでいる。
「それに?」
「いえ、葉山委員長は一体どこへ行っていたのかなと」
曽ヶ端は野本の発言を思い返しながら答える。
「野本議員は確か……警察や内務省との連携を深めるのが急務とか何とか言ってたわね」
「それらしいこと言って誤魔化してるだけだと思うんですよね」
「私もそう思うわ。そもそも"不協の十二音"が関わった事件から1ヶ月経っている。今さら連携をなんて動きが遅過ぎるわ。彼のような
「彼がどこへ行っていたか気になりますね……」
後ろからコツコツとヒールの音を響かせながら1人の女が近付き、立ち止まる。
「私の出番ですね」
石野と曽ヶ端の会話にもう1人、超能力者管理委員会に光明党から派遣された
「木戸さん……しかし議院規則で超能力の使用は禁止されているのでは?」
石野が木戸の方を振り向きながら返答する。
––––議員規則第四条
国会議員は如何なる理由においてもその他の議員に対して超能力を使用することを禁じる。
「"議員"に対してはね」
3122年となった
その為、国会議員は当選地区で活動する事で地方の意見や地方自治体の声を直接全国の場で発表する事を容易にした。
現在、全国的に散らばる国会議員を一堂に会する程の強力な超能力を持つ者が不在の為、基本的にオンライン形式で国会は行われるが、党首討論は現総理大臣である早野幹久の超能力で創り出した仮想空間で行われている。
この議院規則第四条に関しては様々な議論が行われており、超能力の使用自体を禁止するように要求する者もいるが、過去の事例や早野の
木戸が2人の側を離れた後、石野は曽ヶ端に告げる。
「大丈夫ですか?」
「グレーゾーンであることには変わりないけど……逃げの口実はあるからね」
「そうですか。サイクスを持たない自分には分からないのですが……」
木戸香織は物質刺激型超能力者で固有の超能力・"
ターゲットとする車両のナンバープレートと車種、メーカーを特定、その情報をサイクスに込めて自身が使う車両のハンドルに触れると対象車が最後に向かった目的地へと自動運転を開始する。
また、木戸は既に覚醒した超能力者で、対象車に直接触れることで特定の日時に向かった行き先を知ることが可能となった。
木戸は自身の超能力をいつでも利用できるように既に委員会メンバーが使用する車両の車種とメーカー、ナンバープレートを認知している。
「葉山委員長がいつも使用している車はこれね。YOKOTAのプリンス。ナンバープレートは……」
木戸は自身の車内で携帯内のメモを眺めている。
「東京第三、分類番号は300、"あ"の91–62。彼が最も利用する車両はこれね。まぁ、付き人含めて全て調べているからしらみ潰しになるかもしれないけど……」
木戸はサイクスを発しながらハンドルを握った。
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