第68話 - ギフテッド

文字数 2,375文字

 3122年現在、日本国内において絶滅危惧種として認定されている動植物が複数存在する。それらの動植物は政府からの承認を得て、且つ研究や保護以外の目的で捕獲することは禁止されている。その絶滅危惧種の1つにイルカが認定されている。
 福岡県においてイルカを観測することが出来る有名な場所としてホテルオーキ福岡が建設された百道浜の沖合いや熊本県の旧天草市などが知られる。そこではイルカの他にも絶滅危惧種として認定された珍しい海洋生物が見られ、政府認可の下で全国から多くの海洋調査隊が訪れる。

 全国的に問題となっている事項として海洋調査団を装い、これら絶滅危惧種を捕獲して闇市へと高額な値段で売り払って不正な利益を得ている団体が存在する。福岡県も例外ではなく、近藤勇樹が統率する"近藤組"はその中の問題の1つである。

 近藤は自身がオーナーを務めるキャバクラ店"ELLA"で夜を過ごした翌朝に近藤は目を覚まし、複数所有している倉庫の1つ (福岡県第2地区4番街第2セクター33) に足を踏み入れていた。

「お前が昨日言っとった高く売れたんはこいつやんな?」

 目の前には水槽が置かれ、その中にはイルカが力なく泳いでいる。

「はい! この間天草で獲れたやつッス。まだ子供ってのもあって500万で取り引きされました。今日の午後に引き取られる予定です」

 近藤は満足そうに笑い、部下の肩をポンと叩く。

「ところでイルカのギフテッドがおったって言うのは本当なん?」
「はい。"福岡海洋調査団"の奴を締めたら言っとりました」

 別の男が近藤に応答する。

 世界には数え切れないほどの種類の動植物たちが生息する。その中にはサイクスを宿すものたちが存在する。それらは"ギフテッド"と呼ばれ、サイクスによって身体機能が飛躍的に向上したり、不思議な超常現象 (人間の超能力者のように複雑な超能力(ちから)を有するものは現在(いま)のところは観測されていない) を引き起こしたりする。
 これらは主に人工的要因が殆どだが、中には原因が特定出来ない事例も多く、観測された生息地域の環境に起因するという仮説が唱えられているが、具体的には解明されていない。

「絶滅危惧種のギフテッドは桁が違うけんなぁ。聞いた奴はまだ息はあると?」
「はい」
「案内して」

 近藤は部下に案内され、鎖で繋がれた血だらけの男の前に立った。近藤はバケツ一杯の水を部下に用意させ、男を尋問する。

「なぁ、そのサイクスを持ったイルカどこにおったか教えてくれん?」

 近藤は男の前にしゃがみ込み、髪を掴んで乱暴に顔を上げさせる。男は「ハァ……ハァ……」と息切れしており答えられる様子ではない。近藤は頬を叩き、男に告げる。

「ほら、答えたら解放してやるけん」

 男は小さな声で途切れ途切れに答える。

「百道浜……沖に……」

 近藤は手を男の頭からぶっきら棒に放して立ち上がって話し始める。

「百道かぁ。こっから近いけど人多いんよなぁ。しかもホテルのオープンも近いけんなぁ」
「直ぐに取りかかった方が良いっすよね?」
「そやね、この後ちょっと周辺の様子偵察しに行かん?」
「OKっす」

 近藤は数名の部下に準備するように指示し、バケツの水を一気に飲み干す。その後に右手を捕まっている男に向けた。

「ありがとね。今から楽にしてやるけん」

––––"爆撃魚雷"!!!

 男の顔が爆発し、そのまま息途絶えた。

「処理しとって」

 その呆気なさに恐怖する若い部下たちを余所に近藤は部屋を後にする。

#####

––––同日午後13時

 瑞希、綾子、志乃、萌、結衣、芽衣の6人はホテルオーキから直ぐ側に広がる『百道浜』に到着し、水着で砂浜に足を踏み入れていた。

「夏休みだしやっぱ人多いね〜」

 赤色のビスチェ風ビキニに身を包んだ萌は手で日差しを遮りながら5人に話しかける。

「ね〜」

 暑さに弱くパラソルの下、ビーチチェアに横たわる瑞希を横目に綾子が答える。結衣は既に海の中に入って泳いでいる。

「ボール持ってきたよー」

 少しスポーティーな水着を着る志乃と芽衣の2人が既に膨らませているビーチボールを持ってやって来る。志乃は軽くボールを弾き、ボールは瑞希の顔面に直撃する。

「ほら、瑞希もおいで」

 白いシンプルな水着に水色のパレオを腰に巻いた瑞希がボールを手にしてパラソルから出てくる。瑞希は軽くサーブして志乃にボールを返す。

「みずちゃん、パレオ邪魔じゃない?」

 萌の問いかけに対して小さく頷いた後にパレオを脱ぐ。
 
 瑞希の白く細い脚が露わとなり綾子は同じ女子ながら少し見惚れてしまう。
 
 5人は少し深いところで泳いでいる結衣を呼び、円になってボールを弾きながらはしゃぎ始める。夏休みが後半を迎え、多くの人々が集う中でも6人は人の目を惹きつける。

「なぁ、あいつらまだガキかな?」

 近藤組の2人が6人の方を見つめる。近藤組は所有するキャバクラ店やガールズバー、風俗店などで働かせる女を見つけるために人が多く集まる場に赴き、目を光らせている。特に夏場は海辺は良いスポットとしている。

「さぁな」
「レベル高ぇなー。とっ捕まえようぜ」
「バーカ、近藤さんに殺されるぞ。今日は海に出て探索だろうがよ。あの人は先に行ってんだぜ」

 男は口惜しそうに舌打ちしてその場を後にする。

#####

––––百道浜沖合い、海底奥深く

 ゴポポ……

 気泡が海面へと勢いよく浮上していく。

「(今のところイルカの群れさえ見つからんな……)」

 近藤は海底で大の字になりながら漂っている。

「(使うか……)」

 近藤は口を大きく開けて海水を飲むみ、その後両手を広げる。

––––"探知魚雷"!!!
 
 手の平から何かが放出され、近藤は何かを待ち始めた。 



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