第46話 転-16

文字数 692文字

 アキオは、軽い足取りで文のアパートへ戻った。彼女の煙草混じりの部屋の匂いが少し懐かしく思えた。彼の扉を開ける音に、文は目を覚ました。
 「おかえりー」
 「文さん、ただいま。ホームページ大体できたから、これから説明していくし、一緒に完成させていこう」
 彼は、彼女の隣でノートパソコンを開き、タクミと一緒に作ったページを表示した。彼は彼女にツールの説明を一つ一つ丁寧に教え、彼女に、こまめに店の情報を更新するよう念を押した。そして彼は残りの作業を素早く終わらせ、ホームページを公開した。
 それから彼女の店の客足は、徐々にだが、彼の努力の甲斐あって伸びていた。中にはホームページを見て来たという人もちらほらいて彼は嬉しくなった。
 彼の奔走から一ヶ月ほど経ったころ、再び岡田さんが彼女の店に訪れていた。彼は、彼女のことが心配で、こっそりと彼女の後をつけて、この前の様に盗み聞きをしていた。
 「ねぇ、文さん。土地を譲る件、腹を括ったかしら」
 「ふん、そんなことするわけないじゃないですか。お宅の予想に反して、最近店の調子がよくってね。こいつのおかげでね」
 彼女はテーブルに身を潜めていた彼を、岡田の前につまみだした。彼女は彼がついてきたことは知っていた。バレバレの尾行で、彼女は笑いをこらえるのに必死だった。
 「ちっ。今回は水に流すというわけね。次来るときは言い値で土地を譲らせはしないのだから!」
 そう言って彼女は文の店を後にした。
 「一昨日きやがれー!」
 彼女はすっきりとした表情で岡田の背中に叫んだ。そして、よくやったと言わんばかりに、彼女は彼の頭を豪快に撫でた。
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