第9話 承-3
文字数 1,030文字
文の家で同居が始まったその日の晩。アキオがキレイに片づけ、生まれ変わったその部屋に改まったかのように姿勢をよくして座った彼女は、アキオの人生を見つめ直し、これからどうしていくか二人で考えながら実現していきたいと口にした。彼も、それについては向き合わなければならないと引っ越すまでにも一人で考えていた。しかし、一人では何も考えは浮かばないし、無難な将来を捨てたことによって希死観念がより強くなっていった。彼は、目まぐるしく変化する自分自身の環境に少し混乱していた。
「今、アキオは一番何をしてみたい?」
彼女の真っ直ぐで真剣な瞳に彼は少したじろいでしまった。そして、申し訳なさそうに彼は言葉を紡ぐ。これから正直に述べることで、彼女に怒られてしまうのではないか、見放されてしまうのではないかと彼は気が気でなかった。彼女と出会った日は、彼女との空間が心地よかったのに、この日は彼女に本音を話すくらいならいっそ死んでしまいたいとまで思った。
「……死んでしまいたい、というのが正直、今の気持ちです……」
搾りかすのような彼の声に、彼女は潤いを与えるかのような提案を施した。彼の本音を包み込む彼女の器に彼の不安は取り越し苦労に終わった。
「そっか。死んでしまいたい、か。でもさ、このまま死んでしまうの、私、ちょっともったいない気がするなぁ」
「え……?」
死んでも怒られないの?と彼の頭の中にはクエスチョンマークが山ほど浮かんだ。
「終活って聞いたことあるでしょう」
「ありますけど……」
「私、思うの。若いうちからでもそういうのしてもいいんじゃないかなって。自分自身がこれ以上何も望まないと思えたら死を選ぶ。死に方くらい自分で好きなように選んでもいいじゃないって私は思うんだよね」
彼女は彼にそう簡単に死を選んでほしくはなかった。あの人の最期の顔を思い出しては、死についてもっと真剣に向き合ってほしいという願いを込めた。
「それが、若者のための終活……」
彼は少し希望が見えた気がした。死ぬことが悪という概念に囚われてきた彼にはない発想だった。
「そう。自分の人生をやり切ったって思ってから死ねたらすっきりするじゃん」
彼女はそう言って背伸びをした。今まで慣れない良い姿勢をしていたせいか背中が痛くなっていた。彼女の提案はアキオの人生観に新たな風を吹かせた。こうして彼女と話すことで彼はまた彼女との空間に心地よさを感じられると確信した。
「今、アキオは一番何をしてみたい?」
彼女の真っ直ぐで真剣な瞳に彼は少したじろいでしまった。そして、申し訳なさそうに彼は言葉を紡ぐ。これから正直に述べることで、彼女に怒られてしまうのではないか、見放されてしまうのではないかと彼は気が気でなかった。彼女と出会った日は、彼女との空間が心地よかったのに、この日は彼女に本音を話すくらいならいっそ死んでしまいたいとまで思った。
「……死んでしまいたい、というのが正直、今の気持ちです……」
搾りかすのような彼の声に、彼女は潤いを与えるかのような提案を施した。彼の本音を包み込む彼女の器に彼の不安は取り越し苦労に終わった。
「そっか。死んでしまいたい、か。でもさ、このまま死んでしまうの、私、ちょっともったいない気がするなぁ」
「え……?」
死んでも怒られないの?と彼の頭の中にはクエスチョンマークが山ほど浮かんだ。
「終活って聞いたことあるでしょう」
「ありますけど……」
「私、思うの。若いうちからでもそういうのしてもいいんじゃないかなって。自分自身がこれ以上何も望まないと思えたら死を選ぶ。死に方くらい自分で好きなように選んでもいいじゃないって私は思うんだよね」
彼女は彼にそう簡単に死を選んでほしくはなかった。あの人の最期の顔を思い出しては、死についてもっと真剣に向き合ってほしいという願いを込めた。
「それが、若者のための終活……」
彼は少し希望が見えた気がした。死ぬことが悪という概念に囚われてきた彼にはない発想だった。
「そう。自分の人生をやり切ったって思ってから死ねたらすっきりするじゃん」
彼女はそう言って背伸びをした。今まで慣れない良い姿勢をしていたせいか背中が痛くなっていた。彼女の提案はアキオの人生観に新たな風を吹かせた。こうして彼女と話すことで彼はまた彼女との空間に心地よさを感じられると確信した。