第52話 転-22

文字数 647文字

 翌日アキオはユウタに奥の部屋に呼び出された。ユウタは、昨日貴婦人から貰ったお金の一部を彼に渡した。彼はこれまで貰ったことのない額に目を丸くしていた。
 「どうしたんですか、これ」
 「アキオ、大事な仕事が来た。とは言え今回はテーマは自由だ。アキオがこれまで感じてきた感情をカンバスにぶつけてほしい。勿論、報酬はいつも通り振り込む。出来るかい?」
 「分かりました。やれるだけやってみます」
 彼は、これまでの中で一番大きな仕事が来たのだと固唾を飲んだ。手のひらに残るずっしりとした感触が、後戻りはできない所まできたことを実感させた。そして、彼はタクミに悟られぬよう、何事もなかったかのように教室に戻ったが、彼の不自然な所作にタクミは何かあったのだろうと気づいたが、見て見ぬふりをした。教室にはそれぞれの作業の音だけが響き渡っていた。
 作業を始めてから何時間が経ったか分からなくなってきた頃、集中力の切れたアキオは、最近ハルカの姿を見ていないことに気づいた。
 「そう言えばハルカちゃんは?最近姿を見ていないけど」
 「あー、ハルカならパリで取材だって。大丈夫、ちゃんとアキオの分までお土産頼んでおいたから心配するな。俺も来週からアメリカ行くけど何かいるものある?」
 「へー……パリ……へー……アメリカ……」
 彼らの感覚にアキオの頭はショート寸前だった。
 「おーい、大丈夫かー……だめだこりゃ」
 この日、彼の中で色々なことが頭の中でごちゃ混ぜになって、整理するのに多少時間がかかった。
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