第40話 転-10
文字数 1,619文字
後日、ある程度考えをまとめた彼は、看板のデザインを練り、実際に必要な材料をそろえ、再びあのアトリエに足を運んだ。いつでも入れるようにと、あの時にユウタからアトリエの合鍵を渡されていた。彼は、それで鍵を開けようとしたが、鍵はすでに開いていた。
彼はそのまま戸を開けると布団が足元に敷いてあった。そこからぬっと顔を出したのはタクミだった。
「わぁ!……なんだ、タクミさんかぁ……」
心臓に悪いと彼は胸を撫でおろした。
「なんだ、あんたか。こんな早い時間にここに来るってことは、もしかしてあんたもニートか?」
彼は眠たそうに眼をこすりながら、自分のココアを入れ始めた。アキオは彼の言い草に少し胸を痛めたが、否定のしようもなかった。
「まぁ、そんなとこ。タクミさんはここに住んでるんですか?」
「俺はリストラされてからはニートだからな。実際、ここはユウタが開いたアトリエだが、居心地が良すぎていつの間にか私有化してしまった」
「ユウタさんと仲がいいんですね」
「あいつは良いやつだ。ホームレスで絵を描いているところを拾ってくれたからな。それに、ここに住み着いても文句の一つも言いやしない。あ、因みに、ユウタの方がジジイだからな。俺は26だが、あいつは今年30になる。そこだけははき違えるなよ」
「はぁ……」
彼は童顔なので、アキオよりも年上だとは思ってもいなかった。そして、彼もまた、アキオと少し状況は違えど、似たような境遇を持っていることを知って、少し心を開けそうだと感じた。
「今日はそんな大荷物を抱えて何しに来たんだ?」
「今日は看板のデザインを考えようと思って。どうしても、この看板をつけてほしいお店があるんだ」
彼の自由奔放で大雑把な性格はどこか文の姿を重ねてしまう。そのおかげか、アキオが彼と打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
彼は、タクミが再び寝る準備をし始めたのを後目に、習字道具をいそいそと用意し始めた。そして、大きな紙に彼は大胆に彼女の店の名前を何パターンも刻んだ。
「うぃっすー。って、墨くっさ。一体ここで何してんのよ」
彼がデザインを本格的に考えだしてから、何時間経っただろうか。日が暮れる頃に、パステルカラーのリュックサックを背負ったハルカが、鼻をつまみながらやってきた。
「あ、こんにちは。すみません……すぐに片すんで、待っててください」
「気にしなくていいよ。ねぇ、イケメンのお兄ちゃん、アキオって言ったっけ?」
「はい」
「アンタ、ここに来るってことは、社会のはみ出し者だね?」
彼は彼女の言っている意味が理解できなかった。ずいっと、彼女は彼との距離を詰めた。そして彼女は影のある笑顔で話を続ける。
「何でアンタがここにすんなりと入会できたと思う?ユウタガアンタもアタシ達と同じ匂いがするって見越して入会を許可したんだよ。アキオお兄ちゃん、ユウタの裏の姿、知ってる?」
「ハルカ、まだ、そいつにそれは言っちゃだめだ。そいつが、“先生の指導”を受けてからにしろよ」
目を覚ましたタクミが先を続けようとしたハルカを制止する。
「分かったよー。ま、イケメンのお兄ちゃん、これからも、多分、よろしくね」
彼女は無邪気に手のひらをひらひら振っていた。
彼は彼女の言っている意味が分からないまま、アルバイトのことを思い出して、素早く荷物をまとめた。
「あ、そうだ。逃げるなら、今のうちだよー」
彼は、彼女の言葉に引っ掛かりながらも、急いでアトリエを後にした。
アキオは、ハルカの言葉を気にしないようにしていた。彼は何のためにアトリエに通うのか、もう一度目的を確認して、彼女の言葉の影を消すようにした。彼は、デザインを学びたかった。そして、彼は芸術に浸りたかったのだ。だから彼は自分でアトリエを探して、通うことを決意したのだ。彼はそう自分に言い聞かせていた。
彼はそのまま戸を開けると布団が足元に敷いてあった。そこからぬっと顔を出したのはタクミだった。
「わぁ!……なんだ、タクミさんかぁ……」
心臓に悪いと彼は胸を撫でおろした。
「なんだ、あんたか。こんな早い時間にここに来るってことは、もしかしてあんたもニートか?」
彼は眠たそうに眼をこすりながら、自分のココアを入れ始めた。アキオは彼の言い草に少し胸を痛めたが、否定のしようもなかった。
「まぁ、そんなとこ。タクミさんはここに住んでるんですか?」
「俺はリストラされてからはニートだからな。実際、ここはユウタが開いたアトリエだが、居心地が良すぎていつの間にか私有化してしまった」
「ユウタさんと仲がいいんですね」
「あいつは良いやつだ。ホームレスで絵を描いているところを拾ってくれたからな。それに、ここに住み着いても文句の一つも言いやしない。あ、因みに、ユウタの方がジジイだからな。俺は26だが、あいつは今年30になる。そこだけははき違えるなよ」
「はぁ……」
彼は童顔なので、アキオよりも年上だとは思ってもいなかった。そして、彼もまた、アキオと少し状況は違えど、似たような境遇を持っていることを知って、少し心を開けそうだと感じた。
「今日はそんな大荷物を抱えて何しに来たんだ?」
「今日は看板のデザインを考えようと思って。どうしても、この看板をつけてほしいお店があるんだ」
彼の自由奔放で大雑把な性格はどこか文の姿を重ねてしまう。そのおかげか、アキオが彼と打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
彼は、タクミが再び寝る準備をし始めたのを後目に、習字道具をいそいそと用意し始めた。そして、大きな紙に彼は大胆に彼女の店の名前を何パターンも刻んだ。
「うぃっすー。って、墨くっさ。一体ここで何してんのよ」
彼がデザインを本格的に考えだしてから、何時間経っただろうか。日が暮れる頃に、パステルカラーのリュックサックを背負ったハルカが、鼻をつまみながらやってきた。
「あ、こんにちは。すみません……すぐに片すんで、待っててください」
「気にしなくていいよ。ねぇ、イケメンのお兄ちゃん、アキオって言ったっけ?」
「はい」
「アンタ、ここに来るってことは、社会のはみ出し者だね?」
彼は彼女の言っている意味が理解できなかった。ずいっと、彼女は彼との距離を詰めた。そして彼女は影のある笑顔で話を続ける。
「何でアンタがここにすんなりと入会できたと思う?ユウタガアンタもアタシ達と同じ匂いがするって見越して入会を許可したんだよ。アキオお兄ちゃん、ユウタの裏の姿、知ってる?」
「ハルカ、まだ、そいつにそれは言っちゃだめだ。そいつが、“先生の指導”を受けてからにしろよ」
目を覚ましたタクミが先を続けようとしたハルカを制止する。
「分かったよー。ま、イケメンのお兄ちゃん、これからも、多分、よろしくね」
彼女は無邪気に手のひらをひらひら振っていた。
彼は彼女の言っている意味が分からないまま、アルバイトのことを思い出して、素早く荷物をまとめた。
「あ、そうだ。逃げるなら、今のうちだよー」
彼は、彼女の言葉に引っ掛かりながらも、急いでアトリエを後にした。
アキオは、ハルカの言葉を気にしないようにしていた。彼は何のためにアトリエに通うのか、もう一度目的を確認して、彼女の言葉の影を消すようにした。彼は、デザインを学びたかった。そして、彼は芸術に浸りたかったのだ。だから彼は自分でアトリエを探して、通うことを決意したのだ。彼はそう自分に言い聞かせていた。