第5話 起-5
文字数 596文字
アキオは、過去には夢があった。しかし、彼の学力が顕著に高く、その才に過度に期待した親と、その才を利用したい教師によって、もの心ついた時には英才教育というものによって夢を拒絶され、彼は何も感じない男となった。彼の学生生活は何も苦労はしなかった。勉学にも人間関係にも。ただ、建前やうわべだけのものであったため、彼にとって何も実感するというものはなかった。しなければならないものをする、そこにいる人たちとそつなく付き合う、それが彼の特技になっていった。彼には中身がなかった。年を重ねるごとに、それをどんどん感じるようになっていき、いつもその恐怖に苛まれていた。だから、大学は地元を離れたい、自分を見つめなおしたい、そう強く考えるようになった。一人になることで自分を見つめなおせると思ったからだ。しかし、現実はそうではなかった。これまで過保護に育てられ、咎められたこともなければ、間違いも教えてもらえなかった彼は目標を見つけることもやりたいことを見つけることも困難だった。そうして投げつけられた言葉は「中途半端」という冷たいものだった。それからは、彼の世界は無となった。頑張って、足掻いてみても認めてもらえず、周りのご機嫌をうかがうことで認められる世界は、彼の居場所になりうることはなかった。だから彼は、無を選んだ。自分以外は全員敵、誰にも本当の姿は見せられない。そうして彼は屈強な鎧を心に纏った。