第58話 結-5
文字数 709文字
文はあの展覧会からずっとアキオの帰りを待ちわびていた。あれからどれくらいの月日がたったか分からないが、彼女にとって、長い、永い月日だった。
急に彼女の家のインターホンが鳴った。彼女は彼が帰って来たのかと思った。インターホンを鳴らすなんて珍しいなと思いながら彼女は扉を開けた。しかし、実際は大きな見覚えのない荷物を運んできた宅急便のお兄さんだった。彼女はアキオから届いた見知らぬ荷物に怪しみつつも、サインをした。
彼女は恐る恐るその段ボールを開いた。その中にはあの日の展覧会の絵画が丁寧に梱包されていた。そして、そこに、通帳と手紙が入っていた。彼女はその手紙を読んで泣き崩れた。皮肉にも、この日は彼女と彼の出会いの日だった。
彼の遺書はとてもシンプルなものだった。彼女へのこれまでの感謝とこれからの彼女の未来の幸せを願うと、それだけ記されていた。そして一緒に入っていた通帳は彼のもので相当な額が彼女に残されていた。
予期せぬ彼の死は彼女にとって大きな打撃になった。彼女は彼に終活を勧めたことを責めた。何度も何度も彼女は自分自身を責めた。それでも、どれだけ自分を責めても彼は戻ってこない。
どれほどの日々が過ぎただろうか。ただいまという声も聞こえない部屋に、一羽の白いハトがやって来た。彼女は何故だか分からないがそれが彼のように思えて仕方がなかった。そのハトは七つ葉のクローバーをベランダに一つ添えて飛び立っていった。
そのハトはすぐに見えなくなった。
彼女はそっと「ありがとう」とだけつぶやいて、力強く前を向いた。
了
急に彼女の家のインターホンが鳴った。彼女は彼が帰って来たのかと思った。インターホンを鳴らすなんて珍しいなと思いながら彼女は扉を開けた。しかし、実際は大きな見覚えのない荷物を運んできた宅急便のお兄さんだった。彼女はアキオから届いた見知らぬ荷物に怪しみつつも、サインをした。
彼女は恐る恐るその段ボールを開いた。その中にはあの日の展覧会の絵画が丁寧に梱包されていた。そして、そこに、通帳と手紙が入っていた。彼女はその手紙を読んで泣き崩れた。皮肉にも、この日は彼女と彼の出会いの日だった。
彼の遺書はとてもシンプルなものだった。彼女へのこれまでの感謝とこれからの彼女の未来の幸せを願うと、それだけ記されていた。そして一緒に入っていた通帳は彼のもので相当な額が彼女に残されていた。
予期せぬ彼の死は彼女にとって大きな打撃になった。彼女は彼に終活を勧めたことを責めた。何度も何度も彼女は自分自身を責めた。それでも、どれだけ自分を責めても彼は戻ってこない。
どれほどの日々が過ぎただろうか。ただいまという声も聞こえない部屋に、一羽の白いハトがやって来た。彼女は何故だか分からないがそれが彼のように思えて仕方がなかった。そのハトは七つ葉のクローバーをベランダに一つ添えて飛び立っていった。
そのハトはすぐに見えなくなった。
彼女はそっと「ありがとう」とだけつぶやいて、力強く前を向いた。
了