第16話 承-10
文字数 727文字
「アキオ、私のバーで働いてみないか?」
買い出しから帰ると、彼女は寝起きのままの姿で突拍子もない提案をした。彼女にとっては前々から考えていたことなのだが、初めて彼に提案するような形だったため、彼は少し動揺していた。
「いいで……いいけど、人手が足りてないの?」
「あはは、別にそういうわけじゃないよ。アキオ、バイト辞めてからお小遣い稼ぎできてないから。それに、やりたいことがまだ見つかってないし、何かのきっかけにでもなればいいかなって思ってさ」
彼女は豪快に笑って彼の肩を強めに叩いた。彼女は彼を心配していたのだ。彼の周りの人たちはこの春には大学を卒業して、社会人として新しいスタートを切っている。彼はまだ卒業していないし、働いてもいない。周りと比較して躓いては立ち直れなくなってほしくなかった。ここまで彼の心を開かせることに彼女はだいぶん骨を折っているからである。また、彼女は彼に自身のバーで働いてもらうことは彼女の信念に沿ったものではあるし、彼に働くことはこういうことだという意義を学んでほしかった。彼のなりたかった、無難ではないが社会人がどういうものなのかということを。
「文さんがそういうなら、やってみるよ」
「うむ。意外とお酒も奥が深いからな、ハマるとなかなか抜け出せんよ」
彼女はそう言って豪快にビールを飲み干した。彼は、ハマるといった感覚に身に覚えはなかったので彼女の言うことを半信半疑で聞いていたが、最期には彼女への恩返しをしたいと考えており、お金を貯める必要があった。彼の中で心の底からこんなにも誰かに感謝をしたいと考えることなんて、もの心ついた時から一度もなかった。ゆえに、彼の中で経験のない感情に少し戸惑いもあった。
買い出しから帰ると、彼女は寝起きのままの姿で突拍子もない提案をした。彼女にとっては前々から考えていたことなのだが、初めて彼に提案するような形だったため、彼は少し動揺していた。
「いいで……いいけど、人手が足りてないの?」
「あはは、別にそういうわけじゃないよ。アキオ、バイト辞めてからお小遣い稼ぎできてないから。それに、やりたいことがまだ見つかってないし、何かのきっかけにでもなればいいかなって思ってさ」
彼女は豪快に笑って彼の肩を強めに叩いた。彼女は彼を心配していたのだ。彼の周りの人たちはこの春には大学を卒業して、社会人として新しいスタートを切っている。彼はまだ卒業していないし、働いてもいない。周りと比較して躓いては立ち直れなくなってほしくなかった。ここまで彼の心を開かせることに彼女はだいぶん骨を折っているからである。また、彼女は彼に自身のバーで働いてもらうことは彼女の信念に沿ったものではあるし、彼に働くことはこういうことだという意義を学んでほしかった。彼のなりたかった、無難ではないが社会人がどういうものなのかということを。
「文さんがそういうなら、やってみるよ」
「うむ。意外とお酒も奥が深いからな、ハマるとなかなか抜け出せんよ」
彼女はそう言って豪快にビールを飲み干した。彼は、ハマるといった感覚に身に覚えはなかったので彼女の言うことを半信半疑で聞いていたが、最期には彼女への恩返しをしたいと考えており、お金を貯める必要があった。彼の中で心の底からこんなにも誰かに感謝をしたいと考えることなんて、もの心ついた時から一度もなかった。ゆえに、彼の中で経験のない感情に少し戸惑いもあった。