第39話 転-9

文字数 617文字

 それからアキオは、早めにアルバイトの出勤準備をして、文のバーの店の雰囲気をつかむため、スマホで店構えを写真に収めていた。いつもと雰囲気の違う彼に彼女は不思議がっていた。とはいうものの、彼女は出勤前まで1分1秒まで自分の時間を無駄にはしなかった。
 彼は細部まで彼女の店の造りをカメラに収めていた。アルバイトがない日は、彼女から貰ったスケッチブックに、写真を見ながら彼女の店を模写しながら、看板を置く位置を吟味していた。彼女の店は、こじんまりしていてシックな外観だった。だから、あまり派手ではなく大きすぎないものの方が、景観を壊さないと彼は思った。また、緑川さんは静かな空間の中に感じるアットホームな雰囲気が好きだと言っていた。そこから彼は、材質のインスピレーションを貰った。暗めの色を基調とした木材を用いて作ろう。彼は、その材質をスケッチブックの模写に当てはめて、違和感のない雰囲気に自信がついた。
 それから彼は、デザインのインスピレーションを沸かすために、連日飲み屋街に繰り出し、散策をしていた。ネオンで彩られたものが多かったが、中にはモダン調のコンクリートにそのままペンキで描かれたものや、シンプルな横文字で描かれたものがあった。
 彼女の店の雰囲気は、シンプルなのだが、どちらかと言えば和テイストなのだ。和、という響きに彼は、習字を思いついた。幸い、彼は毛筆の有段者だった。彼はこれを活かしてみればいいのではないかと思った。
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