第25話 承-19

文字数 533文字

 お酒の勉強会という名の飲み会から程なくして、彼はアルバイト中に簡単なお酒なら作らせてもらえるようになった。任される仕事の量が増え、忙しくはあったものの彼はアルバイトの日々を楽しく過ごしていた。そんな日常の中、彼はこの日、ちょうどアルバイトを入れていない日で、何も予定がなかった。珍しく彼は春の陽の温かさにうとうとし、昼寝をした。
 はっと目を覚ました彼は夢を見ていた。幼い日の頃を描いた夢だった。彼はその夢で、水彩絵の具で絵を描いていた。
 「僕、大きくなったら絵描き屋さんになるんだ」
 なんて、夢の中の幼い彼は言っていた。それを聞いては微笑んでいた父の姿があった。彼は思い出した。彼の唯一抱いていた将来の夢は画家だった。彼が画家になりたいと言うと、子供の戯言だと両親に馬鹿にされた現実も思い出したが、確かにあの夢は実在していた。彼女の話の影響だろうか、そうじゃないのか分からないが、やっと思い出せた。彼はようやく痒い所に手が届く思いをすることができた。
 この夢で彼ははっと気づいた。彼はやりたいことが見つかって、ただ単純に嬉しかった。絵をもう一度描きたい。もう一度、馬鹿にされていた画家を目指したい。彼は、心の底からそう願った。体中がうずくような感覚だった。
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