第33話 転-3

文字数 829文字

 文は意外と凝り性だ。一つのことをしようとすると細部にまで気を使ってしまう。他人のことになるともっとひどくこだわってしまう。だから、彼女はアキオの誕生日プレゼントせっかくを用意したのだから、序でに、ケーキも用意しておこうと思った。彼女は彼と何度かカフェに行く機会があった。決まって彼はアイスティーと一緒にチーズケーキを頼むのであった。彼女はそれをなんとなく覚えていた。だから、彼女は作りやすいレアチーズケーキを用意することにした。
 彼女はそれを彼に悟られないようにするために、今晩の鍋のおかずの買い出しを頼んでおいた。チーズケーキの材料は彼女が昨日のうちに用意しておいた。
 寝起きの彼女は重たい瞼をこすりながらも、長い髪をくくり、手際よく材料の用意をした。バタークッキーを砕く間にバターをレンジで溶かし、横でクリームチーズを常温で柔らかくしている。溶かしバターをクッキーになじませたら型にそれを敷き詰め、上層部に取りかかった。常温に戻したクリームチーズにヨーグルト、生クリーム、砂糖、レモン果汁をボウルにひとまとめにしたら、なめらかになるまで混ぜ、バニラエッセンスで香りを付け、お湯で溶かした粉末のゼラチンをそこに注いだ。そしてそのチーズクリームを型に注ぎ込み、冷蔵庫に寝かせ固める。彼女は慣れた手つきでその工程を素早くこなした。全ては彼の買い出しに間に合わせるためと、二度寝をするためだった。
 ほどなくして何も知らない彼が、買い出しから戻ってきた。
 「ただいまー」
 「お疲れ。買った物、野菜室に入れといて」
 彼女は彼にケーキを悟られないように敢えて野菜室と言った。
 「はーい。あれ?何か甘いにおいがするけど文さん、ケーキか何か食べた?」
 彼女は彼の鋭い嗅覚に内心どきりとした。彼女は、犬かよ!と心の中で突っ込みを入れた。それでも、彼女は彼にしらを切っておいた。
 「んー、無性に食べたくなってな。気にせんといて」
 そして彼女は二度寝した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み