第48話 転-18
文字数 1,401文字
「ああ!もう、描けない!」
ハルカは苛立った口調でGペンを床にたたきつけた。彼女は最近ここのところずっとこんな調子で、アトリエの空気はピリついていた。
「ハルカちゃん、最近いつもあんな調子だけど、何かあった?」
アキオは、初めて見る彼女の態度に戸惑って、タクミに小さな声で尋ねた。
「ああ、いつものことだよ。あいつ、たまにあるんだ。連載中の漫画でスランプに陥ったら、すぐ何かに当たり散らす。関わると危険だから放っておいた方がいい。とりあえず、今日はあいつの漫画締め日だ。本当に関わらない方がいい」
彼は彼女を気にも留めずに布団の中でゲームをしていた。アキオは、彼女が漫画を描いていることを初めて知り、今更アトリエのメンバーのことを何も知らないことに気づいた。それと同時に、彼女がどういう漫画を描いているのかとても気になった。タクミにはくぎを刺されていたものの、彼の体が勝手に動いた。
「ねぇ、ハルカちゃんの漫画ってどんなの?」
彼の行動にタクミはあーあ、やっちまったと言わんばかりの大きな溜息をついていた。
「うっせーんだよ、タコ。こっち来んな」
彼女はしっしと彼を払いのける。そのハルカの態度に彼は傷ついたが、チラリと見えた彼女のネームには見覚えのあるキャラクターの姿があった。
「あ、そのキャラクター知ってる。その漫画面白いと思ってたんだけど、ハルカちゃんが描いてたんだね!凄いや!」
「あっそう」
彼女はぶっきらぼうにそっぽ向いたが、まんざらでもなさそうにそっとGペンを拾い、再びペン入れを始めた。作品に向き合う彼女の顔つきはいつもとは違う真剣なものだった。
「分かりやっす」
タクミはボソッと呟いた。彼女はキッと彼に踵を返したが、すぐに作業に戻った。締め切りが近づいていることは自覚していたからである。
正午を過ぎたころ、ユウタがアトリエに顔を出した。彼はめったにアトリエに来ないということをアキオは最近気づいた。タクミいわく、仕事が忙しい、らしい。
「ハルカ、そろそろ時間だけど終わりそうかな?」
「ユウタ、あと2ページだから手伝って。背景だけでいいから」
彼女は彼の方を見向きもせず、手を動かしながら言った。
「はいはい、いつものね」
彼は慣れたような手つきで、彼女に頼まれた背景を描き始めた。彼はめったにアトリエに顔を出さない割には器用な手つきで素早く作業こなしていた。そして、あという間に原稿が完成した。
「じゃぁ、今週の原稿はこれで上りね。お疲れ様。来週はコミックの作画の締め切りもあるから気を付けてね」
そう言って彼は彼女の原稿を持ってアトリエを出た。彼女は恨めしそうに彼の背中の向けて舌を出していた。
「ハルカちゃんは人気漫画家さんだったんだね」
「あいつがスキルを叩きあげてくれたおかげだよ。まぁ、今ではあいつの社畜、感謝の一つも出てこないけどね」
「ハルカちゃんは、アシスタントを雇わないの?」
「昔はいたよ。でも、み~んな逃げちゃった。アタシの指示が細かすぎるんだってさ。だから今は一人でやってる。間に合わない時だけユウタに頼るけど」
「ハルカちゃんは、どうしてここのアトリエを選んだの?」
彼の質問に彼女は少し口をつぐんだ。しかし、どうせ後からバレるだろうと、彼女は覚悟を決め、彼に洗いざらいすべて話すことにした。
ハルカは苛立った口調でGペンを床にたたきつけた。彼女は最近ここのところずっとこんな調子で、アトリエの空気はピリついていた。
「ハルカちゃん、最近いつもあんな調子だけど、何かあった?」
アキオは、初めて見る彼女の態度に戸惑って、タクミに小さな声で尋ねた。
「ああ、いつものことだよ。あいつ、たまにあるんだ。連載中の漫画でスランプに陥ったら、すぐ何かに当たり散らす。関わると危険だから放っておいた方がいい。とりあえず、今日はあいつの漫画締め日だ。本当に関わらない方がいい」
彼は彼女を気にも留めずに布団の中でゲームをしていた。アキオは、彼女が漫画を描いていることを初めて知り、今更アトリエのメンバーのことを何も知らないことに気づいた。それと同時に、彼女がどういう漫画を描いているのかとても気になった。タクミにはくぎを刺されていたものの、彼の体が勝手に動いた。
「ねぇ、ハルカちゃんの漫画ってどんなの?」
彼の行動にタクミはあーあ、やっちまったと言わんばかりの大きな溜息をついていた。
「うっせーんだよ、タコ。こっち来んな」
彼女はしっしと彼を払いのける。そのハルカの態度に彼は傷ついたが、チラリと見えた彼女のネームには見覚えのあるキャラクターの姿があった。
「あ、そのキャラクター知ってる。その漫画面白いと思ってたんだけど、ハルカちゃんが描いてたんだね!凄いや!」
「あっそう」
彼女はぶっきらぼうにそっぽ向いたが、まんざらでもなさそうにそっとGペンを拾い、再びペン入れを始めた。作品に向き合う彼女の顔つきはいつもとは違う真剣なものだった。
「分かりやっす」
タクミはボソッと呟いた。彼女はキッと彼に踵を返したが、すぐに作業に戻った。締め切りが近づいていることは自覚していたからである。
正午を過ぎたころ、ユウタがアトリエに顔を出した。彼はめったにアトリエに来ないということをアキオは最近気づいた。タクミいわく、仕事が忙しい、らしい。
「ハルカ、そろそろ時間だけど終わりそうかな?」
「ユウタ、あと2ページだから手伝って。背景だけでいいから」
彼女は彼の方を見向きもせず、手を動かしながら言った。
「はいはい、いつものね」
彼は慣れたような手つきで、彼女に頼まれた背景を描き始めた。彼はめったにアトリエに顔を出さない割には器用な手つきで素早く作業こなしていた。そして、あという間に原稿が完成した。
「じゃぁ、今週の原稿はこれで上りね。お疲れ様。来週はコミックの作画の締め切りもあるから気を付けてね」
そう言って彼は彼女の原稿を持ってアトリエを出た。彼女は恨めしそうに彼の背中の向けて舌を出していた。
「ハルカちゃんは人気漫画家さんだったんだね」
「あいつがスキルを叩きあげてくれたおかげだよ。まぁ、今ではあいつの社畜、感謝の一つも出てこないけどね」
「ハルカちゃんは、アシスタントを雇わないの?」
「昔はいたよ。でも、み~んな逃げちゃった。アタシの指示が細かすぎるんだってさ。だから今は一人でやってる。間に合わない時だけユウタに頼るけど」
「ハルカちゃんは、どうしてここのアトリエを選んだの?」
彼の質問に彼女は少し口をつぐんだ。しかし、どうせ後からバレるだろうと、彼女は覚悟を決め、彼に洗いざらいすべて話すことにした。