第51話 転-21

文字数 877文字

 高価なスーツに身を包んだユウタは豪勢なドレスに高価なアクセサリーを身にまとった貴婦人と商談していた。
 「初めまして、私こういう者と申します。ところで、今日はどのようなご注文でございましょう?」
 「お宅に、アキオさんという方がおられるでしょう?その方の絵が欲しいの。前金はこのくらいでどうかしら」
 彼女は絵画コレクターで、彼女に認められた画家は一躍有名人になると巷で噂されている。ただ、彼女は凝り性故に、彼女に携わった画家で再起不能になるまで追い込まれる者も数多くいた。彼は、先生の言う博打とはこのことだと実感し、ぞくぞくしていた。彼の眼は千里眼といわれるほど鋭い。先生は、アキオの絵が彼女のお眼鏡にかなうということを見越していたのだ。
 恐らく、今の彼なら彼女の依頼を受け入れて、見事な作品を仕上げるだろう。ただそこから、彼がどうなるかユウタは楽しみだった。彼女という試練を乗り越えれば確実にアキオという男は伝説になるしかし、一歩間違えれば彼は、廃人になってしまう。いや、もしかしたらそれ以上の悲惨なルートをたどってしまうことになるだろう。
 ユウタはそれを知ったうえで、前金を受け取った。彼は、お金さえ手に入ればそれでよかった。アキオがどうなろうとほかの二人が機能さえしてくれればそれでよかった。彼らは彼女に気にいられなかった方のアーティストなのだから。
 彼は、タイプの違うタクミ、ハルカ、アキオの3人をアトリエにかくまう理由は彼の信念にあった。彼は、社会のアウトサイダーの感情の爆発こそ高価な芸術作品ができると考えていた。彼らは、形こそ違えど、共通して、社会からのはみ出し者だ。それは目を見ただけで分かる。彼らは凡人とは違うものを持っている。彼は、そんな彼らに居場所を与えてビジネスをしているという感覚にすぎないのだ。そんな彼らの居場所がアトリエkakuregaである。彼は軽く会釈をし、アタッシュケースを抱えて貴婦人のもとを後にした。
 彼がアトリエに着いたのは深夜を回ったころだった。慎重にケースを奥の部屋まで運び、金庫にお金を詰めた。
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