第47話 転-17

文字数 823文字

 アキオは、文の店の看板とホームページを制作してから、達成感と芸術の楽しさに包まれていた。そして彼は、更に芸術の道を究めたいと考えていた。そのせいか、彼は以前よりもアトリエに入り浸るようになっていた。たまにアパートに戻ってくる彼の表情は、これまでとは打って変わって生き生きとしていた。そんな表情を見た彼女は彼の成長を感じるとともに、彼が彼女から離れていくことを実感して寂しくなった。
 「アキオ君、もし良かったらなんだけど、僕の知り合いが絵を欲しがっているんだ。どうだい、一枚描いてみないか?」
 「え、僕が描いていいんですか」
 「最近、君の腕が上達してきたと思ってね。もし、アキオ君の都合が良ければ、の話なんだけど……」
 「やります!やらせてください!」
 ユウタからの唐突な絵の依頼に彼は驚いたが、彼は初めて他人に認められたようで、その嬉しさから二つ返事で引き受けた。
 依頼主は、絵を玄関に飾りたいらしい。その人の家のインテリアは白と黒を基調としているらしく、モダンな作品を望んでいるらしい。彼は、それを聞いて、作品のイメージをピンとひらめいた。彼はおもむろにカンバスを黒くペンキで塗り始めた。そして、ローラーで大胆に白線をひき、赤のインクを散りばめた。そしてど真ん中に針金のモニュメントを添えたいと思った。彼は、そのモニュメントの形に苦戦したが、何重にも針金を巻き付け、重々しいものが完成した。形容しがたい針金のソレを、彼はカンバスにぐっと差し込んだ。
 依頼されてから、2ヶ月程度で彼は作品を仕上げ、ユウタにそれを引き渡した。
 「よろしくお願いします」
 「思ったよりも早く出来上がったね。流石、アキオ君だ。君に頼んでよかったよ。またよろしくね」
 「はい!」
 ユウタは涼しげな顔をして高級車に乗り込んだ。彼は、これまで見たことのない彼の丁寧な格好に少し違和感を覚えたが、それよりも褒められたことと、また次があることに歓喜した。
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