第31話 転-1

文字数 652文字

 アキオは、文に絵を描きたいと告げてからというものの何から始めていいか分からなかった。それに、肌寒い日が本格的に始動し、こたつから出るのが億劫になっていた。それゆえ、彼はそれを理由に、アルバイト以外何もしないでぐうたらする日々が続いていた。
 彼女は、引きこもりニートのような生活をする彼に不愉快な気持ちが募っていた。この前の絵を描きたいという熱意はどこへ行ったのだと呆れていた。しかし、彼女が無理に急かす様なことをして、彼がやっと見つけたやりたいことに対してやる気が失せてしまうようなことになっても困る。彼に早くその熱意を実際に見せてほしい。それでも、彼の、これまでもがき苦しんで手に入れたやりたいことが、水の泡になってほしくはない、といった板挟みの状況下に彼女は苛まれていた。それに、彼がどれだけ早く絵を描くことに夢中になっても、結局行きつく先は彼の「死」なのである。彼女はこれまでたったの一年間ではあるが、彼と過ごした日々を楽しいと感じていた。願わくば、形が変われど彼とずっと関わっていきたいとも思っていた。だから彼女は、この日も何もしない彼を見て見ぬふりをしては優しく彼を見守るだけだった。優しくすることだけが優しさじゃないのは、彼女にとって痛いほどよくわかっていた。だけど、それで彼の死期が早まったら、それはそれで彼女は自分を責めてしまいそうで結局彼を甘やかしてしまう。彼女はそんな自分にも苛立っていた。
 甘やかすのを辞められない、それでもこのままでもいけないと思った彼女はとある行動に出た。
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