第6話 起-6

文字数 409文字

 「これからどうするのさ。そんな状態で、まだ就活をつづける必要なんてあるの?」
 文は彼の過去に何かわだかまりがあることを瞬時に察したが、柔らかな表情を一つも変えずに彼に優しいお姉さんという姿を演じ続けた。
 「じゃあ、どうすればいいんですか?職を得なければ生きてなんかいけない。僕は……このまま死ぬか、無難な人生を歩むかしかないんです……」
 彼にとって彼女の言葉は癪に障るものだったのだろう。彼女にとってそれは痛いほどわかる。彼女はそんな彼を、自身の過去に重ねて苦しくなった。これ以上綺麗な彼を世間に汚されてほしくはないと思った。
 「僕には、頼れる人なんていない……僕がどうなったって誰にも関係ないだろう……」
 彼は小さく力なく呟いた。自分に言い聞かせるように呟いた。彼女はそんな彼の些細な行動を見逃さなかった。彼の小さなSOSを。だから彼女は彼にそのまま思ったことを言った。
 「私と一緒に暮らしてみない?」
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