第10話 承-4

文字数 348文字

 これから二人の共同生活が始まるとはいえ、アキオは居住地を移しただけで大学生活やアルバイトはそのままの状態だった。だから、彼は学校とアルバイトに行くときは暗い現実に引き戻されるような感覚に陥っていた。
 いってらっしゃいと眠たい目をこすらせる文に対して、彼は完璧に作られた笑顔を見せて家を出た。彼にとって彼女との生活は楽しかった。彼女の生活は雑で適当なものだったが、それでも、彼の今までの不安材料から守ってくれているという安心感があったし、彼女のおっちょこちょいなところも見ていて和む日常があった。これまでの独りだった生活からはかけ離れた生活だ。彼は、彼女との生活には満足していた。だが、胸につかえるわだかまりが彼の中にあった。そのわだかまりが何かに気づくまで、彼はもうすぐそこまで来ていた。
 
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