第22話 Phase21

文字数 1,128文字

 ギターの音が響く。俊と蒼は目を合わせる。呼吸も合わせて、リズムを変え、ゆっくりと弾き終わった。
「できた!」
「やっと弾けた……」
 蒼は目を輝かせ、俊はほっと息をついた。
「緊張した……」
 俊はぐっと背を伸ばす。体のほぐれる感覚が気持ちよかった。
「緊張? なんで? 私と二人なのに」
 蒼はきょとんとする。
「だって俺何回もミスったし、その度に蒼に教えてもらって何回も付き合ってもらったからさ。これ以上迷惑かけられないって思ってたんだ」
「別にいいのに」
 蒼はあきれたように俊を見る。
「できないならできるまでやる。基本でしょ? 私だって、俊くんと合わせる練習してたんだし。だから、迷惑とか考えないで」
「ごめん……」
 思わず謝ってしまった俊を、蒼は不満げににらむ。
「違うでしょ。謝る必要なんてないんだから」
 蒼にそう言われ、俊はほっと口元を緩めた。
「……ありがと、蒼」
「うん」
 蒼は正解、というように笑った。
「ちょっといい?」
 陸斗の声がした。蒼は慌てておろしていた髪を後ろで一つにまとめた。ドアが開く。陸斗のもつお盆の上にはケーキが二つ。
「試作品なんだけど、食べてみてくれないか? 感想が聞きたい」
「めずらしいね。普段は感想聞きたいなんて言わないのに」
「ちょっとな」
 陸斗は言葉を濁した。
「作っといてなんだけど、蒼くん、アレルギーとかある?」
「ありません。僕も食べていいんですか?」
「もちろん。あ、できれば感想も」
(なんか仕掛けたな……)
 俊は感想にこだわる陸斗に違和感を覚える。しかし、陸斗が食べ物をいたずらに使うとは考えにくい。俊は警戒しながらもケーキを一口食べた。
「……おいしい」
「ほんとだ。生地がサクサクしてておいしい」
 蒼は幸せそうに頬張る。俊も警戒心が薄れた。
「これ、クリームが少ないから俺でも食べれる」
「俊、クリーム苦手なの?」
 蒼は意外だと言いたげに俊を見た。
「なんかダメなんだよ。もしかして陸斗くん、俺のためにこれ作ったの?」
「それもあるけど、俊みたいにクリームが苦手っていう人いるんだろうなと思ってな。その分のお客さん逃しちゃったらもったいないし」
 そこまで陸斗が言った時、来客を告げるベルが鳴った。
「じゃあ、俺行くな。ほどほどで帰れよ」
 陸斗は足早に店の方へと行ってしまった。
「……陸斗くん、なんか隠してる」
「え?」
 蒼は聞き返す。俊の目は鋭く、少し怖い。
「陸斗くん、自分が作ったものには自信を持つタイプなんだ。人に意見を聞こうとか、そんなことしない。メニューに出してみて、売れなかったらやめるみたいなやり方だから」
(多分、俺たちに関わることだ。そうじゃなきゃ、蒼にも感想を聞きたいなんて言わないだろう)
 俊はそう思いながら、ケーキを頬張った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み