第5話 Phase4
文字数 1,008文字
我に返った俊は、相手に声をかける。
「……大丈夫、ですか?」
「えっと、えっと……」
相手はパニックになってしまっているらしい。はい、いいえで答えたら良い質問にすら答えられない。
「おーい。下校時刻過ぎてるぞ」
「すみません、すぐ帰ります」
俊は教師に返事をすると、相手を引っ張ってとりあえず学校から出た。
「……大丈夫か?」
俊はもう一度質問を繰り返す。
「はい……ごめんなさい」
相手は小さくなって謝る。なんだか俊は、自分が悪いことをしているような気分になった。
「俺、二年A組の相 馬 俊。えっと、名前……」
「……二年C組の、相 馬 蒼」
蒼は俊と目を合わせようとしない。
「ギター……」
俊がそうつぶやくと、蒼はハッとしたようにギターを抱える。俊を見る目は、怯えていた。
「ギター、上手かった」
「……ありがとう」
蒼は警戒していた。心臓がずっと波打っている。
「……いつも、あの教室でギター弾いてる?」
俊の問いかけに、蒼は答えたくないという意思表示をするように唇をきゅっと結んだ。
(多分、いつも弾いてるな……それに、学校祭の時に弾いていたのも、相 馬 くんだろうし)
俊がそう分析していると、蒼が「あの……」と口を開く。
「ぼ、僕がギター弾いてたこと、言わないで。誰にも」
まだ怯えたような目をしていたが、その目には有無を言わせないような強さもあった。
「……わかった」
俊がうなずくと、蒼はほっとしたようにこわばらせていた口元を緩めた。
よく見てみれば、蒼は整った顔をしている。大きな目は特徴的だ。やはり、学校祭の時のギターの人物と重なる。
「相 馬 くん、学校祭の時、ギター弾いてたよね?」
蒼はだんだん俊に慣れてきたようだったが、その質問にまた体をこわばらせてしまう。
「誰にも言わない。絶対に」
強く言い切った俊を、蒼はハッとしたように見た。しかし、すぐに目をそらした。
「……人違い、だと思う」
嘘だということはすぐにわかった。けれど、わかりやすい嘘をついてまで認めたくないということは、よほど言いたくないのだろう。俊は問い詰めるのを諦めた。
「……僕、もう帰るね」
そういうと蒼は、俊が止める間もなく立ち去ってしまった。
「前と一緒じゃん……」
一瞬だけ見えた蒼の横顔は、やはり学校祭の時のギターを弾いていた女子に重なった。
(しょうがないか。俺にだって秘密はあるし、それを言ったわけじゃないからな)
俊は暗くなってきた空に向かって息を吐いた。
「……大丈夫、ですか?」
「えっと、えっと……」
相手はパニックになってしまっているらしい。はい、いいえで答えたら良い質問にすら答えられない。
「おーい。下校時刻過ぎてるぞ」
「すみません、すぐ帰ります」
俊は教師に返事をすると、相手を引っ張ってとりあえず学校から出た。
「……大丈夫か?」
俊はもう一度質問を繰り返す。
「はい……ごめんなさい」
相手は小さくなって謝る。なんだか俊は、自分が悪いことをしているような気分になった。
「俺、二年A組の
「……二年C組の、
蒼は俊と目を合わせようとしない。
「ギター……」
俊がそうつぶやくと、蒼はハッとしたようにギターを抱える。俊を見る目は、怯えていた。
「ギター、上手かった」
「……ありがとう」
蒼は警戒していた。心臓がずっと波打っている。
「……いつも、あの教室でギター弾いてる?」
俊の問いかけに、蒼は答えたくないという意思表示をするように唇をきゅっと結んだ。
(多分、いつも弾いてるな……それに、学校祭の時に弾いていたのも、
俊がそう分析していると、蒼が「あの……」と口を開く。
「ぼ、僕がギター弾いてたこと、言わないで。誰にも」
まだ怯えたような目をしていたが、その目には有無を言わせないような強さもあった。
「……わかった」
俊がうなずくと、蒼はほっとしたようにこわばらせていた口元を緩めた。
よく見てみれば、蒼は整った顔をしている。大きな目は特徴的だ。やはり、学校祭の時のギターの人物と重なる。
「
蒼はだんだん俊に慣れてきたようだったが、その質問にまた体をこわばらせてしまう。
「誰にも言わない。絶対に」
強く言い切った俊を、蒼はハッとしたように見た。しかし、すぐに目をそらした。
「……人違い、だと思う」
嘘だということはすぐにわかった。けれど、わかりやすい嘘をついてまで認めたくないということは、よほど言いたくないのだろう。俊は問い詰めるのを諦めた。
「……僕、もう帰るね」
そういうと蒼は、俊が止める間もなく立ち去ってしまった。
「前と一緒じゃん……」
一瞬だけ見えた蒼の横顔は、やはり学校祭の時のギターを弾いていた女子に重なった。
(しょうがないか。俺にだって秘密はあるし、それを言ったわけじゃないからな)
俊は暗くなってきた空に向かって息を吐いた。