第21話 Phase20
文字数 1,165文字
俊も蒼も、それぞれの教室で机に向かっていた。今日は模試を受ける日だ。
(何これ、わからない……俊なら、パパーッと解けたりするのかな)
蒼は思わず俊のことを考えてしまっていた。しかし、はっと我に返ってもう一度問題に向き直った。
(これ、この前家で同じタイプのやったな)
俊はするすると数式を書いていく。
(成績落ちたら塾行かされるんだろうな……)
蒼との時間を、こんな余計なことでつぶしたくない。俊はギターを弾くために、蒼のために、必死に問題に向かった。
「終わったー!」
「……それは、どっちの意味で?」
「もちろん、模試の時間がだよ。まあ、自信があるわけじゃないけどね」
蒼は苦笑いする。けれど俊はそれがうらやましいと思った。
「……蒼は、将来何になるんだ?」
「えー? なんだろ……特にこれになりたいとかはないけど、ギターは続けたいかな」
「……そっか」
俊は言葉を見失ってしまった。
(俺、何言いたかったんだっけ……蒼がうらやましい? それは、蒼自身に言いたいことじゃない)
黙ってしまった俊を、蒼は心配そうにのぞき込んだ。
「俊くん? どうしたの?」
「いや……何言いたいか忘れた」
「何それー」
蒼はおかしそうに笑う。瞬間もどうでも良くなってしまって吹き出すように笑った。
「俊くんは? 将来、何になりたいの?」
まっすぐな目が俊を貫く。思わず答えに詰まってしまった。
「えっ……と、特にこれといったのはないかな」
「ギターは?」
「それはやってたい」
ギターに対する答えは本心だった。けれど、初めの答えは嘘だと言えば嘘になる。望んだわけではないが、道は決まっているようなものだ。
「一緒じゃん! 二人でずっとギター弾けてたらいいね」
蒼は楽しそうに笑う。その笑顔を裏切っているみたいで俊は心苦しくなった。
「そろそろ帰れよー」
見回りをしている先生の声に、二人は同時に立ち上がる。連れ立って外に出ると、冷えた空気が体を巡った。
「寒い! もう冬かー」
蒼は体を震わせる。空を見上げていた俊は思わずくしゃみをした。
「大丈夫?」
「……平気。暗くなる前に帰るぞ」
そう言うと俊は歩き出す。置いていかれそうになった蒼は、小走りで追いついた。
「別に、ちょっとぐらい暗くなっても大丈夫でしょ。高校生だよ?」
「……でも、危ないかもしれないから」
「何が?」
「蒼、顔きれいだから変なこと考えるやついるかもしれないだろ。用心するに越したことはない」
蒼はあっけにとられて思わず口を開けた。
「……なんだよ」
「俊くん、私の顔、きれいだって思ってくれてるの?」
「あっ……」
俊は途端に蒼から目をそらした。冷たい空気が気にならないほど耳が熱くなっていた。
「……忘れて」
「やだ!」
「お願いします」
「嫌ですー」
必死になっている俊がめずらしくて、おもしろくて、蒼はしばらくからかった。
(何これ、わからない……俊なら、パパーッと解けたりするのかな)
蒼は思わず俊のことを考えてしまっていた。しかし、はっと我に返ってもう一度問題に向き直った。
(これ、この前家で同じタイプのやったな)
俊はするすると数式を書いていく。
(成績落ちたら塾行かされるんだろうな……)
蒼との時間を、こんな余計なことでつぶしたくない。俊はギターを弾くために、蒼のために、必死に問題に向かった。
「終わったー!」
「……それは、どっちの意味で?」
「もちろん、模試の時間がだよ。まあ、自信があるわけじゃないけどね」
蒼は苦笑いする。けれど俊はそれがうらやましいと思った。
「……蒼は、将来何になるんだ?」
「えー? なんだろ……特にこれになりたいとかはないけど、ギターは続けたいかな」
「……そっか」
俊は言葉を見失ってしまった。
(俺、何言いたかったんだっけ……蒼がうらやましい? それは、蒼自身に言いたいことじゃない)
黙ってしまった俊を、蒼は心配そうにのぞき込んだ。
「俊くん? どうしたの?」
「いや……何言いたいか忘れた」
「何それー」
蒼はおかしそうに笑う。瞬間もどうでも良くなってしまって吹き出すように笑った。
「俊くんは? 将来、何になりたいの?」
まっすぐな目が俊を貫く。思わず答えに詰まってしまった。
「えっ……と、特にこれといったのはないかな」
「ギターは?」
「それはやってたい」
ギターに対する答えは本心だった。けれど、初めの答えは嘘だと言えば嘘になる。望んだわけではないが、道は決まっているようなものだ。
「一緒じゃん! 二人でずっとギター弾けてたらいいね」
蒼は楽しそうに笑う。その笑顔を裏切っているみたいで俊は心苦しくなった。
「そろそろ帰れよー」
見回りをしている先生の声に、二人は同時に立ち上がる。連れ立って外に出ると、冷えた空気が体を巡った。
「寒い! もう冬かー」
蒼は体を震わせる。空を見上げていた俊は思わずくしゃみをした。
「大丈夫?」
「……平気。暗くなる前に帰るぞ」
そう言うと俊は歩き出す。置いていかれそうになった蒼は、小走りで追いついた。
「別に、ちょっとぐらい暗くなっても大丈夫でしょ。高校生だよ?」
「……でも、危ないかもしれないから」
「何が?」
「蒼、顔きれいだから変なこと考えるやついるかもしれないだろ。用心するに越したことはない」
蒼はあっけにとられて思わず口を開けた。
「……なんだよ」
「俊くん、私の顔、きれいだって思ってくれてるの?」
「あっ……」
俊は途端に蒼から目をそらした。冷たい空気が気にならないほど耳が熱くなっていた。
「……忘れて」
「やだ!」
「お願いします」
「嫌ですー」
必死になっている俊がめずらしくて、おもしろくて、蒼はしばらくからかった。