第39話 Phase38

文字数 1,008文字

 「おかえり、俊」
 蒼を家に送り、戻ってきた俊に陸斗が声をかけた。俊が泊まることになったため、陸斗は店を臨時休業にしていた。
「陸斗くん、ごめんなさい。わがまま言って」
 謝ってくる俊を見て、陸斗は面食らってしまう。
「どうした、急に」
「せっかくの金曜日なのに、お店閉めさせたから……」
「……とりあえず、手洗ってこい。ご飯できてるから」
 手を洗い、戻ってきた俊の嗅覚をカレーの匂いが刺激する。ぐぅ、と俊の腹が鳴った。
「ははは、大盛りにするか?」
 陸斗に笑われ、俊はバツが悪そうに目を逸らしてつぶやく。
「わがまま言ったのに、図々しいみたいだ……」
「そうか? 腹が減るのは生理現象だぞ。それに、俊は俺の甥っ子なんだから、図々しいとか思うなよ」
 はい、と渡された皿を俊は受け取る。
「俺は、かわいい甥っ子が泊まりに来てくれて嬉しいよ」
 陸斗は俊をうながして座る。
「いただきます」
 俊は大きくカレーを頬張る。誰にも言ったことはないが、陸斗のカレーが一番の好物なのだ。しばらく、俊は無心でカレーを食べていた。
「俊。落ち着いたか?」
「うん……」
 俊はじっと陸斗を見つめた。
「どうした?」
「陸斗くんって、親に反抗したことある?」
 突然の質問に、陸斗は面食らってしまう。
「俺、さっきは勢いで父さんにふざけるなとか言っちゃったけど、なんか……悪いことしたかもしれないと思ってるんだ」
 俊が話すと、陸斗はうなずきながら口を開いた。
「まず、親に反抗したことがあるかだっけ? 俺は、かなり反抗したな。それこそ、俊と同じだよ。医者になれって散々言われたけど、好きなことをするんだってずっと言ってた。まあ、俺は次男だったし、兄さんが医者を目指してたから途中で諦めてくれたけど」
(やっぱり、長男とか次男とか関係あるんだ……)
 俊の考えを読んだように陸斗は付け加える。
「まあ俺は、長男とかにこだわるのは古いと思うけど。今回に関しては、反抗するのは悪いことじゃないと思うよ。自分の人生は自分で決めなきゃな」
 微笑む陸斗に、俊は勇気づけられたような気がした。自分の判断が間違っていないと、少しだけ自信を持った。
「陸斗くん、姉ちゃんと同じようなこと言うんだな」
「璃子と? ああ、そういえば璃子にも同じような話したな。俊みたいに急に来て、泊めてって言われたことあったよ」
 やっぱり姉弟(きょうだい)だな、と陸斗は笑った。なんだか恥ずかしくなって、俊はカレーを食べるのに没頭した。
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