第19話 Phase18
文字数 1,020文字
(俊くん、大丈夫なのかな……)
家に帰った蒼は机に向かっているにもかかわらず、別のことで頭がいっぱいだった。
「……もう、今日はダメだぁ」
集中できていないことに気づいて、蒼はペンを放り出した。こんな状態では、覚えられるはずの英単語も頭に入らない。
(俊くん、絶対何か隠してるよね……私には、言いたくないことなのかな)
ボスンとベッドに倒れ込む。そのまましばらく、天井を見つめていた。
「もー、なんかもやもやする!」
蒼は結んでいた髪をほどいた。鏡の前に座り、髪を手早く三つ編みにしていく。
「……違うな」
せっかく編んだ髪をほどく。今はもっと手の込んだ髪型にしたい。
蒼は鏡に向かい続ける。
「……うん、いい感じ」
横を向いて左右がそろっているかを確認しながら蒼は微笑んだ。我ながら渾身の出来だ。
(一人でやっても、虚しいだけだよね)
蒼は寂しそうに苦笑した。
「蒼、寝不足か?」
俊に顔をのぞきこまれてはっとした。ぼーっとしてしまっていたらしい。
「だ、大丈夫……」
「じゃないだろ。隈すごいけど?」
ごまかそうとするも、俊にはあっけなく見破られてしまう。蒼はご飯をつついていた箸を置いた。
「昨日、ちょっと夜更かししちゃって」
「ふぅん? なんか言いたいことあるなら聞くぞ?」
何かを見破られた気がして、蒼は慌てて首を振る。俊は怪しむように目を細めた。
「ま、いいけど。言いたくなったら、いつでも言えよ」
自分のことは棚に上げてそんなことを言う俊がなんだかおかしくて、蒼は思わず吹き出した。
「な、なんだよ」
馬鹿にされたと思った俊はムッとする。
「ごめん、ごめん。なんか、嬉しくなっちゃって」
「……嬉しい?」
「ふふふ」
蒼の笑い声に、俊はますます眉をひそめる。
「なんか私、大事にされてるなって」
「そりゃそうだろ。友だちだし」
俊はそう言った後、はっとして顔を赤らめた。
(俺は何を……)
蒼はますますにんまりと笑う。
「わ、笑うなっ!」
「えー? いいじゃない。嬉しいもん。私も、俊くんのこと友だちだと思ってるよ」
「……やめろ、恥ずかしい」
「はいはい。照れすぎだよ」
なんだか、いろんなことがどうでもよくなった。悩んでいることが馬鹿馬鹿しくなって、蒼は心の底から笑った。
それは俊も同じだった。自分を支配していた何かから、解放されたような気がした。
風が緩く、二人の間を吹き抜けていった。
「……気持ちいい風だね」
「……そうだな」
二人の間に、言葉は必要なかった。
家に帰った蒼は机に向かっているにもかかわらず、別のことで頭がいっぱいだった。
「……もう、今日はダメだぁ」
集中できていないことに気づいて、蒼はペンを放り出した。こんな状態では、覚えられるはずの英単語も頭に入らない。
(俊くん、絶対何か隠してるよね……私には、言いたくないことなのかな)
ボスンとベッドに倒れ込む。そのまましばらく、天井を見つめていた。
「もー、なんかもやもやする!」
蒼は結んでいた髪をほどいた。鏡の前に座り、髪を手早く三つ編みにしていく。
「……違うな」
せっかく編んだ髪をほどく。今はもっと手の込んだ髪型にしたい。
蒼は鏡に向かい続ける。
「……うん、いい感じ」
横を向いて左右がそろっているかを確認しながら蒼は微笑んだ。我ながら渾身の出来だ。
(一人でやっても、虚しいだけだよね)
蒼は寂しそうに苦笑した。
「蒼、寝不足か?」
俊に顔をのぞきこまれてはっとした。ぼーっとしてしまっていたらしい。
「だ、大丈夫……」
「じゃないだろ。隈すごいけど?」
ごまかそうとするも、俊にはあっけなく見破られてしまう。蒼はご飯をつついていた箸を置いた。
「昨日、ちょっと夜更かししちゃって」
「ふぅん? なんか言いたいことあるなら聞くぞ?」
何かを見破られた気がして、蒼は慌てて首を振る。俊は怪しむように目を細めた。
「ま、いいけど。言いたくなったら、いつでも言えよ」
自分のことは棚に上げてそんなことを言う俊がなんだかおかしくて、蒼は思わず吹き出した。
「な、なんだよ」
馬鹿にされたと思った俊はムッとする。
「ごめん、ごめん。なんか、嬉しくなっちゃって」
「……嬉しい?」
「ふふふ」
蒼の笑い声に、俊はますます眉をひそめる。
「なんか私、大事にされてるなって」
「そりゃそうだろ。友だちだし」
俊はそう言った後、はっとして顔を赤らめた。
(俺は何を……)
蒼はますますにんまりと笑う。
「わ、笑うなっ!」
「えー? いいじゃない。嬉しいもん。私も、俊くんのこと友だちだと思ってるよ」
「……やめろ、恥ずかしい」
「はいはい。照れすぎだよ」
なんだか、いろんなことがどうでもよくなった。悩んでいることが馬鹿馬鹿しくなって、蒼は心の底から笑った。
それは俊も同じだった。自分を支配していた何かから、解放されたような気がした。
風が緩く、二人の間を吹き抜けていった。
「……気持ちいい風だね」
「……そうだな」
二人の間に、言葉は必要なかった。