第40話 Phase39

文字数 1,026文字

 「よかったね、同じクラスになれて」
 にこにこと笑う蒼を見て、俊は戸惑いを隠せない。
「蒼って、理系だったのか?」
「そうだよ。あ、そうか。私、二年生の時は文理混合クラスだったから、俊くん知らなかったんでしょ」
「文理混合クラスなのは知ってたけど……文系だと思ってた」
 俊と蒼は三年生になり、同じクラスになった。
「学校でも、少しは話しやすくなるね」
「そう言っておきながら、人のいない教室にいるんだけど?」
「それは……」
「わかってるよ。俺だって、人のいない空間の方が落ち着くし」
 俊の言葉に、ほっとしたように蒼は口元を緩める。
「そういえば、蒼。俺たちに声かけてきた社長さん覚えてる?」
「さすがに忘れないよ」
 蒼は不満そうにむくれる。
「そりゃそうか。たまに、陸斗くんの店に来てるんだって」
「え? それ本当?」
「ああ。俺らの練習、聴いてるらしい」
「待ちきれないのかな」
 蒼は困ったように眉を下げた。
「待ってもらっているから、聴かないでとも言えないし」
「そうだね。あ、そういえば、歌の練習はどうする?」
 蒼の言葉にきょとんとした直後、俊はハッとする。
「歌! 全然練習してない! けど、歌はさすがに陸斗くんのところじゃできないだろ……」
 ギターの音なら多少はごまかすことができる。しかし、歌うとなれば話は別だ。
「私もそう思った。だからね、私の家で練習しない?」
「えっ」
 蒼の提案に、俊は目を丸くした。
「いやそれ……蒼の家の人に迷惑じゃ……?」
「基本的に夜まで帰ってこないから大丈夫。何か言われたら学校祭の練習だって押し通す。でも、ギターとか歌とかに詳しいわけじゃないから口も出されないと思う」
「けど、そんなに甘えるわけには……」
 まだ首を縦に振ろうとしない俊に、蒼はしびれを切らす。
「いいの! 子どもが周りの大人に甘えられるのは今だけだよ。それに、私はもう店長さんにお世話になってるもの。今は私が俊くんの方に甘えさせてもらってるから、今度は私の方に甘えてよ」
「……」
 黙ってしまった俊の顔を、蒼はのぞき込む。
「……俊くんは、人に甘えることを覚えようよ」
 蒼の言葉に、俊はふっと微笑んだ。
「えっ、どうしたの?」
「甘えていいって言われたの、初めてかもしれない」
「え、ああ……」
 蒼はこの前の俊の父を思い出して納得してしまう。
「蒼の家の人がいいって言うなら、甘えてもいいのかな……」
 自信なさげに見てきた俊に向かって、蒼は輝くように笑った。
「いいよ! 歌の練習もがんばろ!」
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