第24話 Phase23

文字数 981文字

 「何これ?」
 俊に例の名刺を差し出された蒼は、物珍しそうにそれを見る。
「陸斗くんが前来たお客さんにもらったんだって」
「ふうん。店長さんが。で、どうして私たちにくれたの?」
「それ、音楽会社の人の名刺なんだ」
 俊は名刺を指す。蒼は驚いたようにそれを見た。
「それって……」
「この人、俺たちのギターを聴いていたらしい。直接的に何かを陸斗くんに言ったわけじゃないらしいけど……」
「もしかして、その世界に……ってこと?」
 蒼はとりあえず息を吐く。
「別に、今すぐ決めるわけじゃない。その人が本当にそういうつもりで陸斗くんに名刺を渡したのかもわからないし。それに……」
「将来のことなんて、まだわからないもんね」
 蒼はすっぱりと言い切った。俊はうつむかせていた顔を上げる。
「だってそうでしょ? 私はたしかにギター好きだけど、それが仕事になるって言ったら、また違うし」
 俊はぽかんと口を開けたまま蒼の話に聞き入る。
「ちょっと、顔……」
 蒼は間の抜けた俊の顔を見て笑う。
「俊くんは、どう思ったの?」
「俺……?」
「なんか、私の答えに期待してたみたいだけど」
 俊はぎょっとした。心を読まれたようだった。しかし、俊でも本当にそう思っていたのかはわからない。言われて納得した。
「俺、は……」
「ちょっと興味ある?」
 俊は思わず心臓のあたりを押さえた。心の声が漏れているのかもしれない。
「でも……」
 息が苦しい。俊は胸を押さえていた手を握りしめた。
(俺は、俺の人生は……)
「もう決まってる……」
「え? 決まってるって、何が?」
 蒼のまっすぐな目に、俊は言葉を詰まらせる。
「いや……なんでもない」
 耐えきれずに俊は蒼から目をそらした。
「でも、やっぱり嬉しいよね」
 蒼は微笑みながら俊と目を合わせる。
「嬉しい……」
「だって、頑張ってることをちゃんと見ててくれてる人がいるんだなって思えるでしょ? こういうことがあると、今までやってきたことは無駄じゃないんだなってわかるから」
 蒼の言葉が、じわりと俊の心に染み込む。鼻の奥がツンとして、俊はあわててあふれそうなものを耐えた。
「俊くん……」
 遠慮がちな蒼の声が聞こえて、俊はぐっと笑ってみせた。
「ギター。弾こうぜ」
 無理しているのは丸わかりだった。それでも笑ってみせる俊に、蒼は声をかけることができない。
 響き出したギターはどこか悲しい音を含んでいた。
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