第44話 Phase43

文字数 1,086文字

 俊は思わずまじまじと侑里を見た。侑里の目も俊から逃げない。
「それは……その、蒼の秘密のことを、言ってるのか?」
 軽々しく話していいことではないとわかっている。俊は不用意なことを口走らないように言葉を選ぶ。
「蒼は、ちょっと変わってるから、そのことを聞いてます」
 侑里も俊の様子をうかがって、慎重に話す。
「変わってるっていう言い方はちょっと違うと思うけど、君が言いたいことはわかった。俺は一応知ってるよ。ところで、蒼は家族には隠してると言っていたはずだけど?」
 侑里が蒼の秘密を知っていることを、蒼は知らないのだろうか。
「蒼が隠してるのは知ってます。蒼が私に言ったんじゃなくて、私が知っちゃっただけ。だから蒼に聞くのも怖くて、秘密を知っていることを秘密にしてるみたいな状態です」
 侑里はすがるような目で俊を見る。
「あなたは、蒼から聞いたんですか」
「まあ、一応そうだよ」
 俊の答えに、侑里はあきれたような、どこか寂しそうな笑いをこぼした。
「家族には言えないのに、学校の人には言えるのね」
 侑里が言わんとしていることがわかって、俊はそれを否定する。
「蒼は、誰にでも言ってるわけじゃない。学校の人はほとんど知らないと思う。俺だって、偶然知ったようなものだし。だから、家族だけに言ってないわけじゃない」
 突然話し出した俊に、侑里は面食らったようだった。
「えっと、だから、蒼のことを責めたりしないでほしい。蒼は蒼なりに考えてて、その結果の判断で」
「なんで」
 俊の言葉を、侑里は遮った。
「なんでそんなに一生懸命なの? あなたは蒼とは違うのに」
「違うからだよ。俺は俺だし、蒼は蒼。自分と違うからこそ、蒼の考えてることを尊重したい。だから、蒼が周りから責められそうになるんだったら、俺は蒼の味方でいたい」
 俊のはっきりとした言葉に、侑里は息を飲んだ。こんなにまっすぐで強い目を見たことがなかった。
「俊さん、でしたっけ」
 侑里は改まって正座で俊に向き合う。
「蒼が秘密を打ち明けた理由、わかった気がします。突っかかってしまって、すみませんでした」
 丁寧に頭を下げてくる侑里を見て、思わず俊も軽く頭を下げてしまう。
「邪魔しちゃって、ごめんなさい」
「待って」
 部屋を出ていこうとする侑里を、俊は引き留めた。
「何ですか」
 呼び止めたはいいものの、俊は何を言うべきかわかっていなかった。
「その……あ、俺たち学校祭で今練習している曲をやるつもりなんだ。もし興味があるなら、見に来るといいと思う」
 なぜか宣伝してしまい、俊自身も戸惑ってしまう。しかし、侑里はくすりと笑った。
「気が向いたら、考えておきます」
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