第6話   Phase5

文字数 1,074文字

 ギターを弾いていた人物が蒼だとわかってから一週間。蒼は空き教室でギターを弾かなくなってしまった。俊はしんと静まり返った学校から帰るようになっていた。
(……なんか疲れた。陸斗くんのところに行こう)
 いつもより少し早めに学校を出た俊は、陸斗がやっているカフェに立ち寄った。
「おー、俊。ギターか?」
「うん。ちょっと弾かないとやってられない」
「溜まってんなー。上、行ってていいぞ。今お客さんいるから」
 陸斗の指し示す方を見て、俊は息を飲んだ。
(そう)()くん……?」
(あい)()くん……!」
「え? なに、知り合い?」
 陸斗は状況を飲み込めていない。けれど、互いに知っている仲なのだろうことは察して、俊にも飲み物を出してやった。
「あー、学校一緒なのか。クラスも一緒?」
「いや、クラスは違う」
「クラス違うのに知り合いなの?」
「ちょっとね」
 陸斗の問いかけに、俊は少しぼかした言い方で返す。蒼は俊の隣で居心地が悪そうに座っている。
「あ、の……!」
「んー?」
「店長さんと、(あい)()くんは、どんな関係なんですか?」
「叔父さんと甥っ子」
 蒼は驚いたように俊と陸斗を見比べる。
「くん付けで呼んでたのに……?」
 蒼は信じられないと言いたげな目で俊を見る。
「高校生からくん付けで呼ばれたら、若返った気分になるだろ? 俺がお願いしてるんだよ」
「そうでしたか」
 蒼はあっさりと信じる。それから、おそるおそるもう一つ質問を重ねた。
「あの、ギターって……?」
「ああ、俊もギター弾くんだよ。あれ? 知らなかった? てっきりそれで知り合ったんだと思ってたんだけど」
 俊は遅かったと肩を落とした。
「陸斗くん、俺、そのこと学校の人には秘密にしてるんだけど」
「そうなのか! ごめんな」
「別にいいけど」
(あい)()くん、ギター弾くの……?」
 俊が思った通り、蒼が食いついてくる。隠すことなどどうでもよくなってしまい、俊は素直にうなずいた。
「聴いてみたいな……」
 蒼の小さなつぶやきを、俊は聞き逃さなかった。
「じゃあ、明日、学校でならいいよ」
「なんで?」
「俺、そろそろ帰らないと怒られる。だから、明日学校で」
「……うん」
 渋々といった様子だったが、蒼は了承した。
「陸斗くん。明日の朝、ここ寄っていい?」
「いいよ。ギター持ってくんだろ? 家には置いておけないしな」
 陸斗はすぐにうなずいた。
 それを見届けると、俊は急いで家路についた。少し走ったからか、いつもとそう変わらない時刻に家に着く。一度息を整えて、俊は家に入った。
 自室のベッドに身を投げ出してから気づく。
「ギター、弾いてなかった……」

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