第32話 Phase31
文字数 1,066文字
八つ当たりだとはわかっていた。けれど、あれは耐えられなかった。
(蒼には、責められたくなかった……)
自分でわかっている。父親に反抗してまでやろうとしていない。蒼と比べて、意志が弱いと。そして、それを理由にして逃げようとしていると。
(逃げたくないのに、逃げざるを得ない……いや、これは自分を正当化しているだけで、何も解決していない。俺は……)
「相 馬 くん。聞いていましたか」
俊は現実に引き戻された。
(そうか……塾、結局来たんだっけ)
マンツーマンの個別指導。休んだらすぐバレてしまう。
「すみません……」
「では、もう一度言います。今度はよく聞いてください」
塾の先生は真面目そうで、息が詰まりそうな雰囲気が流れる。
「では、同じような問題をもう一度解いてみてください」
俊は集中しきれないまま、苦手な問題に取り掛かるしかなかった。
(最悪だ……初日からこれはきついな……)
俊は集中しきれていなかったため、問題を間違えに間違えたのだ。
(自信があったわけじゃないけど、心を折られた気分だ……)
塾が終わるころには空は暗くなっていた。俊は体を引きずるようにして歩き出す。
(俺がもっとがんばっていれば、蒼とのギターの時間も奪われなかったはずなのに……)
俊の肩にはらりと雪が落ちる。
(俺は何をしているんだ。俺がやりたいことはこんなことじゃない。俺がやりたいのは)
走馬灯のように、ギターを弾いていた時間が、蒼と過ごしていた時間が頭の中を駆け巡った。
「蒼と、ギターを弾きたい……!」
俊の声は周りのざわめきにかき消された。雪に降られるのも放っておいて、俊は走り出した。
(やっぱり、戦おう。蒼は本当の自分になるためにギターを弾いてるって言ってた。俺も、そうなりたい!)
そう決心した翌日。俊は学校に行くことができなかった。
(このタイミングで風邪とか……最悪だろ。しかもここ数年、熱なんて出してなかったからしんどいし)
息が苦しい。寝ようと思うのに、うまく寝付けない。
(もしかして、バチが当たったのか……? 俺が、やりたいことから、ギターから逃げようとしたから)
そう思った途端、俊はなんだかおかしくなってしまった。
(体もおかしくなるくらい、諦めるの嫌だったんだな……けど、これでよかったのかもしれない。自分の気持ちが、ちゃんとわかったんだから)
俊がうっすらと口元に笑みを浮かべた時、ノックとほぼ同時に部屋のドアが開いた。
「やあ、俊。元気してる? あ、風邪なんだっけ。じゃあ元気じゃないねー」
俊は熱があることも忘れて飛び起きた。
「姉ちゃん⁉︎」
(蒼には、責められたくなかった……)
自分でわかっている。父親に反抗してまでやろうとしていない。蒼と比べて、意志が弱いと。そして、それを理由にして逃げようとしていると。
(逃げたくないのに、逃げざるを得ない……いや、これは自分を正当化しているだけで、何も解決していない。俺は……)
「
俊は現実に引き戻された。
(そうか……塾、結局来たんだっけ)
マンツーマンの個別指導。休んだらすぐバレてしまう。
「すみません……」
「では、もう一度言います。今度はよく聞いてください」
塾の先生は真面目そうで、息が詰まりそうな雰囲気が流れる。
「では、同じような問題をもう一度解いてみてください」
俊は集中しきれないまま、苦手な問題に取り掛かるしかなかった。
(最悪だ……初日からこれはきついな……)
俊は集中しきれていなかったため、問題を間違えに間違えたのだ。
(自信があったわけじゃないけど、心を折られた気分だ……)
塾が終わるころには空は暗くなっていた。俊は体を引きずるようにして歩き出す。
(俺がもっとがんばっていれば、蒼とのギターの時間も奪われなかったはずなのに……)
俊の肩にはらりと雪が落ちる。
(俺は何をしているんだ。俺がやりたいことはこんなことじゃない。俺がやりたいのは)
走馬灯のように、ギターを弾いていた時間が、蒼と過ごしていた時間が頭の中を駆け巡った。
「蒼と、ギターを弾きたい……!」
俊の声は周りのざわめきにかき消された。雪に降られるのも放っておいて、俊は走り出した。
(やっぱり、戦おう。蒼は本当の自分になるためにギターを弾いてるって言ってた。俺も、そうなりたい!)
そう決心した翌日。俊は学校に行くことができなかった。
(このタイミングで風邪とか……最悪だろ。しかもここ数年、熱なんて出してなかったからしんどいし)
息が苦しい。寝ようと思うのに、うまく寝付けない。
(もしかして、バチが当たったのか……? 俺が、やりたいことから、ギターから逃げようとしたから)
そう思った途端、俊はなんだかおかしくなってしまった。
(体もおかしくなるくらい、諦めるの嫌だったんだな……けど、これでよかったのかもしれない。自分の気持ちが、ちゃんとわかったんだから)
俊がうっすらと口元に笑みを浮かべた時、ノックとほぼ同時に部屋のドアが開いた。
「やあ、俊。元気してる? あ、風邪なんだっけ。じゃあ元気じゃないねー」
俊は熱があることも忘れて飛び起きた。
「姉ちゃん⁉︎」