第31話 Phase30

文字数 1,042文字

 俊と蒼は、互いを視線で刺し合う。
「本当に……? 本当に俊くんは、そう思ってるの?」
「……どういう意味だ」
 俊の目が細められる。
「……本気で嫌なら、私だったら何としてでも反抗する。塾だって、絶対行かないよ。でも、俊くんは塾に行かなきゃいけないから練習ができないって言った。それって、結局受け入れるってことじゃん。俊くんは」
「やめろ!」
 蒼の言葉を、俊は遮った。
「……わかってる、わかってるんだよ。反抗しなきゃって。でも、できないんだ……従うのが、当たり前になってたから、もう、怖いんだよ」
 消え入りそうな俊の声で、蒼は我に返った。
「ごめんね、俊くん。そうだよね、一番辛いのは俊くんだよね」
 蒼の言葉に、俊は返事をしなかった。そして、蒼を拒絶するように立ち上がる。
「俊くん……」
「……俺、戻るから」
 蒼はもう一度止めようとしてやめた。俊の雰囲気がそれを許さなかった。蒼だけが、静まった空間に残された。

 (なんであんなこと言っちゃったんだろ……)
 家に帰ってすっかり頭の冷えた蒼は後悔していた。
(俊くんが悩んでいたことは見たらわかったし、なんとか元気づけてあげたいって思ったのに。私の口から出たのは、俊くんを責める言葉。結局、俊くんを傷つけてしまった)
 言ってしまったことに後悔はしているが、嘘を言ったわけじゃなかった。
 もし蒼が俊の立場だったら、全身全霊で反抗しただろう。それは今もそう思っている。
(でも私ならこうするってだけで、俊くんにとっては、すごく難しいことなのかも)
「ああー!」
 なんだか自分に腹が立って、蒼は髪をかき乱した。ほどけた髪からヘアゴムが落ちた。
(だれが何と言おうと、私が俊くんを傷つけたのは事実。ちゃんと謝らなきゃ)
 蒼は俊に連絡しようと携帯を手に取った。
(……いや、やっぱりやめよう)
 蒼はベッドに携帯を投げ出した。
(直接言った方がいいよね)

 次の日、蒼は一日中俊を探していた。しかし、どんなに探しても俊は見つからない。とうとう蒼は、俊のクラスを訪ねた。
「え、(あい)()くん? 今日、休みだけど……蒼くん、(あい)()くんと仲良かったっけ?」
「ああ、ちょっとね。そっか、休みなのか。教えてくれてありがとう」
 蒼は笑顔を作ってその場から立ち去った。
(俊くんが休むなんてめずらしい……きっと、何かあったんだ)
 蒼は言い知れない不安に包まれた。

 「あの、すみません」
 蒼が声をかけると、店主は「やあ」と笑った。
「俊くんの家を教えてください」
 蒼にそう言われた陸斗は、驚いた顔をした。
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