第17話 Phase16

文字数 1,114文字

 放課後、俊と蒼はカフェに行った。
「いらっしゃ……って、俊か。めずらしい。後ろの子は……前に来たことあったよね?」
 陸斗は蒼のことを覚えていたらしい。蒼はぺこりと頭を下げた。
「陸斗くん、お願いがあるんだけど」
「うん、それはわかってる。とりあえず座りな。何か飲む?」
 陸斗はひょいとメニュー表を手渡した。
「蒼、何がいい?」
「え、でも……僕、今日はお金持ってなくて」
「気にすんな、サービスだよ。俊の友だちだしな」
 陸斗はウインクしてみせた。蒼は「ありがとうございます」とまた頭を下げた。
「それで? お願いの内容は?」
 俊と蒼の前に静かにカップを置くと、陸斗は本題をきく。俊からのお願いはめずらしいので気になっていたのだ。
「ここで、蒼とギター弾いてもいい?」
「? いいけど、持ってきてるのか?」
「今日じゃなくて、これからの放課後の時間」
「どういうことだ? 学校じゃ弾けないのか?」
 陸斗は首をひねる。俊が学校でギターを弾くと言ったのは、記憶に新しかった。
「だめってわけじゃないんだけど、ちょっと事情が……」
「秘密、にしてるんです」
 蒼がそっと打ち明けた。俊は驚いたように蒼を見た。
「秘密? どうしてだい?」
(思ったより深く聞いてくるな……良いって言ってくれると思ってたのに)
 俊はそう思いながら言い訳を考える。
「僕たち、来年の学校祭でやろうと思ってるんです。だから、それまでは秘密にしておきたくて」
「蒼」
 呼びかけてきた俊の口を、蒼は素早く押さえた。
「勝手で、ご迷惑なことはわかっています。でも、僕たち……」
「いいよ」
「え?」
 陸斗は蒼たちが拍子抜けするほどあっさりと許可を出した。
「別に、ギター弾くくらい好きにしてくれて構わないよ。ただ、ちょっと気になってね」
「どうしてですか?」
「だって、俊が学校にギター持って行ってからいきいきとしてたからさ。よっぽど楽しいのに、学校で弾かなくていいのかと思ったんだけど、杞憂だったみたいだな」
「俺の、心配してくれてたの……」
 俊はそうつぶやくなり、ふいと顔を背けてしまった。
「俊?」
「放っておいて大丈夫だよ、蒼くん。それ、照れてるだけだから」
「照れ、てる……?」
 蒼は数秒遅れて理解した。
「俊、店長さんに心配されてたのが嬉しくて照れてるの?」
「やめろ……言うな……」
 俊は震えている。横からのぞく耳は、真っ赤だった。
「あ、そうだ。俊たち、毎日ここに来るのか?」
「そうか、陸斗くんのお店、毎週水曜日が定休日だから……」
「じゃあ、水曜日は僕たちもお休みにする? 勉強だって放り出すわけにはいかないし、店長さんにも迷惑かけたくないし」
「……そうだな」
 俊は冷めてしまったミルクティーを静かにすすった。
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