第9話 Phase8
文字数 1,021文字
「蒼……」
俊の声に、蒼は目をゆっくり開けた。そして、にこりと笑う。
「何? 俊くん」
間違いなく、あの時の蒼だった。ギターを弾いていたのはこの子だ。
「……本当に化粧してなかったんだな」
「それが最初に言うこと?」
蒼はあきれたようにまた笑う。
「いや……だって、前は化粧してるように見えたんだ。頰が赤かったし、それに、普通にか、かわいいって思ったし」
「そ、そうなんだ……頰が赤かったのは、ちょっと緊張してたからかな……なんか、照れるね……」
変な雰囲気になりかけたので、俊は慌てて話を戻す。
「……今が、本当の蒼?」
「そうだよ」
蒼は微笑む。俊はまじまじと蒼を見つめる。
「……なんか、変かな?」
「……いや、全然」
「嘘でしょ。俊くん、何か言いたそうだもん」
蒼はスッと目を細める。それと同時に、空気も張り詰める。
「……やっぱり、変、だよね。女の子になりたいとか」
「そうじゃなくて……!」
俊は開きかけた口をまた閉じてしまう。
「……そうじゃないの? でも、俊くんは、めずらしいもの見てるみたいな目をしてる」
今度は蒼の言葉が俊に重く突き刺さる。否定ができなかった。
「……言うんじゃなかった」
そう言い残して、蒼は行ってしまった。
(俺は、傷つけるようなことを言ったつもりはなかった。でも、俺の言葉とか態度とかの何かが、蒼にはつらいものだったのかな……)
俊は自室のベッドに倒れこむようにして考える。
知らないわけではなかった。中学生のときにも聞いたことがある。でもそれは授業の中だけであって、自分の身近にいるなんて考えもしなかった。
「女の子になりたい、か……」
自分で口に出したのに、その言葉が重くのしかかる。
(別に、反感を持ってるとかじゃない。個人の自由だと思ってるのも本当。直接言えたらいいんだけどな……)
残念ながら、連絡先も交換し損ねた。俊に残された手段は一つだけだった。
「もう一回、話してみるか」
「離して」
「嫌だ」
俊をにらむ蒼は、怒りの中に悲しみを隠したような顔をしていた。
「頼む。もう一回、話がしたいんだ」
「なんで。もう話すことなんてない」
「俺にはあるんだ」
俊が声をかけていること、その相手が蒼であること、言い争いになっていそうなことなど、めずらしい条件が合わさって周りの視線が集まる。蒼は諦めたようだった。
「……わかった。話を聞けばいいんだろ。まったく……横暴じゃないか、こんなの」
俊がその言葉を否定することはなかった。
俊の声に、蒼は目をゆっくり開けた。そして、にこりと笑う。
「何? 俊くん」
間違いなく、あの時の蒼だった。ギターを弾いていたのはこの子だ。
「……本当に化粧してなかったんだな」
「それが最初に言うこと?」
蒼はあきれたようにまた笑う。
「いや……だって、前は化粧してるように見えたんだ。頰が赤かったし、それに、普通にか、かわいいって思ったし」
「そ、そうなんだ……頰が赤かったのは、ちょっと緊張してたからかな……なんか、照れるね……」
変な雰囲気になりかけたので、俊は慌てて話を戻す。
「……今が、本当の蒼?」
「そうだよ」
蒼は微笑む。俊はまじまじと蒼を見つめる。
「……なんか、変かな?」
「……いや、全然」
「嘘でしょ。俊くん、何か言いたそうだもん」
蒼はスッと目を細める。それと同時に、空気も張り詰める。
「……やっぱり、変、だよね。女の子になりたいとか」
「そうじゃなくて……!」
俊は開きかけた口をまた閉じてしまう。
「……そうじゃないの? でも、俊くんは、めずらしいもの見てるみたいな目をしてる」
今度は蒼の言葉が俊に重く突き刺さる。否定ができなかった。
「……言うんじゃなかった」
そう言い残して、蒼は行ってしまった。
(俺は、傷つけるようなことを言ったつもりはなかった。でも、俺の言葉とか態度とかの何かが、蒼にはつらいものだったのかな……)
俊は自室のベッドに倒れこむようにして考える。
知らないわけではなかった。中学生のときにも聞いたことがある。でもそれは授業の中だけであって、自分の身近にいるなんて考えもしなかった。
「女の子になりたい、か……」
自分で口に出したのに、その言葉が重くのしかかる。
(別に、反感を持ってるとかじゃない。個人の自由だと思ってるのも本当。直接言えたらいいんだけどな……)
残念ながら、連絡先も交換し損ねた。俊に残された手段は一つだけだった。
「もう一回、話してみるか」
「離して」
「嫌だ」
俊をにらむ蒼は、怒りの中に悲しみを隠したような顔をしていた。
「頼む。もう一回、話がしたいんだ」
「なんで。もう話すことなんてない」
「俺にはあるんだ」
俊が声をかけていること、その相手が蒼であること、言い争いになっていそうなことなど、めずらしい条件が合わさって周りの視線が集まる。蒼は諦めたようだった。
「……わかった。話を聞けばいいんだろ。まったく……横暴じゃないか、こんなの」
俊がその言葉を否定することはなかった。