第23話 Phase22

文字数 998文字

 「陸斗くん、なんか隠してるでしょ」
「隠してる……? 俺が? 何を?」
 陸斗のカフェが定休日の日に、俊は陸斗を問い詰めに行った。
「何をは、陸斗くんが知ってるでしょ。多分、俺と蒼に関わることだとは思うけど」
 陸斗と俊の視線がぶつかる。
(逸らしちゃダメだ)
 俊は力を入れて陸斗を見つめた。
「っはは。すげー目」
 吹き出すように陸斗が笑った。
「俊は鋭いな。まさか、こんなにすぐバレるとは思わなかったよ」
 陸斗の言い回しに、やっぱりな、と俊は思う。
「俊。お前、将来何になりたい?」
「何、急に……」
「いいから」
 陸斗に気圧されるように、俊は考え出す。
「うーん……医者、かな……」
「それ、本当に?」
 陸斗にそう問いかけられて俊は言葉を詰まらせる。本当に医者になりたいと思ったことはないのだ。
「……それと、陸斗くんが隠してることに何の関係があるの。陸斗くん、俺の質問に答えてないじゃん」
 俊は不服そうに陸斗をにらんだ。陸斗はやれやれとため息をつきながら一枚の名刺を俊に見せた。
「何これ?」
「それ、前に店に来た人の名刺。音楽会社の人のだ」
「たしかにそうだけど。もしかして……」
「別に、直接的に言われたわけじゃないんだけどな。でも、あからさまにそういうのは意識していたみたいだったから」
 俊は驚きで何も言えない。
「俊も蒼くんも高校生だろ? ギターは趣味で、ほかに目指してることもあるかもしれないと思ったんだ。先にこういうのを見せたら、目線はそれにしか向かなくなる。未来の選択を、狭めさせたくなかったんだ」
 俊はほう、とため息をつく。陸斗がここまで考えてくれていたとは思いもしなかった。
「まあ、いずれ話そうとは思ってたけどな。バレるのは早すぎたけど」
 俊は陸斗が見せてくれた名刺をじっと眺める。
「……ねえ、これ蒼に見せてもいい?」
「それは俊の自由だ。蒼くんに見せたっていいし、隠してたっていい。とりあえず、バレちゃったからそれはあげるよ」
 俊は名刺を取ろうとしたが、途中で手を止めた。
「どうした?」
「いや……なんでもないよ」
 俊は名刺を手に取る。それから席を立った。
「じゃあ、帰るね」
 鞄を持った俊がどこか危うげに見えて、陸斗は思わず声をかける。
「俊……大丈夫か?」
「何が?」
 きょとんとする俊に、陸斗はそれ以上聞くことはできなかった。
「……いや、なんでもない。気をつけて帰れよ」
 店を出た俊の姿が、夜に溶けていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み