第14話 Phase13
文字数 1,439文字
「俊。昨日は陸斗のところに泊まったそうだな」
「……はい」
静かすぎる夕食の席で、俊は父の顔色をうかがった。
「具合が悪かったらしいな」
「一晩泊めてもらったおかげで、良くなりました」
返事は必要最低限。長く話せば、どこかに綻びが出てしまう。
「そうか。ところで、この前の模試の結果だが」
父は声色を変えずに空気だけ重くした。それが逆に、俊へのプレッシャーとなる。
「理科が落ちているな。全体的にも伸び悩んでいるようだ。そんなことでは、あの医大には入れないぞ」
「……頑張ります」
そう答えると、俊は席を立つ。部屋に戻ろうとさた俊を、父が呼び止めた。
「俊。陸斗のところでくだらないことをやっているのではないだろうな。あんなもののせいで成績が落ちた日には、家に居場所はないと思えよ」
「……はい」
焦り、緊張、悔しさ、怒り。全てを飲み込んで、俊は部屋に戻った。
「くそ……っ」
俊は自室に入るなりずるずると座り込んだ。何も言い返せない。無力すぎる自分が憎い。
勉強のことを言われるのはまだいい。でも、ギターをあんなもの呼ばわりするのは許せない。
(くだらないだと……? 俺は、ギターに救われてるっていうのに)
けれど、それは言ってはいけない。下手をすれば、陸斗のところへは出入り禁止にされてしまうかもしれない。
(苦しい……)
俊はぼんやりと部屋の電気を見つめていた。
「俊くん? どうかした?」
蒼の声に、俊ははっと顔を上げた。心配そうな蒼の顔が目に映る。
「疲れてる? なんだかぼーっとしてるみたいだけど」
俊はゆるゆると首を振る。
「いや、大丈夫だよ」
「そう? なら、いいけど。ねえ、俊くん。今度、この曲弾いてみない?」
蒼は携帯から音楽を聴かせてくれる。明るい感じの曲で、耳に残りやすいリズムだ。俊は迷うことなくうなずいた。
「そういえば、この前のテスト、俊くんまた学年一位だったよね」
「あ、ああ……」
俊はなんだか微妙な顔をする。蒼はそれを見逃さなかった。
「……嬉しくないの?」
「……あんまり」
蒼はそれ以上何も言わなかった。それに踏み込んでもいいのかわからない。
「……蒼」
気まずく落ち込んだ空気を払うように、俊が口を開く。
「歌うのって、恥ずかしい?」
「歌? 全然。私、歌うのは好きだから」
蒼はなんでもないように答えて、むしろどうしてそんなことを聞くのかと不思議そうに俊を見た。
「陸斗くんが……前に蒼と会ったカフェの店長が、歌うのが恥ずかしいと思ってるのは、俺だけじゃないかもしれないって言ってたんだ。だから……」
「だから、私も恥ずかしいと思ってるかもしれないって?」
俊は不安そうにうなずく。それを蒼はあっけらかんと笑い飛ばした。
「そんなわけないじゃん! 私は、自分で望んで歌ってるんだよ。恥ずかしいなんて思わない。これが私なんだって、堂々と言えるような気がするから」
俊は目を見開いた。薄く笑った蒼は、今までに会ったどの女性よりも綺麗に見えた。それと同時に、心も決まる。
「蒼。俺、やっぱり歌ってみる」
今度は蒼が驚く番だった。
「え? どうしたの、急に。気なんか遣わなくていいんだよ。やりたい人がやればいいんだし」
「やりたいんだよ、俺。みんなの前で歌ってみたい。学校祭の時の蒼がかっこよく見えた理由、今わかった。堂々と、自分を表現していたからだ。俺も、そうしてみたい」
目を強く輝かせている俊に、蒼まで嬉しくなってしまう。
「そっか! じゃあ、一緒に歌おう!」
二人の笑顔が弾けた。
「……はい」
静かすぎる夕食の席で、俊は父の顔色をうかがった。
「具合が悪かったらしいな」
「一晩泊めてもらったおかげで、良くなりました」
返事は必要最低限。長く話せば、どこかに綻びが出てしまう。
「そうか。ところで、この前の模試の結果だが」
父は声色を変えずに空気だけ重くした。それが逆に、俊へのプレッシャーとなる。
「理科が落ちているな。全体的にも伸び悩んでいるようだ。そんなことでは、あの医大には入れないぞ」
「……頑張ります」
そう答えると、俊は席を立つ。部屋に戻ろうとさた俊を、父が呼び止めた。
「俊。陸斗のところでくだらないことをやっているのではないだろうな。あんなもののせいで成績が落ちた日には、家に居場所はないと思えよ」
「……はい」
焦り、緊張、悔しさ、怒り。全てを飲み込んで、俊は部屋に戻った。
「くそ……っ」
俊は自室に入るなりずるずると座り込んだ。何も言い返せない。無力すぎる自分が憎い。
勉強のことを言われるのはまだいい。でも、ギターをあんなもの呼ばわりするのは許せない。
(くだらないだと……? 俺は、ギターに救われてるっていうのに)
けれど、それは言ってはいけない。下手をすれば、陸斗のところへは出入り禁止にされてしまうかもしれない。
(苦しい……)
俊はぼんやりと部屋の電気を見つめていた。
「俊くん? どうかした?」
蒼の声に、俊ははっと顔を上げた。心配そうな蒼の顔が目に映る。
「疲れてる? なんだかぼーっとしてるみたいだけど」
俊はゆるゆると首を振る。
「いや、大丈夫だよ」
「そう? なら、いいけど。ねえ、俊くん。今度、この曲弾いてみない?」
蒼は携帯から音楽を聴かせてくれる。明るい感じの曲で、耳に残りやすいリズムだ。俊は迷うことなくうなずいた。
「そういえば、この前のテスト、俊くんまた学年一位だったよね」
「あ、ああ……」
俊はなんだか微妙な顔をする。蒼はそれを見逃さなかった。
「……嬉しくないの?」
「……あんまり」
蒼はそれ以上何も言わなかった。それに踏み込んでもいいのかわからない。
「……蒼」
気まずく落ち込んだ空気を払うように、俊が口を開く。
「歌うのって、恥ずかしい?」
「歌? 全然。私、歌うのは好きだから」
蒼はなんでもないように答えて、むしろどうしてそんなことを聞くのかと不思議そうに俊を見た。
「陸斗くんが……前に蒼と会ったカフェの店長が、歌うのが恥ずかしいと思ってるのは、俺だけじゃないかもしれないって言ってたんだ。だから……」
「だから、私も恥ずかしいと思ってるかもしれないって?」
俊は不安そうにうなずく。それを蒼はあっけらかんと笑い飛ばした。
「そんなわけないじゃん! 私は、自分で望んで歌ってるんだよ。恥ずかしいなんて思わない。これが私なんだって、堂々と言えるような気がするから」
俊は目を見開いた。薄く笑った蒼は、今までに会ったどの女性よりも綺麗に見えた。それと同時に、心も決まる。
「蒼。俺、やっぱり歌ってみる」
今度は蒼が驚く番だった。
「え? どうしたの、急に。気なんか遣わなくていいんだよ。やりたい人がやればいいんだし」
「やりたいんだよ、俺。みんなの前で歌ってみたい。学校祭の時の蒼がかっこよく見えた理由、今わかった。堂々と、自分を表現していたからだ。俺も、そうしてみたい」
目を強く輝かせている俊に、蒼まで嬉しくなってしまう。
「そっか! じゃあ、一緒に歌おう!」
二人の笑顔が弾けた。