第7話   Phase6

文字数 1,105文字

 俊は朝から陸斗の店を訪れた。店といっても、それと併設されている住居の方だが。
「おはよう、陸斗くん」
「あー……おはよう、俊」
 陸斗はボサボサの髪のままあくびをする。その姿に、思わず俊は苦笑いする。
「相変わらず、すごい寝ぐせ……」
「いやいや、これからちゃんとかっこよくなるし。はい、ギター」
 俊はギターをしっかりと受け取った。
「俊。楽しんでこいよ」
 そう言って、寝起きの顔のまま、陸斗はウインクした。

 放課後。俊と蒼は空き教室で向かい合っていた。
「なんで、正面なの……」
「横に並ぶのも、おかしいかと思って」
 嫌そうな顔をする蒼に、俊はしれっと答える。
(あい)()くん、本当にギター持ってたんだ……」
「それで嘘ついても、俺にメリットなんかないからな。(そう)()くんは……」
「蒼でいい。呼び捨てで」
 俊の言葉を遮ってまで、蒼はそう言った。
「……じゃあ、俺も俊でいい」
 俊は短く言うと、言いかけてた言葉を続ける。
「蒼は、なんでギター弾いてんの」
「なんでって……好きだから、かな」
 蒼は俊の質問に困ったように答える。ギターを弾く理由としては、正しい答えだろう。
「俊は、何か理由あるの?」
「俺は、自分が自分であるために弾いてる」
 蒼は、俊の言っていることがよく理解できなかった。
「自分が自分であるために?」
「……俺は、ギターがなくなったら、俺じゃなくなる」
「……どういうこと?」
 蒼は眉をひそめる。俊は一呼吸おいて、話し出す。
「俺の家、代々医者なんだ。だから、小さい頃から医者になれって言われてきた。俺も、そうなるんだと思ってたんだ。でも、陸斗くんがギターを弾いてるのを見て、ギターが好きになった。誰かの言いなりじゃなくて、自分で好きになったのは、ギターが初めてだから。俺は、ギターに自分の意志が宿ってるような気がするんだ」
 そう言って、俊はじっとギターを見つめる。ものすごく悲しい目に見えて、蒼は思わず目をそらした。
「……俊は、なんで秘密にしてたの? 自分であるためのものなんでしょ?」
「人に聴かせるために弾いてるわけじゃないからな。ギターがあるって思ってるだけで、心理的に楽だったっていうのもあるし」
「そうかな。僕は、人に聴いてほしいって思うけど」
 自分とは反対のところにいる気がして、俊は掘り下げる。
「逆に、なんで人に聴かせたいんだ?」
 蒼は一瞬息が止まった。それでも、昨日の時点で覚悟は決めていたから、答えた。
「僕にとってギターは、本当の自分の居場所だから。僕はここにいるって、発信したい」
「本当の、自分……」
「僕は……」
 蒼の息が揺れる。震える手で鞄をまさぐると、蒼は赤いリボンを取り出した。
「本当は、女の子になりたい」
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